第5話無職でも仲間と一緒にギルドへ行ってもいいですか?

「なぁ、女神さまはいつこの街に来たんだ?」

 ショウタと女神は噴水の側にあるベンチに座り休憩していた。


「その女神様って呼ぶのやめなさい。ここに女神様がいると大変なの」

「なにか事情があるのか?」


「当たり前よ! 私を崇拝している信者が来たら困るじゃない! 四六時中信者がついて来られたらノイローゼになっちゃう。だから私のことは女神様ではなく、カナって呼びなさい」

「お前って、そんなに有名な女神様なのか! つくならもっとマシな嘘にしたほうがいいぞ‥‥」

「なっ! 私はこの世界を見守ってる存在なのよ! 有名も有名よ。見てなさい!」


 そう啖呵を切るとカナは立ち上がり街行く人に何か質問をしていた。遠くにいるから何を聞いているのか分からないが大体想像はつく。試しにアフレコしてやろ。

「そこのお兄さんちょっと待ちなさい! 私は女神カナと言います。この名前に聞き覚えはもちろんあるわよね?」

 ほぉら、大体合ってる。


 お兄さんの方を見てみると、知らないと言いたげな様子で首を横に振っていた。

 その後しばらく、人が通るたびに自分の知名度を聞いていたが全員首を縦には振ることはなかった。


 み、惨めすぎる‥‥流石にこれ以上は見ているのが辛い!

 ショウタはカナを呼び、ベンチに座らせた。


「まぁ‥‥ド、ドンマイ!」

 これが俺の精一杯の励ましだ。これ以上は求めるなよ。


 カナは俺の方に顔を向け、涙目でこう言った。

「——本当に、有名なんです。信じてくれるわよね?」

 本当なら、ほらどうだ? お前は有名じゃない!

 くらい言ってやりたいところだが、俺もそこまで鬼ではない。この惨めで可哀想なポンコツ女神の肩を持ってあげることにするか。


「分かったよ! お前は有名な女神ってことにしておくよ」

「‥‥ありがとうごじゃいます」

 鼻水をすすりながら言った。


 カナが泣き止む頃に俺はさっきの質問を繰り返した。


「それで? カナはいつ街に来たんだ?」


「あんたが転生したすぐ後に来たわ。あんたが私を見つけるまで考え事をしながら散歩してたの。そしたら、いつの間にかリングスの街から出ちゃって、さっきの状況になったわけ。」


「ここリングスって名前の街なのか。というか、歩きながら考え事なんてするなよな。俺も人のことは言えないけどさ。それで、何を考えてたんだ?」

「ふふん、喜びなさい! あんたのあだ名よ! 今日からあんたの事をムショって呼ぶことにするわ。 無灯颯太だから、名字と名前の頭を取ってムショ! いいあだ名でしょ」


 あぁ、この女神思ってたよりポンコツだ。あだ名を考えてて魔物に追っかけられるとは‥‥なんて情けない。

 あだ名についてはもう何も言わないでおこう。今日はもうポンコツ過多だ。


「ムショ、これからギルドに行くわよ。あんたまだギルドで冒険者登録してないでしょ?」

 カナは立ち上がり、ギルドの方に向かって歩き出した。

「いや‥‥もうとっくに登録し終わってるぞ。ほら」

 俺はギルドから受け取ったギルドカードをカナに見せた。


「あら、そうだったの。カードちょっと見せて」

「あっ、おい!」

 まずい、ジョブがバレる!

 カナは奪い取ったカードを見てすぐに俺を大笑いした。


「無職! あんた元の世界でも無職だったのにここでも無職なの!? これはもう才能よ! 才能」

「うるさい! なりたくてなったわけじゃなーい! それと、無職と言うな。これはすっぴんだ! カード返せ!!」

 必死になってカードを取り返したが、弱みを握られてしまった。


「笑った笑った。さっ、ギルドに行くわよ! 私も登録しなくちゃいけないしね。ジョブを調べるのが楽しみね! まぁ、流石に! 無職はないでしょうけどねぇ」 

 小馬鹿にしながらカナはギルドへ向かって歩く。ショウタもカナを睨みながら同行する。


 〜歩いて数分〜

「着いたわ。じゃあ入るわよ」

「待てよ、お前お金持ってるのか? 登録料かかるぞ」

「心配ないわよ。ちゃんとお金は向こうから持ってきてるの! 本当はムショの分も持ってきたけど、もう登録してるからいいわよね」

 カナは腰の袋をポンポンと叩きながらギルドの中へ入っていった。俺もそれに付いていく。


「俺はここで待っておくよ。早く登録してこい」

「分かったわ。じゃあ待っててね」

 俺はテーブル付きのイスに座って待つ。カナはスキップしながらカウンターに向かって行った。


「すみません! 冒険者登録をお願いするわ」

「登録ですね、分かりました。登録料千ドールになります」

「千ドールね。ちょっと待って‥‥」

 カナは腰の袋からお金を取り出して受付に置いた。


 受付嬢はそのお金を見て不思議な顔をしながらカナに何か言って、カナはその言葉を聞いて非常に慌てていた。その様子を俺は見ていたが、動く気は全くない。何より面倒!


 などと考えてると、俺の目の前にカナが立っていた。手を後ろに隠してモジモジしている。

「どうした? 登録はもう終わったのか?」

 カナは丁寧に、そして申し訳なさそうに口を開いた。


「ムショさん。お金‥‥貸してくれませんか?」

「さっきお金出してただろ」

「それが‥‥実は‥‥」

 カナは隠していた手を俺に広げて見せる。そこには実際に見たことはないが、知っているお金があった。そこには外人の絵が描かれていた。


「なんでドル札を持ってきてるんだよ!」

「だって‥‥だって! 私こっちに来るのは初めてだもん! この世界のお金なんて知らないわよ!」

「だからってドル札を持ってくるなよ! 普通わかるだろ? ここ異世界なんだから!」

 こいつダメだ‥‥俺が付いてないと本当にポンコツ女神になってしまう。


「分かったよ‥‥お金出すから登録行くぞ。お金は後で返してもらうからな」

「了解よ! ムショ様ありがとうございます」

 カナもウキウキしながらカウンターに向かい、俺もカウンターに行く。


「あの、さっきは変な紙出してすみません。こいつ俺の仲間なんです」

「ショウタさんのお仲間でしたか。大丈夫ですよ。おしゃれな紙が見れたので」

 あれ? この受付嬢は天使かな?


「ムショ! 早くお金出して」

「分かってるって。ちょっと待てよ」

 ショウタはズボンのポケットからお金を出して受付嬢に渡した。


「お嬢さん。これでお願いします」

「はい。千ドールいただきました」

 出せる美声を限界まで引き出したがサラッと流された。


「では、カナさんのジョブを調べますね。このセンサーの上に手をかざしてください」

 受付嬢はジョブセンサーを持ってきてカナの前に置いた。


「分かったわ。ちゃんとそこで見てなさいよ! 無職のムショ! ちょっと聞いてる?」

 カナは手をかざしながら俺に挑発してきたが、全力で無視してやった。


 センサーは俺の時と同じようにクルクル回り、そしてピタッと止まった。

 受付嬢はセンサーを覗き込み驚いたような顔でカナを見つめた。


「どうだったの? 私のジョブはなんだったの!?」

 俺も興味がある。なんのジョブなんだ?


「カナさんのジョブは上級職ハーピストです! 音を奏でて味方を支援したり回復させたりすることができるジョブです。冒険書登録が初めてなのに、すで上級職なのは珍しい事なんですよ」

 ハーピスト!? このポンコツ女神が? 遊び人の間違いだろ!

 カナはコチラに誇らしそうな顔で見てきた。


「どう? これが無職との差よ! 私ともなれば上級職なのは当たり前ね。これでお金を返す件はなしよ」

「なんでだよ! お金の件は別だろ! 分かった。お前が支援職だと分かった以上、とことんこき使ってやるから覚悟しとけよ!」

「上等よ! 使えるものなら使ってみなさい! 高いわよ」

「金取るのかよ!」


「それではハーピストのカナさん。こちらがギルドカードになります。これから上級職としてこれからギルドの活発にしてくださいね! 応援してます」

 あれ? 受付嬢さん、俺の時と反応違くない? なんで?


「任せて! 私がいればここもすぐに繁盛するわ!」

 カナは自信ありげにいうと、カードを受け取ると俺を置いてすぐに出口に歩き出した。

 釈然としないが、仲間に上級職がいるのはありがたい‥‥か。


 無意識であったが、自然と笑みがこぼれていたのは内緒だ。


 俺はこれからの生活に期待を込めて、出口へと歩き出した



 続く


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