第9話無職でも仲間を増やしてもいいですか?その1

 少し背の低い女の子は、俺を引っ張り上げて改めてお礼を言う。


「さっきは助けて頂きありがとうございました。私はスレンと言います。あなたが通らなければ、もう少しで植物と一体化する所でした」


「初めは驚いたけど、なんともなくて良かったよ。俺の名前はムトウ ショウタ。もう1人仲間がいるんだけど、そいつからはムショって呼ばれてる。好きに呼んでくれ」

 ペコリとお辞儀をして丁寧に自己紹介をするスレンは乱れた髪を整える。

 その様子を眺めながら俺も自己紹介をした。


 スレンの横に燃えカスとなった植物を見ながら俺は質問をする。


「スレンはどうしてこの植物に入ることになったんだ?」


「少し考え事をしながらこの辺りを歩いてました。そしたら宇宙からの交信で、中に入ってしばらく待つようにと受信しました。 だから仕方なく中で言われた通り大人しくしてました。そして杖は溶かされ、どうしようかと思っていたらムショさんが来たわけ……なん……です」


 もの哀しげに俯いたサレンはジッとして動かなくなった。

 それも束の間、サレンは先程の表情とは打って変わり晴れた表情で勢いよく近づいてくる。


「なるほど! この人がそうなんですね!」


 スレンは俺ではない誰かと話をしつつ、俺との距離を詰める。


「ち、近い!」

 顔を赤らめながら俺は必死に叫ぶ。

 それでも近づいてくるサレンに俺は何もできない……まるで蛇に睨まれたカエルだ。


「私をムショさんのパーティに入れてください!」

 サレンの唇がもう少しで触れそうな距離で止まり元気よく言った。


「パ、パーティ?」

 予想外の出来事に俺は驚いて思わず聞き返してしまった。


「はい! いま宇宙から交信が来ました。『この男が、お前を仲間にしてくれるだろう』って宇宙が教えてくれたんです。だから私を仲間に入れてください!」


「申し立ては嬉しいけど、うちにはもう仲間がいる。それに冒険者かも分からない奴を入れることは……」


「ギルドカード持ってます! 私も冒険者です!」

 捲し立てるように説明してくるスレンは下のポケットからギルドカードを出して見せてきた。


 どれどれ……。

 冒険者サレン。

 職業ハイウィザード……ハイウィザード!?


 俺は驚いて目を丸くしながらサレンの方を見る。

「お前ハイウィザードだったのか! 上級職ならパーティを探すのに苦労しないだろ?」


「それは……」

 素朴な疑問にスレンは口をもごつかせる。


「宇宙とか言う嘘のことか?」


「嘘ではありません! 本当に私の頭には宇宙が広がってるんです! 今もこうして宇宙との交信がなされているんです」

 俺が指摘すると、スレンはすぐさま怒って反論した。


 スレンには申し訳ないが、うちにはもうすでに変人が1人いる。これ以上変人が増えるのは困る。

 例えそいつの職業がハイウィザードだとしても!


「あー……その宇宙には申し訳ないけど、うちは弱小パーティなんだ。お前ならもっと良いところがあると思うから、そっちに行った方がいいよ! またどこかであったらよろしくな! その杖は出会いの記念ってことでサレンにあげるよ! じゃあまたな」


 早口でそれらしい理由をつけてこの場から去ろうと俺は歩く。


「ちょ、ちょっと待ってください! 待って……わかりました!」


 何かを承諾したスレンは俺を食い止めるために俺の腕ごと抱きしめ、痛いほど強く拘束してきた。


「お、おい!! 何するんだ! 痛い痛い! は、離せ」

 必死に振りほどこうとするが一向に解ける感じはしない。


「ただいま宇宙から交信が来ました。『抱きつけばなんとかなる』そうです!」


「お前の宇宙はどんだけテキトーなんだよ! お前は女の子として異性に抱きついてなんとも思わないのか!」


「今はそんなことを考えてる場合じゃないんです! これ以上断られたらもうどこにも行くところがないんです! 弱小でもなんでもいいんです。私に居場所をください」

 スレンは拘束したまま懇願する。


 仕方がない……こいつに諦めてもらうには俺の職業を教えるしかない。

 俺が無職なのを知ったらスレンも諦めがつくはずだ。


「スレン! 悪いけど俺は無職なんだ。無職のパーティにいるなんて恥ずかしいだろ? 他へ行った方お前のためだぞ」

 そうスレンに告げると、あっさり拘束を解いてその場で一時停止した。


 ほぉら、俺の心も傷ついたが仕方がない。変人が増える方がキツい……。


「じゃあ俺は行くから……もう無理な申し出はやめと……」

 俺が言い終わる前にスレンは俺に目を輝かせて言った。


「無職って……すごい職業じゃないですか!」


 俺はスレンの言ったことを理解できなかった。

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