第8話無職でも人助けしていいですか?

ボロボロの状態でギルドへ戻った俺とカナは討伐予定のアクアクラブの途中報酬を受け取る為に受付嬢の元へ来た。


「アクアクラブを2匹討伐したので‥‥途中報酬を貰いに来ました」


「ご苦労様です。ずいぶん頑張ったみたいですね‥‥お疲れ様です」

ボロボロの俺と、アクアクラブの泡まみれになったカナを見て労いの言葉をかけてくれる受付嬢に思わず惚れそうになりかけた。


「これくらい当然のことです。お嬢さん、もし良かった俺たちと一緒に食事でも————」


「2匹討伐されてるので‥‥こちらが今回の途中報酬です。明日も頑張ってくださいね」


出せる美声を出したが軽くスルーされてしまった。恥ずかしがり屋さんめ。


「報酬も受け取ったことだし晩ご飯食べましょうよ。私もうお腹ペコペコよ」


「そうだな。俺も腹が減ったし明日に備えて美味いのもでも食べるか」


テーブルに座るとカナは真っ先に手を挙げて注文をする。

「すみませーん! こっちにアワアワビール2つと蒸したアクアクラブちょうだい!」


「お前さっきまで泡まみれにされ手た相手を食べるのか」

泡まみれってなんか響き————イイな。


「この世は弱肉強食なのよ。最後に生き残って食べた者勝ちよ!」


こいつ女神のくせに図太い神経してやがる‥‥‥こいつ実はサバンナの女神だったりするんじゃないか。

なんて考えていると、厨房の方から蒸されて真っ赤に染まったアクアクラブと前から飲んでみたかったアワアワビールがこちらのテーブルに運ばれてきた。


「アクアクラブの蒸し焼きとアワアワビール2つです! ゆっくりしていって下さいね」

そう言うとウェイトレスの子は厨房へと戻っていった。


置かれたアクアクラブの蒸し焼きを見てみると、さっきまで戦っていた敵の手足は綺麗に切断されて並べられてある。

殻は持ち手の部分を残して他のところは綺麗に剥がされているから殻と格闘せずにすみそうだ。

身がぎっしり詰まっているの噂通りのようで、その身から出てる湯気の香りは俺たちの食欲をさらに旺盛にしてくれる。


そして、そばに置かれてる圧倒的存在感のアワアワビール! 木の樽型のグラス注がれており、今にもアワがアワアワしていて溢れそうなくらいだ。

カナはヨダレを垂らして目を輝かせてる。そういう俺もよだれが今にも垂れそうだ。


「早く食べましょ!ムショ!」


「ああ! じゃあ——お疲れ!!」


手に持ったグラスを勢いよくカナのグラスにぶつけて、アワアワビールを口にした。

この一杯に勢い付いた俺たちは遅くまで堪能した。




次の日、残りのアクアクラブを討伐する為にリングスの外へと出向いた。

アクアクラブがいる原っぱに向かう為に森の中を歩いていると、昨日は見なかった大きい植物のような物が生えていた。


「なあ‥‥昨日こんなの生えてたか?」


「植物くらいどこにでも生えてるわよ。早くいきましょー」


面倒くさそうに返答し、カナはそのまま森を歩いて先に行ってしまった。


んー‥‥あったか? 人が入れそうなくらい大きいなら気付くけど。

まぁ‥‥いいか。


俺も無視して進もうとすると、どこからか人の声が聞こえる。

あたりを見回しても誰もいない。あるのは草と木と変な植物だけ。


一応返事しておくか。

後で独り言を言ってたわねってポンコツ女神に馬鹿にされるかもしれないけど。



「おーい! 誰かいるのかー?」


「ここです‥‥ここにいます‥‥」

なんか篭った声が近くから聞こえる。


「どこにいるんだー?」

どこかにいる誰かに問いかけると、植物のすぐ近くから声が聞こえた。


「植物の‥‥中です。溶かされる前に助けて下さい」

植物を見ると微かではあるが、もぞもぞと動いているのがわかる。

もしかしてこの植物って‥‥食人植物なのか!?


「待ってろ! すぐに助けるからな!」

俺は腰に備えてたナイフを取り、食人植物に突き刺そうとする‥‥が、植物の表面がツルツル滑ってナイフが突き刺さらない! どうして異世界の生き物は変な物ばっかりなんだよ!


「中にいる人! ナイフが突き刺さらなくて助けられないんだ。何か別の方法とかないか!?」


「この植物は内側から魔法をかけないとビクともしないんです」

魔法だって!? そんなの使えないぞ! あるのは念のために持ってきた杖くらいだ。

必死に考えていると、植物の中の人が俺に質問してきた。


「あのぉ‥‥魔法を媒介するための杖とかありませんか? 私も持ってはいたんですけど、植物の中に入った時に解かされちゃったんです。もし持ってるなら上の口に入れてもらえませんか?」

なんと言うことでしょう。杖ならここにあるではありませんか! 後でポンコツ女神に感謝してやろう。これで助けられるかもしれない!


「杖ならあるぞ! 待ってろよ」


俺は植物の口めがけて持ってた杖を投げ入れ、中にいる人に言う。


「これでいいか?」


「大丈夫でふぅ! ありがとうございます」

良かった。後は中の人がなんとかしてくれるだろう。


俺はしばらく待ってみるが中々出てくる感じがしない。大丈夫か? 

もしかして、俺が投げ入れた杖も溶かされた!? 


「おい! 大丈夫なのか? 返事をしてくれ!」

植物を叩きながら問いかけていると、植物の中でブツブツ言っている声が聞こえる。


「おい! なんて言ってるのか分からない! もっと大きな声で————」


「ファイアーバーナー!!」

そう聞こえた瞬間、植物が燃え上がり瞬く間に焦げついてしまった。俺は吹っ飛ばされ、ついでに俺も焦げかけた。


燃えた植物に目をやると、煙の中で人がフラつきながら立っていた。


「ケホッ‥‥ケホッ。火力の調整ミスっちゃいましたね。この中に入らなければこんなことにならなかったんですが‥‥これも私と宇宙の為! 仕方がないことですね! あっ‥‥忘れる所でした」

なにやら反省と意気込みを言ってる人が俺の所に近づいてきて手を伸ばす。


その手を掴んだ先を見ると、女の子がこちらを見つめ首を傾げていた。


「大丈夫ですか?」



続く




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る