第13話無職でも家と仲間を手に入れてもいいですか?
「痛い痛い! 力を緩めてくれ!」
力強すぎるだろ……まるでゴリラと握手してるかと思わせる程の怪力だ。掴まれた手を引き剥がそうと、力一杯引っ張るがビクともしない。
「あぁ! すまない。嬉しくてつい力を入れ過ぎてしまったな」
手を離すネビア。急に手を離された俺は勢いよく倒れ込んだ衝撃と共に埃が部屋中に舞う。
「痛たた……ゴリラみたいな力だな。ん、どうしたんだ?」
強打した腰をさすりながら立ち上がる。
「ムショ、私も女の子なんだ……ゴリラと言うのはやめて欲しい」
ネビアは少し残念そうな顔をして告げた。
確かに……ゴリラは言い過ぎてしまったかもしれない。うちのパーティが酷過ぎて思わずネビアにも同じような対応してしまった。申し訳なく思った俺は謝ることにした。
「ごめん。少し言い過ぎた……」
「せめてサルと同等の力と言ってくれ!」
あっ、分かった! ネビアってバカなんだ。理解した俺はにこやかな笑顔でネビアを見る。
「では、私は汗をかいてしまったので風呂に入ってくることにしよう。ムショはどうするんだ?」
「寝てた場所に置いてきた仲間に、家を貸してもらった事を知らせに行くかな」
「そうか! じゃあ私も一緒に行こう。少し待っててくれ」
ネビアはそう言うと、風呂に行くために部屋を後にする。しばらく暇になった俺は家を探索することにした。
いくつも部屋があり、どれに顔を覗かせても俺の部屋と大して変わらない汚れ。
しかし1つだけ手入れの行き届いた部屋があった。きっとネビアの部屋なのだろう。女子の部屋に入ることに多少の罪悪感はあったものの、興味の方が圧倒的に勝った。
「お邪魔しまーす……」
少しの緊張と期待感を持ちながら、誰もいない部屋に挨拶して中へ足を踏み入れる。これが女子の部屋……! 息を吸い込むと花の香りのようないい匂いがする。案内されたカビ臭い部屋とは大違いだ。
「これは……!」
ベットの方に目を向けれと、先ほどネビアが着ていたであろう服が脱ぎ散らかされている。そこには男のロマンがあった。胸を隠すための布と腰に身に着けるための布を優しく手に取って震える。ついに手に入れてしまった……これほどのお宝があるだろうか?
「俺は夢を手に入れてしまった……もう悔いはない」
「それは夢じゃないぞ? それはブラとパンツだ」
突然声をかけられた俺は、咄嗟に部屋の入口の方に振り向く。そこにはバスタオルに身を包んだネビアが立っていた。まだ乾ききっていない髪の先から落ちた滴の先には、少し強めに巻かれたバスタオルがネビアの体を包み隠している。だが隠し切れていない白く艶めいた太ももに俺は目を離せない。
「ムショ。私の体に魅力を感じてくれているのは嬉しいが……少々恥ずかしい」
ネビアは照れているのか、それとも風呂の火照りなのか判らない。
俺は無理やり視線をネビアの目に向ける。
「わ、悪い! い、いつからそこにいたんだ!?」
「ムショが私の部屋に入った所からだな」
「なら声をかけてくれよ! びっくりして心臓が止まるかと思ったぞ!」
俺はなにも悪い事をしてないネビアに大声で言う。
ネビアは笑いながら俺の元まで来る。
「驚かそうと思ったんだが、逆に驚かされてしまった。ムショは人を驚かせるのが得意なようだな!」
俺の行動を全く気にしてない様子のネビアはタンスから綺麗に畳まれた服を取り出してベットに置く。
「じゃ、じゃあ俺は外で待ってるよ! ゆっくり着替えてくれ」
「了解だ。あっ、ちょっと待ってくれムショ!」
部屋を出ようとする俺を呼び止めるネビア。
「どうした?」
「勘違いさせてはいけないな。実はさっきムショが手に持っていたパンツはジョギング用でな。いつも私が身につけているのは……紐パンだ!」
「お前に羞恥心はないのかぁぁぁあ!!」
着替え終わったネビアと共に俺はカナ達の所へ戻るが、カナとスレンはいなかった。きっとギルドで朝ご飯でも食べているのだろう。俺はギルドへ向かう事をネビアに告げ、ギルドへ向かう。
ギルドの中へ入ると案の定、カナとスレンはご飯を食べていた。
あいつらの元へ行くと、こちらに気づいたカナとスレンは手を振って合図をする。
「あんたどこ行ってたのよ? もうご飯食べ終わっちゃうわよ。ほら、あんたの分取っておいたから早く食べなさい」
カナはアクアクラブの足が乗せられた皿を俺の方に寄せて差し出した。
「おぉ! サンキュー……って、これ殻しかないじゃないか!」
「あんたが遅いのが悪いのよ!」
「もぉ……しょうがないですね。私の分をあげますよ。これで宇宙エネルギーを貯めてください」
スレンは口に咥えていた殻を皿に置く。
「お前のも殻だけじゃないか! いいよ、勝手に頼むから。ネビア、お礼にご馳走するから座ってくれ」
「良いのか? では、お言葉に甘えるとしよう」
俺とネビアは並んで座り、料理を注文するついでにネビアを2人に紹介する。
「彼女はネビア。さっきまで一緒にいたんだ。ネビア、この2人が俺の仲間」
「カナとスレンだったよな? 私はネビア。よろしく頼む」
ネビアは頭を下げてお辞儀をする。それにつられてカナとスレンもお辞儀をし返す。
全員名前を教え合った所で、俺はカナとスレンにネビアのお陰で住める家が見つかった事を話す。
『『本当なの(なんですか!?)!?』』
驚いた2人は席を立ち、前のめりになりながらネビアに聞く。テーブルに置かれた料理が動くほどの勢いだ。
まぁ、普通信じられないよな。俺は干渉せずに黙々と料理を食べる。
「ああ! 2人が良ければ是非住んでくれるとありがたい。ムショと2人でも良いが、人数は多い方が楽しいからな」
「もっちろん住むわ! もうあんな草の生えた場所で寝るのは嫌だもの。さっ! 沢山食べて! 全部ムショの奢りよ!」
「なんでも頼んでください! ムショさんの奢りなのでお腹いっぱい食べましょ!」
好き放題言う2人を睨みながらカニを食べる。
「ムショ。こんなに食べて良いんだろうか? なんだか申し訳ない」
「気にしないでくれ。家に住まわしてくれるんだから安いもんだ」
この2人にもネビアの謙虚さを見習って欲しいものだ。なんて思いながら、すでに仲良くなっている3人を眺める。
この3人って黙ってると美人と可愛いなんだけどなぁ……蓋を開けてみるとポンコツと変人とバカ。詐欺にでも会ってる気分だ。
軽くため息を吐き、俺はまた食べ物を口に運ぶ。
しばらくして食事を終えた俺たちは休憩がてら、これからの事について相談をすることにした。
「今日はクエストには行かずに、家に行って掃除をする。お前達が思っている以上に汚いからな。明日からまたクエストに行く——でいいか?」
俺の提案に、カナとスレンは頷き同意する。
「と言うことだから、ネビアの家に行ってもいいか?」
「3人は冒険者なのか?」
「そうよ! ムショを除いた私達は最強の冒険者と言っても過言じゃないわ」
ネビアの質問に虚言で答えるカナ。腹を立てた俺はテーブルの向こう側にいるカナの頬っぺたを力を込めてつねる。
カナは涙目になりながら「なにするのよぉ!」と、手を叩くが俺は微動だにせずにつねり続ける。
質問をしてしばらく黙っているネビアは何か考えているようだった。
そして考えが纏まったのか、俺にまた質問をしてきた。
「ムショ。家に住むことになるにあたって、もう1ついいだろうか?」
「どうした? 俺に出来ることならなんでも言ってくれ」
ネビアの問う。
家に住まわせてくれるんだ。多少の無理にも応えるのが当然の対応だろう。そう思った俺は誠意を持って答える。
ネビアは嬉しそうに口を開き言う。
「私も仲間に入れてくれ!」
2日連続で仲間が加わりそうです。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます