第7話無職でもクエストに行ってもいいですか?その1

 ギルドのアルバイトを終えた俺とカナは受付嬢にバイト代をもらう為にカウンターに来た。受付嬢は小袋を持って俺たちを待ってくれていた。


「お疲れ様です! 手伝ってくれてありがとうございました。皆助かったって喜んでましたよ」


「俺たちでよければいつでも手伝いに来ますよ」


「私が手伝いしたんだもの、今日は繁盛したでしょ! なんなら多めにお金を入れてくれても良いわよ!」


 カナは親指と人差し指を擦り合わせて受付嬢に悪い顔をして見せた。


「すみません。こいつの事は気にしないでください」


「フフッ、少しだけおまけしておきました。本当に助かりました! こちらは今回の報酬です」


 神様だ! これが本当の女神様というものだ! それに比べてうちの女神ときたら‥‥。

 チラリとカナの方を見ると、子供がおもちゃを目の前にしている時のようにはしゃいでる。


 ハァ‥‥これが女神様‥‥か。

 そう思いながら俺はお金の入った小袋を受け取り、お礼を言ってギルドを後にした。


 俺とカナはギルドを出て、すぐに小袋の中身を確認する。


「10000ドール! たった1日でこんなに貰えるなら、もうギルドで働きましょ!」


「いーや! 俺たちは冒険者なんだから明日はクエストに行く! それに、これはあの人が多めに入れてくれたから10000ドールもあるんだぞ。次無駄使いしたらお前は武器なしでクエストについて来てもらうからな」


 なんでよ! なんて言いながらカナはむくれるてたけど、ギルドで働こうと言うに関しては俺も少しは同意せざるを得ない。

 ギルドでのアルバイトは結構楽しかった。1日ではあるけど、皆優しかったし。

 むこうにいた時はアルバイトなんてほとんどしなかったからな。また人手不足の時は手伝いに行くとしよう。


「よし、風呂行って寝るか」


「ちゃんと風呂出た後のコーヒー牛乳も忘れないでよね!」

 俺たちは雑談を交えつつ風呂屋へと行って1日を終えた。


 次の日、俺とカナはギルドへクエストを受ける為に再び武器屋へと足を運んだ。

 俺はすぐに昨日買おうとしてたブロンズナイフを取り、ハープを持って俺を待っているカナの方へと歩く。


「言っておくが、そのハープは買わないからな。早く返してこい!」


「嫌だ!! 私はこれが良いの!」


 駄々をこねるカナからハープを取り上げ、別の安物のハープを手に取り店主の方へと運ぶ。


「この2つお願いします」


「毎度あり。今日はちゃんとお金あるのかい?」


 からかうようにこっちを見る店主に対し、俺は腰の袋をポンポンと叩いてお金があることを証明する。

 確認した店主はまた武器に目を落とした。


「えーっと‥‥ブロンズナイフとウッドハープだから————1000ドールだよ」


「1000ドールだな。はい、これで丁度」


 支払いを終えた俺はナイフとハープを取って店を出ようとする。

 扉に手をかける前に店主に呼び止められた。


「兄ちゃん! あんた駆け出し冒険者だろ? 今サービスで駆け出しの冒険者にもう1本武器を無料であげてるんだ。この中から選んでくれ」


 そう言うと店主は下級職の武器が置かれてる場所から適当に何本か選んで持って来た。


「急にそう言われると悩んじゃうなぁ‥‥‥‥」


 どれにしようか吟味してると横からカナが入り込んで勢いよく武器を取る。


「これがいい! これ頂戴」


 カナが手に取ったのは魔法職が使う杖だ。

 なんで杖なんだ? こいつの扱える武器って楽器系の武器だったはずだけど。

 疑問には思ったが、俺は正直どれでも良かったので杖をもらうことにした。


「じゃあこれで」


「はいよ! じゃあ姉ちゃん兄ちゃん頑張れよ!」


 店主は応援の言葉と杖を残し、店の奥へと戻って行った。

 店を去ってギルドへと向かう道中、どんなクエストを受けようか考える。


「とりあえず、俺たちに合ったクエストがあると良いな」


「報酬金がいっぱいあれば何でもいいわ。なにせ私がいるんだもの」


「そうだな。なぁなぁで期待しとくよ」


 自信満々で言うカナに俺は少し安堵する。

 もしここに来たのが俺1人だったら不安だったかもしれないし、カナがいてくれて良かったのかもしれない。

 なんて考えている内にギルドへ着いた。中に入り、俺たちはクエストが貼られてる掲示板の方へ行く。


「何かいいクエストは————」


 左から右へ、右から左へと目をキョロキョロさせる。

 おっ? これなんて良いんじゃないか。貼られてる依頼の紙を剥がし、カウンターへ持っていき受付嬢に渡す。


「これをお願いします」


「ショウタさんこんにちわ。クエスト受注ですね」


 受付嬢は受注のハンコを依頼の紙に押す。


「でわ、頑張ってくださいね!」


「はい! カナ、行くぞ」


「ちょっと待ってよ! 何のクエストを受けたのよ?」


「後で教えてやるから早く行くぞ!」


 俺は期待に胸躍らせながらカナを連れてリングスの街の外へと向かう。

 リングスの街から少し離れた森を抜けて広い原っぱに来た。近くに大きい岩が何個かあったので、そこで俺はカナに受けたクエストの説明を始める。



 [★☆☆☆☆ アクアクラブを5匹討伐せよ!! 受注中]


 依頼内容を読んでみるとこうだ。

 夏の時期が近づいてくるとアクアクラブと呼ばれるカニに似たモンスターは繁殖時期に入るらしく、雌のアクアクラブはエサを求めて人里まで来て農家の家畜や農作物を食べてしまうらしい。まだ人が襲われた報告はないが、噂では子供と大人の何人かが居なくなってるとかないとか。


 ちなみに繁殖時期のアクアクラブは身がギッシリ詰まっており非常に美味しいらしい。


「これが大まかな依頼内容だ。ちなみに1匹討伐ごとに5千ドールだ」


「なるほどね。お酒のつまみには最高のモンスターね」


「そうだ。たしかここら辺のはずなんだけど‥‥」


「いないわね。あるのは大きな岩だけよ」


 カナは岩をコツンと叩く。すると動くはずのない岩がゆっくりと浮き上がった。

 ゆっくり上を見上げると依頼のアクアクラブにそっくりな物と目が合う。きっとこれがアクアクラブだ。

 数秒間、俺もカナもアクアクラブも時が止まったかのように誰も動かない。


 アクアクラブは腕のハサミをゆっくりと上げ、俺たちが立ってる方に狙いを定めていることに気づいた俺はカナを置いてアクアクラブとは反対方向に全力で走りながら叫んだ。


「逃げろぉぉぉおおお!」


 俺の声に続いてアクアクラブのハサミが振り下ろされて地面ズドンと大きな音がなる。

 ハサミが落ちたスレスレの場所にいたカナは引きつった顔をして、全力で走り出す。

 アクアブレスは俺たちを追いかける為、体を横にして勢いよく走り出した。


 標的にされたのはカナの方だ。

 俺はある程度離れた距離まで逃げ、カナの逃げてる姿をみる。


「何でこっちにくるのよぉぉぉおお! 助けてムショさぁぁぁん!」

 どうする!? 必死に考えるけど何も出てこない。とりあえず逃げてもらうしかない!


「とりあえず全力で走り続けろ!追いついて来てるぞ!!」

 カニはものすごい速さでカナとの距離を詰める。


「そんなぁぁぁ!」


 カナが走ってる間に考えろ‥‥‥‥そうだ! カニは横向きにしか歩けなかったはず。だったら正面に行けばカニに追いかけられないし姿も見えないんじゃないか?


「カナ! カニの正面に立つんだ!! そうすればカニにも追いかけられないし、お前の姿も見えないはずだ!!」


 俺の助言を聞いたカナは、走っている方向を変えてカニの正面に立った。するとカニは足を止め、コンパスのようにクルクル回ってカナを探しているようだ。カナもその動きに合わせてクルクル回る。


 いけたか!? この方法は当たりなんじゃないか?

 なんて考えていると、アクアクラブは口をブクブクと泡を立てる。

 そして次の瞬間、カナに向かって噴射した。


「カナ! 大丈夫か?」


「大丈夫じゃないわよ!」

 良かった! 大丈夫みたいだな。


 アクアクラブから噴射された泡はカナを包み込んでいる。

 カナはバタバタと動いているが、あの泡のせいで身動きが取れないようだ。


「ギャァァァ! 何これ動けない! ムショォォ!!」


 アクアクラブは勝ち誇ったようにハサミをカチカチ鳴らしてカナを見ている。


 運がいいことにアクアクラブはカナに夢中なようで、こちらには背を向けている。

 あぁもう! どうにでもなれ!


 俺は無計画でカナの方にいるアクアクラブに向かって走り、背中にドロップキックを入れる。するとアクアクラブはゆっくりとカナがいる前方に倒れた。倒れたアクアクラブはしばらく足をジタバタしてたが、起き上がる様子はない。


 こいつもしかして、倒れると大人しくなるのか!


「カナ! アクアクラブの倒し方が分かったぞ」


「‥‥早く‥‥‥‥助け」


 アクアクラブの下でカナの腕がピクピクと動いて俺に助けを求める。


「あぁ、悪い」

 アクアクラブの下敷きになってたカナを引っ張り出し、ゲホゲホと咳き込んでるのを無視してもう一度説明する。


「こいつらは背中から押されるのに弱いんだ。おとりがいれば簡単に倒せるぞ!」

 攻略法が見つかれば後は楽勝だ! すっぴんでも俺はやれる!


「よし! 一旦街に戻って態勢を整えよう!」


「嫌よ。あのカニ‥‥よくも私を泡まみれにしてくれたわね。ムショ、私の技をそこで見てなさい‥‥」


「おい! カナ!」

 俺の発言を無視したカナは腰に添えていたハープを手に持ち、別の場所でウロウロしているアクアクラブに向かって走る。


 何か策があるのか?


 アクアクラブの正面に立ったカナは口をブクブクさせてるアクアクラブに向かって叫んだ。

「お酒のつまみ! これでも喰らいなさい。スリープサウンド!」


 そう言うと、あのズボラな女神からは考えられない程の綺麗な音色を奏で始めた。アクアクラブはブクブクと泡だてているが動く気配はない。


「スリープサウンドとは、まるで子守唄のような音色を奏でることで相手を眠らしちゃう技よ! これさえあればカニなんてチョロいものよ」


 説明し終わると同時に演奏も終えたカナは、動かないアクアクラブに背を向けこちらを見てドヤ顔をして見せた。

 カナがこっちに戻ってこようと足を一歩踏み出した瞬間、止まっていたアクアクラブの口から噴射された泡がカナの背中から直撃した。


「ギャァァァ! なんで動けるのよ! ムショさん助けてぇぇぇ!」


「何やってるんだポンコツ女神!!」


 さっきと同じ方法でアクアクラブを倒しました。



 [★☆☆☆☆ アクアクラブを5匹討伐せよ!! 討伐数 現在2匹]



 続く







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