第41話 線の細い女の子がどでかい武器を振り回す姿。好き




「コースケどの! この騒ぎは一体!?」

「シャオールか! どうしてここに?」

「勇者どのの館にある警報魔法具が僕に報せを届けました。今までにないことで緊急かと思われたので、僕と同じ宮廷魔術師たちを連れてきたのですが……」


 シャオールがそう伝えてきたときだった。

 一際大きな爆発音が続けざまに屋敷から轟いた。

 土煙が立ち上り、吹き飛んだ大きな瓦礫が市街の方へ放物線を描いて落ちていく。


「危ない! あれを止めます! 市街地に落ちてしまう!」


 シャオールが悲鳴のように叫ぶ。

 即座に宮廷魔術師たち全員が動いた。


「〈怖れぬなら目を開け! 瞬きの間に失うは己の恥と知れ! 光輝の盾よ! 顕れよ!〉」


 多重の光の壁が瓦礫の直進上に出現し、瓦礫を阻む。


 そしてさらに屋敷からは衝撃音が続く。セーナが勇者に攻撃を加えているせいだろうが、その余波が館そのものを崩壊させているのだ。


「いけない! 敷地全体に守護方陣を張ります! 魔術師の皆は等間隔に散ってください! コースケどの!」

「今は勇者が対応してる! シャオールは被害が広がらないように頼む!」

「わかりました! 事情は後で聞きます! 我々は市街地への被害は絶対に出してはなりません!」


 シャオールたち宮廷魔術師は四方に走っていく。一分も経たない内にドーム状に敷地を包む魔法の壁が張り巡らされた。


 ひとまずこれで外に瓦礫が飛んでいくのは防げそうか。俺はひとまず安堵して肩の力を抜いた。するとハリシュが剣呑な面持ちで問いただしてきた。


「ドキドキ様、中で一体何が起こったのですか。勇者殿がどうしたのですか? そろそろご説明を」


 さすがにこんな状態で隠し通すのも無理だ。俺はハリシュに事の次第を話した。


「何か隠されているとは思っていましたが、そういうことでしたか……」

「悪いな。プライバシーを守るために本人以外には話せなかった。それで勇者と喧嘩してセーナさんが暴れ出したんだ。急に人が変わったみてえに」

「なるほど。この破壊行為はカリエセーナ様によるものですか」

「あんなでっかいハンマーなんか振り回してセーナさんはどうしまったってんだよ。あれじゃ破壊の化身じゃねえか」


 俺がセーナの異変を訴えているのに、ハリシュはいつまでも冷静だった。


「ドキドキ様、ご存じないのですか?」

「え……?」

「あれは魔王の脳天を割ったと謂われるミョルゲニクス。太古に存在したと謂われる巨人の武器を人間用に改造したもので、その大きさ、破壊力ゆえにカリエセーナ様以外に使いこなせる者がいなかった専用の魔法武器なのです」

「魔王の脳天を割った……? セーナさんは〈神癒希う翠涙グリーン・ティアドロップ〉だろ? あの癒やし系の二つ名はどこ行ったんだよ。泣いて悲しむ姿とは真逆じゃん」

「〈神癒希う翠涙〉の翠涙とは、カリエセーナ様の流す涙のことではありません。大地と樹木の大精霊であるフラレシアの涙のことを謂っているのです」

「大精霊の涙……? なんでそんなもんがセーナさんの二つ名に?」

「神癒希う、とはその大精霊フラレシアが、戦いによって傷つけられた大地に憂いてはやく癒やされるようにと願うことを謂います。つまり」


 あ、これそっちのパターンかってなるやつだ。


「あの異名は、カリエセーナ様が暴れはじめたらその土地にしばらくの間草一本生えなくなるため、大精霊が『もう止めてくれ』と泣いて縋ったという逸話からついたのです」

「神癒を願うのはセーナさんじゃなくて大精霊の方かよ……」


 俺は図書館で呼んだ勇者の伝記の挿絵を思い出した。

 魔王の前に立つ四人の英雄。確かにその中には大きなハンマーのようなものを持った人物が描かれていたが……。


 黒い人形でデフォルメされていたから誰が誰なのかはわからなかった。俺は文字を読めなかったからイメージで祈っている人形の方をセーナさんだと早合点してしまい、まさか戦士の方だとは微塵も思い至らなかったのだ。


「そういや一度も自分のことを魔法使いとは言ってなかったな……」


 近接武器の戦士が魔法を使わないとも限らないしな。

 というより、あの細身であの巨大なハンマーを自在に振り回しているあたり、そこらへんの力にも魔法が関わっているんだろうが。


「とにかくセーナさんを止めたい。この前使ってたハリシュの魔法でセーナさんを閉じ込めて大人しくなるのを待つってのはどうだ?」

「私程度の魔法ではカリエセーナ様のミョルゲニクスの前には本一冊分の厚さほどの意味合いしかもちませんよ」

「そこまでなのか?」


 ゆうてこいつの本一冊分の厚さの基準はわかんねーけど。


「私が氏族を率いてユールウゴヤ王に従ったのは、彼の一族が持つ圧倒的な魔法具適性と暴力的なまでに増幅され行使される魔力に拠るもの。一言でいえば、『敵わない』と悟ったからです」


 シャオールの魔法を見事に食い止めて見せたハリシュがここまで言うとは。


 魔王退治の英雄の力は飾りではなく、ここにいる誰よりも高いということか。しかも猛攻特化型だ。エルフってこんなんだったっけ?








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る