第6話無職でもお金は必要ですか?
異世界に来て一日が経過した。
本来なら依頼されてるモンスターの退治をして自己強化やお金を稼いでる頃だが、俺とカナはギルドでウェイターの仕事をしていた。
「おい無職の兄ちゃん! こっちにアワアワビールを十本頼む!」
「あいよ! 酒飲みのおっちゃん達、あんまり飲みすぎるなよ」
腕に抱えていたアワアワビールと呼ばれる酒を頼まれた席へ運び、勢いよく置いた。
「あんがとよ! 無職の兄ちゃんも飲むか? ここの酒は美味いぞ!」
「仕事中だ! 気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとな」
そう言って厨房に戻る。その時、すれ違ったカナも別のテーブルに酒を運んでいたのでその様子を見てたが上手くやってるようだ。
なんて思っていたら、あいつ客の顔面に酒をぶちまけやがった‥‥。
ドジっ子というのはあいつのことを言うのだろう。普通は可愛いよ?
でも俺はあいつの性格を知っている。ポンコツでわがまま、すぐに俺をバカにしてくる。もうあの女神を普通の目で見ることは無いと確信している。
カナはこちらに戻ってくると、やっちゃったといわんばかりの顔で自分の頭に拳をコンッと置いて厨房へと戻って行った。
俺は軽くため息を吐く。
なんでアルバイトをしてるかだって? それは昨日のことだ。
カナの冒険者登録を終えた後、外はすでに日が暮れていたので俺たちは今後どうするかについて話し合って決めることにした。
「明日は武器屋で道具を揃えて、モンスター退治をする。お金を集めないと、俺たちの生活が危ういからな」
「ムショは私があげたエクスカリバーがあるから、私の道具だけ揃えれば完璧ね! さっきからあんたのエクスカリバーが見当たらないけど、どこに置いてあるの?」
「あれか‥‥‥‥売った」
俺がエクスカリバーを売ったこと告げると唖然としていた。予想はしてたけど、そんなにショックを受けることか? ショックを受けていいのは俺の方だと思うんだが。
「売った!? あれがどれだけ凄い武器か知って言ってるの? 最強よ! さ・い・きょ・う」
「いや、最強の武器なのは俺が一番知ってるよ。でも仕方ないだろ‥‥ギルドの登録料も用意しないといけなかった。それに、すっぴんの俺には装備できないんだよ」
「ハァ‥‥‥‥あれを用意するのに私がどんだけ苦労したと思ってるのよ! 転生させた冒険者からこっそり盗るのに苦労したっていうのに‥‥保管くらいしときなさいよ!」
「悪かったって! 俺も仕方なく————」
ん? こいつ今盗るって言わなかったか?
「カナ。お前今なんて言った?」
「だから! 冒険者から盗るのに苦労したって言ったのよ」
カナは呆れた様子で言った。
「お前は他の人が既に手に入れてた武器を俺に選ばしてたのか!? じゃあエクスカリバーは、この世界に転生した人の物だったことになるぞ! なに? じゃあ、俺が選んだエクスカリバーの他にあった雨叢雲剣もグングニルの他にもあった武器も、お前が盗んで俺の前に出したってことか!?」
「当たり前よ! 有名な武器がポンポンポンポンあるわけ無いじゃない。世の中ってのは巡り巡ってるのよ。それを売るなんて‥‥あんた最低よ」
「最低なのはお前だぁぁぁぁ!」
その叫び声はリングスの街中に響いていたらしい。
「まぁ、いいわ。とりあえず売ったお金でお風呂に行くわよ! 今日はパーッとやりましょ」
「風呂はいいとして、あまりお金はないから贅沢はしないぞ」
「ケチくさいわね‥‥早く行くわよ」
倹約家なんだ! でも風呂に行くのは良いな。たまには良いことを言う女神だ。
その後、俺とカナは風呂屋に行って風呂に入った。値段は二人合わせて百ドール。
非常に安い。それに一日の疲れを癒すには安すぎるくらいだ。
サッパリしてカナと合流すると、あいつはコーヒー牛乳を飲んでた。
珍しく気を利かせたようで、俺の分も用意していた。きっと俺の金で買ったのだろう。
まぁ、今の俺は気分が良いことだし許してやるとするか。
二人でグビグビ飲み干して風呂屋を後にした。
その後、宿を探そうとカナに言われたが、残り少ないお金のことを考えて野宿をすることにした。
カナは不満そうにしてたが無視して寝床を探した。運がいいことにこの街は原っぱが多いので、寝る場所に困ることはなさそうだ。
疲れてはいたけど、なぜか眠くない。横を見るとイビキをかきながら寝ているブタみたいな女神がいたけど、こいつも俺の為に頑張ってくれてたんだよな。これからどうなっていくのかは分からないけれど、明日から忙しくなりそうだ。
「転生させてくれてありがとな。カナ。おやすみ」
フゴッ! というイビキの返事に微笑みながら、俺は眠りについた。
朝、俺は美味しそうな匂いに目を覚ました。目蓋を開けると空には眩しく輝いている太陽が俺を見下ろしてる。
目を擦りながら起き上がるとカナはすでに起きていて、布を地面に広げた上に豪華な食事を用意していた。
「あら、やっと起きたのね。ご飯の用意はバッチリよ」
「どうしたんだ? こんな豪華なご飯」
「私も気を利かせる時はあるんだから! さっ、早く食べないと冷めちゃうわよ」
準備を終えたカナは先にパクパクと食事に手をつける。俺もカナに続いて手を付けた。
「美味いぞ! これ!」
「そうでしょ、そうでしょ!」
カナは嬉しそうに俺にピースをしながら笑みを見せた。俺もそれに対して親指を立てて称賛する。
この女神もやる時はやるんだな。昨日の挽回にしては上出来だ!
朝ごはんを終えた俺たちは武器を用意するために武器屋へと出向いた。
武器屋の扉を開くと、「いらっしゃい!」と大きな声で俺たちを歓迎してくれた。周りを見回すと、剣や槍、弓に銃など沢山の武器がある。
これは選ぶ方が大変そうだ。
「すみません、下級職でも装備できる武器ってどれですか?」
「それなら入口のすぐ横に展示してるのがそうだよ」
店主は入口を指差してそう言った。お礼を言って俺はもう一度武器を見て回る。
ん〜‥‥。どれにしようか迷うな‥‥
どの武器も魅力的だが、まずは慣れる為に短剣にすることにしよう。値段もお手頃なブロンズナイフがあることだし。
俺は目の前にあったブロンズナイフを手に取って装備できるかどうか確認した。
「よし、ちゃんと装備できるな」
下級職の武器限定だけど、どんな武器でも装備できるのはありがたいな。それができるのが無職(すっぴん)という点を除けば。
「カナ。もう決めたか?」
カナのいる方に向かいながら呼びかけると、カナも返事をした。
「決めたわ! これにする」
カナの手にはハープがあった。確かこいつのジョブはハーピストだったな。
想定内の品を選んだようだ。
「これね、ハープの形してるけど弓としても使えるのよ!」
ほぉ、二つの機能があるのは便利だな。こいつ意外と頭良いんじゃないか。
今日初めての驚きだ。
「まぁ‥‥使わないけどね」
あっ‥‥やっぱりアホだ。
俺が驚いたのはそれだけじゃ無い。
「お前‥‥これ三千ドールもするじゃないか! 俺のナイフなんて五十ドールだぞ! もっと安いものを選べよ」
「分かってないわね‥‥大は小を兼ねるって言うじゃない! これを買っておけば、しばらく私の道具を買う必要もないし良いじゃない」
ぐっ‥‥確かに。こいつこういう時は頭の回転が速いな。
まぁ、エクスカリバーを売ったおかげで一万ドール以上はあるから大丈夫か。
俺は諦めてカナからハープを受け取り、店主の方に持って行った。
「この二つ、お願いします」
「毎度あり! シェルガーハープが三千ドールでブロンズナイフが五十ドールね」
「あぁ。えっと、お金‥‥お金‥‥」
お金が入った袋に手を入れて中身を取り出そうとするが、中々掴むことができない。
さっきから空気を掴んでる感じだ。
ん? 異変に思い袋を取って逆さまにして上下に振っても何も出てこない。何回試しても出てこない。
なんでだ!? 昨日寝る時までちゃんとあったぞ?
まさか寝てる間に盗まれたのか!? そうだとしたら大変だ!
「カナ大変だ! お金がない! お前昨日の夜中何か見てない——か」
待てよ。今日の朝起きた時、こいつ豪華な朝ごはんを用意してたよな? どこで用意したんだ? こいつ無一文だったはず。
「なになに? どうしたの?」
トコトコ俺のほうに来たカナに俺は質問した。
「お前今日の朝、どうやって朝ごはん用意した?」
「どうやってって‥‥買ってきたのよ。街の市場に行って」
「俺の財布を使ったのはもう分かった。いくら使った‥‥?」
「えーっと、たしか料理で四千ドールでしょ? つまみ食いで‥‥‥‥一万ドールくらいかしら!」
俺は無言でハープとナイフを元の場所へ戻して武器屋を出た。
「一体どうしたのよ? 武器買わないの? 武器がないとモンスターを退治できないじゃない」
後ろの方で俺に話しかけてるカナ。俺はカナの方に振り向いて両肩を掴み全力で前後に揺らした。
「俺たちがないのはお金の方だ!! あれ俺たちの全財産だったんだぞ! なんて事してくれるんだこのポンコツ女神!!」
「ごべぇぇんなしゃぁぁあぃぃいい!!」
俺は泣きながら謝るカナの襟を掴み、引きずりながらギルドの方へ向かって歩く。
まぁ、俺も朝ごはん食べたから多少の罪はあるか。
「俺も気づかないで食べたから今回は許してやる。でも今はお金がない。ギルドで仕事ないか聞きに行くぞ!」
「えっ‥‥嫌だぁぁぁ! 働きたくないぃぃぃ!」
その後ギルドで仕事が無いか聞いてみると今日は人手不足らしく、その手伝いをすることになって今の状況って感じだ。
「ムショォオ! こっち来て運ぶの手伝って!!」
厨房にいるカナに呼ばれてショウタも厨房へと向かう。
俺の冒険はいつ始まるのだろうか————。
続く
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