第18話
ポイントを割り振ってみたものの、特に体に変化は感じられない。習得する前と全く変わらない気さえする。そもそも『? ? ?』に入れたこと自体が意味なかったのではないだろうか。自分のカードを凝視し、名前も詳細もわからないスキルに20ポイントも入れてしまった自分に後悔してしまう。
「どうですか? 何か変化あります?」
スレンは口を動かしながら俺の変化について聞いてくる。変化を感じない俺は正直な感想を述べる。
「いや、特に変わったことはないな。20ポイント割り振ったんだけど、これで習得できたことになるのか?」
そう言った途端、スレンは思考が停止したかのように動きが止まる。そして数秒の沈黙の後、椅子から勢いよく立ち上がり前のめりになって口を開く。
「2、20ポイントも割り振ったんですか!?」
何かいけない事でもしてしまったのだろうか? お試し感覚で割り振ってみたが、やっぱり失敗してしまったか……。
「だ……駄目だったか?」
恐る恐るスレンに尋ねる。仮に失敗したとしても、まだ30ポイントは残っている事だ。挽回はできると思うが……。
「訳のわからないスキルに、20ポイントも入れちゃうムショさんに驚かされちゃいました。いいですか、スキルというのは数段階に別れているんです。初めは技自体の取得。次に詠唱の短縮だったり、威力の増加をしていきます。下級職のスキルなら10ポイントくらいで十分だと思いますよ。」
説明を終えたスレンは座って再び料理を口に運び始める。説明の内容をある程度理解した俺は、カードのスキル欄を見て確認する。『? ? ?』の他には、筋力や俊敏など身体能力の欄しかなく、あまり魅力を感じない……。
もしかすると『? ? ?』は身体能力をランダムで上げるのではないだろうか? もしそうだとしたら、残りの30ポイントもこれに全振りした方がいいのでは?
「まっ……後で考えればいいか」
酒で少し酔っているせいもあるのか、あまり考えることもせず『? ? ?』に残りのポイントを全振りする。
「ああああああ!! 今話したばっかりなのに、何してるんですか!」
「別にいいだろ。スキルポイントってまた貯まるんだろ?」
叱り飛ばすスレンを宥め、カードをポケットに仕舞い料理を食べる。スレンは『そうですけど……』と、歯切れ悪そうに言う。何か言いたげな様子なのが見て分かったが、あまり気にしないことにした。
しばらく後、腹一杯食べて満足した俺たちは家に帰る為、ネビアとカナを起こす。しかし、全く起きる様子のない2人。
「この大きな荷物をどうしてやろうか……置いてくか?」
「駄目ですよ! ネビアはともかく、カナを置いていくと後が怖いと、私の宇宙が言ってます」
「仕方ない……背負っていくか。ネビアは俺が背負うから、スレンはカナに肩を貸してくれ」
俺はネビアを背中に密着させ、持ち上げる。背中に柔らかい感触がダイレクトに伝わってくるのが分かる。
「ムショさんの変態……」
肩にカナを背負っているスレンは俺を薄目で見つめる。なんでバレたんだ? そんなに顔に出てただろうか……。反論しようにも正論を言われてしまったので言い返すことが出来ない。
「ほら行くぞ!」
大声で誤魔化した俺は早々にギルドを出る。少し時間は掛かったが、無事家に辿り着いた俺たちはネビアとカナを部屋に連れて行きベットに置く。スレンもカナを引きずって疲れたのか『眠ります……』と言って、早々に部屋に戻って行った。
部屋に戻った俺も床に入ろうとしたが、なかなか寝付けない。その原因はすでに知っている。ネビアのせいだ。
あいつの背中の感触が忘れられずにモヤモヤしていたからだ。
「……風呂……入ろうかな」
風呂に入って気を紛らわすべく、俺は風呂へ向かう。脱衣所で服を脱いで素裸になり、風呂場の戸を開ける。その先にあったのはまるで銭湯のように広い風呂場。湯船のお湯は獅子のような石像が口から途切れる事なくお湯を流し続ける。1人で入るには広すぎるくらいだ。
「風呂屋にも全く引けを取らない風呂じゃないか! これなら毎日入っても良いかもしれない」
少しテンションが上がった俺は嬉々として身体を洗い始める。身体を一通り洗い終え、湯船に浸かる。
「ハァ……気持ちいい……」
疲れた身体にお湯の温かさが染み込んでる気がする。昔プレイしたゲームで温泉に入ってHPを回復している主人公に納得できなかったが、今なら主人公の気持ちがわかる。これは回復しますわ……。
昔のことを考えながら湯船でのんびりしていると、戸の向こうにある脱衣所の方から布が擦れている音が微かに聞こえる。泥棒か何かだろうか? あの3人は寝ているはず……もしかすると幽霊!? まだ見たことは無いが、この家なら出て来てもおかしくは無い。
正直こんな真っ裸で無防備の状態で襲われたら勝ち目はないと思うが、何がきてもいいように両手を構えて警戒態勢を取る。
脱衣所の方から戸に向かって人影が少しずつ大きくなる。次の瞬間、ガラリと戸が開く。
「やはり、寝る前に風呂は欠かせないな!」
なにやら聞き覚えのある声がゆっくりこちらに近づいてくる。そこにいたのは一糸纏わぬ姿のネビアが俺の前で堂々と立ち塞がる。
「ん? ムショもいたのか! 奇遇だな! どうだ? まだ知り合って間もないことだ、互いに背中を洗いっこでもして親睦を深めるのも……」
「出てけ! これ以上俺を惑わせるなあああ!」
この子に羞恥心というものは無いようです……。
続く
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