第12話無職でも家を欲しがってもいいですか?

 朝、寒さで目が覚める。

 夏が近いかもしれないが早朝はまだ寒い。それもそのはずだ、だって俺と女神が寝ているのは外なんだから!

 隣で寝ている女神は寒さに負けず、今もなお寝続けている。


 もう野宿は懲り懲りだ……家が欲しい。

 俺の体を包み込んでくれる暖かいベット、俺も男である以上誰にも邪魔されないプライバシーが欲しい。このポンコツ女神に欲情するまで所まで行ってしまったらそれこそ負けだ! こいつにだけはそういう目では見てはいけない、見たくない!


「はぁ……家が欲しい」

「どうした? もし困ってるなら家に来ても構わないぞ! 家が無いのか?」

「あぁそうなんだよ。家が欲しいけど今の所持金じゃあ厳しいんだよなー……えっ?」

 誰かに声をかけられ、振り向くとラフな格好をした女の子が隣に座ってる。


 話しかけてきた彼女は動きやすそうな格好をしており、その服から強調される胸。

 エ、エロい!

 顔立ちも整っており、美人とはこういう人のことを言うのだろう。

 彼女はこちらにグイッと顔を近づける。


「おい、大丈夫か? なんだか顔が赤いぞ」

「だ、大丈夫です! お姉さんは運動でもしていたんですか?」

「あぁ、日課のジョギングでな。ここを通ってみたら君たちがいたから声をかけてみたんだ」

「邪魔になってましたか? だとしたらすみません。」

「いや、構わない。寝るには最適な場所だものな! でも朝から寝るには少し寒くないか?」

 こちらを心配してくれている彼女。俺は彼女に家が無いことをもう一度改めて告げる。

 すると彼女は立ち上がり伸びをする。風が彼女の髪をなびかせ、気持ちよさそうに目を閉じる。


「でわ、一緒に行こう! 私の家に!」

 俺の手を掴んで立ち上がらせる。かと思いきや、俺を軽々と持ち上げて肩に背負う。

「しっかり掴まっててくれ。落ちたら痛いかもしれないからな」

「うわぁ! ちょ、ちょっと降ろして! 降ろしてください!」

 助走をする構えをとる彼女に降ろしてもらうよう頼む。彼女は俺の声なんて聞こえていないようで、踏み切ると今まで感じた事がないほどの風が顔に当たって通り過ぎていく。


 彼女は走れば走るほど速度が上がっていくのを肌で感じる。

「足速いですね!」

 俺は走っている彼女の肩から大声で言う。

「なにか言ったか?」

 彼女は俺の方に目をやりながら聞き返す。

 風の音にかき消されているのだろう。俺はもう一度繰り返す。


「あ、し! 速いんですね!」

「なんだって? なにも聞こえないぞ!」

「もういいです」

 聞こえない声でボソリと呟くと、彼女は『そうか』と応える。


「聞こえてるじゃないか!」

「なんだって?」

 しばらくこの会話が繰り返された。




 止まらず一定の速度で走っていた彼女の足がピタリと止まる。

 急に止まるので俺は勢いで落ちそうになった。


「着いたぞ。ここが私の家だ」

 彼女は俺を降ろして建物の方に指を差す。そして家の入り口に向かって歩く。


 置いてかれた俺は立ち止まってそれを見て固まった。

 木々が生茂ってる中にポツンと不気味な豪邸が建てられていたからだ。

 人の出入りを制限する蜘蛛の巣が張り巡らされた門を抜けると、手入れの全くされていない広い庭園があるのが見て分かる。

 その先には見上げる程の高さの屋根、拭くのが大変そうなくらい設置されている埃まみれの窓、RPGで出てくる幽霊が出てくる城のようだ。


 しかし、綺麗という点を除けば完璧な家だ。



「来ないのかー!?」

 遠くでこちらに手を振りながら待っている。

「あ、あぁ……」

 動揺を隠せない俺は恐る恐る豪邸の中へ向かう。


 中に入ると、外と大して変わらない汚さに思わず口を開けてしまう。

「こ……ここに1人で住んでるんですか?」


「そうなんだ。この前たまたまここを通ったら、ここでモンスターに襲われている老人がいてな。助けたらお礼にこの家をもらって欲しいと言われたんだ。私はいらないと言ったんだがな……向こうも強情だったから謹んでお受けしたんだ。しかし、1人で住むには少々広すぎる。誰か一緒に住んでくれる人がいれば私もこの家も嬉しい」

 彼女の説明を聞いて俺は感動していた。


 これが人の優しさ。

 この人は困っている人がいれば誰でも助けるのだろう。そして俺も彼女に助けられようとしている。


「しかし不思議なんだよな……」

 彼女は何か悩むように目を閉じて考えているようだ。

「なにがですか?」

「いや、大した事じゃないんだが。あの後、老人はどこに行ったんだろうと思ってな」

「別の家に帰って行ったんじゃ?」

「そうかもしれないな! スーッと消えたように見えたのはきっと私の思い過ごしだな。では、部屋を案内することにしよう」

 軽く流した彼女は廊下の奥へ歩く。


 またも俺は固まる。そして叫んだ。

「幽霊屋敷じゃないかー!!」

「君は元気がいいな! さぁ、部屋はここだぞ」

 俺の叫びを元気がいいで片付けた彼女について行くと、汚れてはいるが掃除をすれば快適になりそうな部屋だ。


「この部屋を好きに使ってもいいんですか?」

「私に敬語は使わなくていい。私は敬語を使われるほどの人間ではないからな」

「分かった。使わないようにするよ」

「助かる。この部屋は好きに使ってくれて構わないぞ。君には仲間もいたよな? ちゃんとあるから、部屋は君のものだ」

 彼女は部屋を歩きながら埃の被った鏡台の上をゆっくりと指でなぞり、フッと息を吹きかけて埃を飛ばす。その仕草がとても妖艶に見える。

 そしてクルリとこちらに振り向く。


「この部屋は気に入ってもらえただろうか?」

「あぁ! もったいなくらいだ。家賃はいくら払えばいい? 高くなければいいんだけど」

「気にしなくていい。私も貰ったのだからどうしようが私の自由だ」

「助かるよ! そういえば自己紹介がまだだったな。俺はショウタ、仲間からはムショって呼ばれてる」

「私はネビア。よろしく頼む! ムショ」


 自己紹介を終えた俺とネビアは握手をする。

 骨が折れるかと思いました。



 続く


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