第11話無職でも振り返って良いですか?
ギルドに戻り、討伐報酬を受け取ったショウタ達はテーブルに座る。泡まみれのカナ、服が焦げてボロボロのショウタ、そして申し訳なさそうな様子のスレン。3人は一言も話さず重い空気がショウタ達の周りに流れていた。
「あのぉ……ムショさん、もう何回も謝ったんですからそろそろ許してください」
「そうよ! 少し焦げるくらいいいじゃない。私なんて泡まみれなの! 結構ベタベタするのよ、これ」
「よくなーい! もう少しで丸こげになるところだったんだぞ!」
ショウタは席から立ち上がって怒りを露にしながらスレンとカナを指差す。
「大袈裟ね……死ななかったら平気よ。すいませーん! アワアワビールとアクアクラブの蒸し焼き持ってきて頂戴!」
「平気じゃねえよ! 大体お前が泡で拘束されなければこんなことにはならなかったんだ!」
——2時間前——
アクアクラブの討伐をすべく、3人は岩に擬態したアクアクラブに気付かれない距離で作戦会議を行う。
「いいか、アクアクラブは背中が弱点だ。俺とカナがあいつらの背中にこっそり近づいて1匹ずつ倒していくから、スレンは俺が合図したら何匹か固まってるアクアクラブを魔法で倒してくれ」
『『了解です(よ)』』作戦を教えてもらい、返事をする2人。
「よし、カナ行くぞ」
カナを連れ、アクアクラブの元へゆっくりと近寄っていく。
アクアクラブのすぐ近くまで近づくと、カナは俺の服を引っ張って俺の動きを止める。
「なんだよ?」
小声でカナに聞くと、ある提案をしてきた。
「2人で1匹ずつやるのって時間かかるでしょ。手分けしてやりましょうよ」
「いいけど、1人で大丈夫なのか?」
「私は女神よ! 心配無用よ!」
心配する俺をよそに、カナは自信満々に胸を叩いて言う。
「……分かった。手分けしよう。いいか、アクアクラブの正面と背中はよく似ているから間違えるなよ」
「間違えないわよ。じゃあ行くわね」
カナの提案を承諾し、アドバイスをした俺はカナが向かった方向とは別の場所へと歩く。
よし、気づかれてないな。岩に擬態しているアクアクラブは俺に気づかず岩のふりをし続けている。
こっそりとアクアクラブから離れ、助走をつけた俺は勢いよくアクアクラブの背中に蹴りをおみまいすると、アクアクラブはゆっくりと前のめりに倒れて動かなくなった。
「よし、1匹目! バレなきゃ何ともないな」
倒れているアクアクラブを見ながら一息つき、カナが向かって行った方に目をやると
アクアクラブに近づき、蹴りを入れようとしてるところだ。しかし、カナが立っていたのはアクアクラブの背中ではなく正面であることに気づく。
「カナ! ちょっと待て!」
俺は蹴りを入れようとするカナを最小の声で呼び止める。
「何よ? 聞こえないわよ」
振り向いたカナは俺の声は聞こえているが、何と言っているのか分からないようだ。
「お前が立ってる場所は背中じゃなくて正面だ!」
「聞こえないわ! 黙ってみてなさい! えいっ!」
「バカッ!」
遅かった……。
蹴りを入れられたアクアクラブはゆっくりと立ち上がる。そして正面に立っているカナに向かって勢いよく泡を噴射した。
「ギャアー! なんでこのカニこっち向いてるのよ! ムショさぁぁぁん助けてくださぁぁぁいい!」
泡に包まれたカナは泣きながら必死に叫んで助けを求める。それに合わせて、岩に擬態していた他のアクアクラブも立ち上がってカナに向かって走り出す。
マズい! このままじゃカナが襲われる! いや、もう襲われてるけど。
「スレーン! この作戦は中止だ! 一旦逃げるぞ」
カナを助けに走って向かう途中、スレンに作戦の中止を伝えるために手で大きなバツ印をして合図をして叫ぶ。
「ヒマです……」
暇そうにあくびをしながら体育座りをしているスレン。
「いつになったら合図が来るんでしょうか……あっ!」
ショウタが走りながらバツ印の合図をしているのを見つけたスレンはすぐさま立ち上がる。
「わかりました! そこに向かって打てばいいんですね!!」
スレンは杖を構えて呪文を唱え始める。
「スレン違う! 詠唱をやめろー!」
詠唱を始めるスレンを遠くで確認したショウタは必死に叫んで止めようと叫ぶ。止まる様子のないスレンとアクアクラブ。
「行きますよー! 宇宙のエネルギーよ。私に力を! エレクトサンダー!」
と、スレンが言うと黒い雲がショウタの上に集まり雷鳴が轟く。すると次の瞬間、空から無数の数の雷がショウタの上から周囲に降り注いだ。
雷が降り終わると、カナを除いたショウタを含むアクアクラブ達から煙が立ち込めていた。
そして現在に至る。
「あんなことがあったら誰でも怒るだろ!」
「だから悪かったって言ってるじゃないですかー! それに、討伐目標より多く討伐したので報酬も多くなったので結果的に良かったじゃないですか! 文句言うなら余分に貰った報酬をくださいよ!」
スレンは腹を立て、俺の頬っぺたを引っ張りながら怒る。
「それとこへは話がへつだ! はいたい、ひほがいふほとろにふかってまほうをうすはかがどこにいふんだよ! (それとこれは話が別だ! 大体、人がいる所に向かって魔法を打つバカがどこにいるんだよ!)」
俺もスレンの頬っぺたの両方を掴み引っ張る。
「いはいです! あやまひまふはらそのへをはなひてくだはい (痛いです! 謝りますからその手を離してください)」
「もう2人ともその辺にしておきなさいよ。早く食べないと私が全部食べちゃうわよ」
運ばれてくる料理を見ながらカナは2人に言う。
美味しそうな匂いにつられた2人のお腹が鳴る。互いに顔を見合わせ、引っ張っていた手を離すと静かに席に座る。
「腹減ったし食うか! スレンは別の飲み物な」
「なんでですかー! 私にもアワアワビール飲ませてくださいよ!」
「食べて飲みまくるわよー! あっ、今ムショが食べたやつ大きくない!?」
「まっ、スキルはこれから調べていけばいいか……」
無職に秘密があることを知り、これからの目標を見つけた俺は小さな声で呟く。
賑わっているギルドの中に楽しげな声が響いていた。
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