第15話無職でも掃除してもいいですか?

 ネビアの昔話を終え、しばらく歩いてネビアの家……じゃなかった、俺たちの家に着いた。


「着いたぞ。ここが私たちの家だ!」

 元気よく言うネビアに対し、カナとスレンは少し怯えてるように見える。当然と言えば当然だ。蜘蛛の巣が付いている門、手入れのされていない庭園。お世辞にも綺麗とは言えない。


「私たちここに住むんですか……? 私の中の宇宙がここは危ないと言ってるんですが……」


「そうね……今日まで原っぱで寝ない? 掃除は明日やりましょうよ」

 カナとスレンはあまり乗り気ではなさそうだ。2人の気持ちは分からなくも無い。スレンの言ってることも半分は当たってる。ネビアが助けた老人は幽霊だったとしたら、この家は幽霊屋敷ってことになる。


「なぁ……お前って幽霊が見えたりするのか?」

 俺は2人に聞こえない程の声量でカナに耳打ちをする。するとカナは『えっ……?』と俺に青ざめた顔で聞く。


「もしかして……いるの?」

「分からないけど、もしかしたらいるかもしれない。お前女神なんだから除霊とかできないのか?」

 俺の質問にカナは首を横に振る。勢いがありすぎて首が取れそうなくらいだ。


「除霊は私の管轄外!」

 女神に管轄とかあるのかよ……。もしもの時少しは頼りにしようかと思っていたが、カナは役に立ちそうにないな。

 俺はカナのすぐ近くに立っているスレンにこっそり近づき声をかける。


「おい!」


 スレンは『ひゃっ!』と飛び跳ね、俺に警戒態勢をとる。

 まるでネコみたいだな。なんて思いながらスレンを笑う。


「いきなりなんですか! 心臓が飛び出るかと思ったじゃないですか!」

「悪かったって! なぁ、お前って幽霊が見えたりする?」

 スレンに平謝りするが、警戒を解こうとはしない。


「……見えたことはありません。でもこの家からは何か感じます」

 警戒は解きはしないが、スレンは俺の問いに応える。


 まぁ……少し不安はあるけど、カナもスレンも大丈夫だろ。もし俺の仲間が普通の人だったら止めていたかもしれないが、俺の仲間は普通じゃない。

 俺はカナとスレンの前に立ちはだかり宣言する。


「これから掃除をする!」

 目から光を失い俯くカナとスレン。

 そうなることを知っていた俺は2人に俺は続けて言う。


「ちゃんと自分で掃除した者には今夜の飯を奢ってやる」

 すると、失われた光がゆっくりと戻るかのように2人は顔を上げる。やる気を出してくれたようだ。財布は寂しくなるが、早く掃除が終わる方がよっぽどいい。


「ムショ! 今の言葉忘れないことね!」

「私は冷たいアワアワビールが飲みたいです!」

「スレンの要望は却下だ! 冷たいジュースにしろ。よし、じゃあ始めるぞ!」

 2人に指示する。カナはルンルン気分で家の中へ、スレンは頬を膨らませて俺を睨みながら中へと入っていった。


 ネビアは感心した様子で俺の指示を見ている。

「どうかしたか?」

「あの嫌がっていた2人をまとめて指示するムショに感服した」

 真っ直ぐな目で褒めてくれるネビア。照れた俺は足早に家へと向かう。


「あっ、待ってくれムショ!」

 呼び止められて振り向く。


「私の部屋は掃除されているので、掃除しなくてもいいだろうか!」

「いいぞ。お前だけ飯抜きにするから」

「そんなぁ……」

 キツい言葉を放ち、俺は家へ入る。ネビアもとぼとぼと俺に続いて入る。


 各自に掃除用具を持たせた俺は1人1人に指示する。

「カナとスレンは自分の部屋を掃除しろ! ネビアは廊下とリビングを頼む」


「「「分かったわ。分かりました。承知した」」」


 さて、俺もやるかな……自分の部屋を見てため息を吐く。両頬を軽く叩いて気合を入れた俺は掃除を始めた。



 数時間後……


「終わったー!」

 俺は綺麗にしたベットに腰掛けて部屋を見回す。どういうことでしょう。埃だらけで死んでいた部屋が匠の手によって生気を取り戻しました。1人ナレーションを終えた俺は立ち上がり、あの3人が掃除を終えたか確認することにした。


 まずはカナの部屋だ……ノックをして中にいるか確認する。


「カナー。もう掃除は済んだか?」


 声をかけても返事がない。ドアに耳を澄ますと微かにハープの音と複数の足音が聞こえる。ドアを少し開けて中を覗いてみると、ベットで座りハープを奏でてるカナがいた。その周りにはネズミのような生き物がせっせと掃除をしている。予想だが、あいつの音色に操られているのだろう。


「ムショのやつ驚くでしょうね。この子達が私の代わりに掃除してたなんてきっと気づかない……今夜のタダ飯が楽しみだわ!」


「あいつ……バレなきゃいいと思ってるな」

 温厚な俺もこれには怒らずにはいられない。言いたい放題言ってるカナに現実を突きつけるため、勢いよくドアを開ける。突然の出来事に思考が止まったカナはこちらを見つめるカナに対し、俺はカナを見下ろす。


「お前、飯抜き」

 一言だけ告げ、ドアを閉めてスレンの部屋へと向かう。ドアの向こうから『ムショさぁぁん! 話を聞いてくださぁぁぁい!』と、叫び声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。


 次はスレンの部屋……ノックをして確認する。


「スレン! いるか?」


 呼びかけたらすぐにドアが開き、スレンが顔を覗かせる。


「どうかしましたか?」


「いや、もう掃除が済んだか確認にきたんだ。終わったか?」


「終わりましたよ! 見てください!」

 スレンはドアを開けて俺を招き入れる。中に入ると綺麗に掃除されているのが見て分かった。

 どっかの女神とは大違いだな。


「どうですか! 綺麗になってますか?」

 ウキウキしながら俺の感想を待つスレン。


「ああ! 綺麗になってる。頑張ったな!」

 素直な感想を言うと、スレンは『えへへ』と、言って照れてる。

 喜んでくれたようだ。


「じゃあ後でリビングに来てくれ。ネビアの掃除が終わってたらご飯に行こう」

「わかりました! あっ……ムショさん」

 部屋を出る直前、スレンは俺を呼び止める。


「なんだ?」

「あのー……さっきこの辺りに何か落ちてませんでしたか」

「ん……いや? 何もなかったぞ」

 スレンの部屋に行くまでの道には何も落ちてはいなかった。小さいものなら見逃した可能性はあるかもしれないが、特に気になるものは落ちてなかったはず……。


「そうですか……なら大丈夫です。ありがとうございます」

「見つけたら拾っとくよ。じゃあ後でな」


 俺はスレンの部屋を後にする。ドアの向こう側でスレンが何か言っていたような気がするが、俺は気にせずにリビングへと向かう。



 続く

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