第14話無職でも昔話を聞いてもいいですか?

 食事を終えた俺たちは掃除をするために家へと向かっていた。カナとスレンは少し先を歩きながら雑談をしている。


 ネビアと並んで歩いていた俺は、仲間になりたいと言ってきたネビアに質問する。


「なぁ、なんでネビアは俺たちの仲間になりたいんだ?」

 ネビアの方に顔を向けて言うと、ネビアはしばらく沈黙して口を開く。


「昔の話になるんだが……いいだろうか?」

 ネビアの問いに俺は頷く。するとネビアは話し始めた。


「あれは10年前の出来事になる……」




 私の母は君達と同じく冒険者をしていたんだ。強かったよ。

 ムショ達よりも沢山の仲間がいて、人望があった母はそこでリーダーを務めていた。


 毎日クエストに行き、帰ってくるとギルドで飲み明かす日々。『今日は報酬が沢山入ったらからネビアも沢山食べな!』なんて言いながら、毎日私に美味しい食事を食べさせてくれた。仲間達と楽しく飲んでいる母の姿、ギルドのあの空気が私のお気に入りだったんだ。いつしか私もあの輪に加わりたいと思うようになっていた。


 未熟だった私はクエストには行けなかったが、代わりに毎日母の出発を見送っていたよ。『行ってらっしゃい』と言ってな。


 そして夕方になると街の入口で母の帰りを待つ。姿が見えると走って母の胸に飛び込む。


 これが私の日課だった。


 母に構ってもらえず寂しい時もあった。だが母の仲間に入れてもらう為、母に私の強さを認めてもらう為に必死で鍛錬をしていたよ。

 そして母がクエストから帰ってくるたびに言うんだ。『私をお母さんのパーティに入れて!』とな。


 だが、母はそのたびに私の頭を優しく撫でて『ネビアにはまだ早い。もっと鍛錬を積んで出直してこい』

 そう言って、ギルドで飲み明かす。これの繰り返しだ。

 当時は駄々をこねていたが、今になって母の気持ちが分かる。私を傷つけまいとして言っていたんだとな。


 そしてある日の夜。私は酔っている母に聞いた。


『どうして私をお母さんのパーティに入れてくれないの?』とな。


 それまで酔っていた母は物寂しげな表情で私を見ると、『ネビアには私より強くなる……今はまだ弱いかもしれない。でもすぐに……あなたが親切に、誰にでも優しく接していればその時はくる。その頃にはネビアが心から居たいと思えるパーティが見つかるはずよ……あなたの直感で決めていいわ。自分の居場所は自分で探しなさい』と言ったんだ。


 納得できるはずなかった。私の理想は母のパーティだったのだから。それを母本人に全否定させたような気がした私は怒って家に帰って泣きじゃくった。その日が母と最後の会話だと知らずにな。


 朝目覚めると、母の置き手紙があったんだ。

 手紙には、『いつか分かる日が来るよ。その日まで私が守るから。行ってきます』とだけ、書かれていた。


 見送りはできなかったが、鍛錬をして母の帰りを待った。


 何分も……何時間も。母は帰ってこなかった……。


 何日か後になって、母のパーティが魔物にやられてしまったと知らせを受けた……その日から何も手につけられなくなった。日課の鍛錬も止めて自分を責めた。


 私が駄々をこねたせいだろうか、私が朝の見送りをしなかったせいだろうか。


 あの日……私が母に対して怒ったせいだろうか。原因はいくらでもあった。


 その時、あの日の手紙を読み返したんだ。

『いつか分かる日が来るよ。その日まで私が守るから。行ってきます』と書かれた手紙を。

 母は私を見守ってくれている。今の私を母が見たらきっと激怒されてしまうだろう。


 そう考えた私はその日から鍛錬を再開し、困っている人には手を差し伸べた。

 私の居場所を見つけ、母を安心させるために。



「そしてムショを見つけた。と言うわけだ」

 話し終えたネビアは俺の方に振り向き笑顔を見せる。


「そうだったのか……いい母親だったんだな」

 俺はネビアに笑顔で返す。


「あぁ……私の誇りの人だ」

「でも俺のパーティで良いのか? 強くもないし、人数も少ないぞ?」

 ネビアに素直な疑問をぶつける。するとネビアは自信ありげに胸を張ってみせる。


「私の直感に間違いは無いぞ! 先程のギルドでの食事で感じた。母達といたあの感じによく似ていたからな」

「そっか……じゃあ、誇りに思わないとな!」

 そう言い切るネビアに俺も応える。ネビアは少し間を置くと、『あぁ!』と満面の笑みで言う。


 その声を聞いたカナとスレンは『何かあった(んですか)?』と、言いながらこちらに来る。

 俺とネビアは互いに顔を合わせて合図をする。息を合わせて2人に向かって声を放つ。


「「秘密!」」

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