第19話無職でもパーティでクエストに行ってもいいですか?
温かい太陽の日差し、一点の雲もない青空。涼しげな風が吹いて野原の草木を揺らし吹き去っていく。何をするにしても適している日と言っても過言ではないかもしれない。
広い野原で動物と戯れるのも良いでしょう。あるいは動物と追いかけっこしても楽しいでしょう。動物に一方的に追いかけられるのも好かれている証拠かもしれません。俺の仲間にも動物に好かれている人がいます。まるでヘイトスキルを常時発動させているのか? と思わせるほどの好かれっぷりです。
そして彼女は今現在も追いかけられてます。牛によく似た生き物に……。
「ギャァァァ! いくら走っても追いかけてくるじゃない! ムショさん助けでぇぇ……」
女神とは到底思えない叫び声を発しながら猛ダッシュするカナ。その叫び声に向かって突進する牛に酷似した生き物は今回のクエストの討伐対照の魔物だ。
追いかけられている様子を少し遠くの場所から見守る3人。だが、俺を除いたスレンとネビアは不安そうな顔でカナを眺めている。
「なあ、カナを助けなくていいのだろうか? 助けを求めてるぞ」
「そうですよ! あの様子だとその内追いつかれると私の宇宙が叫んでます!」
「大丈夫だ。ああいう役はカナが1番合ってる。それにこの作戦には、カナが近くにいるのが条件だからな」
俺は自信を持って2人に告げる。かれこれ20分以上走り続けているんだ。まだ大丈夫だろう。
確信している俺は先程の作戦の内容を思い出す。
〜30分前〜
[★★☆☆☆ スプリントバッファローを5体討伐せよ!]
依頼によると、普段は大人しいバッファローが最近になって活発に活動するようになり、街の外に出た人の怪我が多くなっているようだ。これ以上活発になってしまうと街へ侵入する可能性もあるため対処してほしいという依頼だ。ちなみに、スプリントバッファローの肉は非常に美味しいらしく、部位によっては高値で売れるらしい。
受付嬢の話によると、スプリントバッファローが活発になるのは近くで何か異変が起きる前兆だとか……。
本当かどうかは定かではないが、火の無い所に煙は立たない。十分に注意して欲しいと警告された。
「と、いうわけで今回のターゲットはスプリントバッファローだ」
バッファローが活動している近くの野原で3人にクエストの趣旨を説明する。
「「肉食べたい! (です!)」」
カナとスレンは口を揃えて言う。こいつら、最後の部分しか聞いていなかったようだ。口元によだれを垂らしている2人を睨みつけるが、肉のことで頭が一杯なのか幸せそうな顔をしている。まぁ……やる気を出してくれるならなんでもいいか。
「細かいことは分からないが——とりあえず倒せばいいんだな!」
元気よく返事をするネビア。3人の中で1番マシなのはネビアなのかもしれない。バカだけど……。
とりあえず今日の趣旨を説明し終えた俺は作戦を伝えようと3人を手招きして集める。3人を集めると耳打ちするように顔を近く。
「いいかお前ら、ギルドにいた酒飲みのおっちゃんから聞いた情報なんだが、スプリントバッファローは一定時間走ると疲れて動きが鈍るらしい。そうさせる為の囮が必要なんだ」
うんうんと頷く3人。続けて説明をする。
「その囮をカナにやってもらいたいんだ」
うんうんと頷く3人。その数秒後、カナは驚いた顔でネビア、スレン、俺を交互に見合わせる。
「私!? む、無理よ! だって……ほら、私って脚遅いじゃない。だからムショが適任だと思うわ。うん、きっとそうよ! 大体なんで私が囮なんてしなくちゃならないのよ!」
慌てて手を振りながらこちらに向かって指を差すカナ。足が遅いと言い訳もしているが、俺は知っている。以前アクアクラブの討伐の際こいつの全速力の走りを見ている。なのでこの言い訳は通用しない。そしてこいつが囮をするのにはちゃんとした理由がある。
「お前の足の速さは知ってる。お前が囮をする理由は、そのハープが必要だからだ」
俺はカナの腰元に掛けてあるハープに指を差す。ハープを見つめながら不思議な顔をしている3人。
「これのなにが必要なのよ?」
「そのハープを使って、この前やったサイレントハープをしてもらいたいんだ」
そう説明すると、手をポンッと叩いて理解した様子のカナ。スレンとネビアはまだ理解できていないようだが、今はカナさえ分かってくれていれば問題はない。
「どうだ? カナにしか出来ないことなんだ。頼むよ」
カナは顎に手を当ててしばらく考えている。すると、
「しょうがない……私がいないと本当にダメムショね! この私に任せなさい!」
悩んだようだが納得してくれたようだ。でもこいつ後で締めてやる……。
「ムショさん! 私たちは何をやればいいんですか?」
自分の役割の詳細を楽しみに待っているスレン。ネビアも数回頷き、スレンと同意見なことを体で示す。
「お前らは後で手伝ってもらうから今はここで俺と待機だ」
そう指示すると2人は頷いて体育座りをして指遊びを始めた。すごい自由人だと2人を見て改めて思う。普通ならこう……もっとあるはずなんだが……。
「ムショ! 私はどうすればいいの? 行くなら早くいきましょ」
急かされた俺はカナと一緒にスプリントバッファローの場所へ、音を立てないよう気をつけながら歩いて向かう。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます