第13話 待たせたな! これが俺の異世界チートだッッッ!


 目映い光に顔を腕で庇いながらセーナが叫ぶ。


「その剣は一度抜けば誰かの血を見るまで絶対に鞘に収められないという伝説のある霊剣ダインスレイフ。剣豪の呪われた剣とも評される曰く付きの魔法具なのですわ!」


 俺はと言えば蛇が先っぽに絡みついた棒を持っているかのように、できるだけ身体から遠ざけて顔を思いっきり背けていた。


「あの権助やるるぉぉおおおおおっ!!」


 んな危険なもん置いていきやがって!

 勝手にハリシュのせいにしているが、もう完全にあいつのせいでいいだろう、この際。


「なんかすげー光ってんだけど! どうすりゃいいんだ、これ!?」

「凄まじい魔力増幅量ですわ! 魔法具のこんな現象はわたくしも初めて目にします!」

「なんだって? じゃあ対処がわかんねえってことか!」

「コースケ様! どうか冷静に!」

「くっそおおお! しかも手から離れねえええ!!」


 さっきから何度も放り投げようとはしているが、掴んだ右手が接着剤でくっついたようにがちがちに離れない。こんなところで装備に呪われるとか冗談じゃない。

 なんとかまた鞘に収めねえと!

 誰かの血を見るまで収まらないって、呪いの武器にしたって悪質すぎる。

 この場にいる血なんて、俺かセーナさんしかいないじゃねえか! 


「セーナさん! そこに落ちてる鞘を取ってくれ! 俺がなんとか収めてみる!」

「は、はいっ!」


 万が一にもセーナを傷つけないように、慎重に左手だけで鞘を受け取る。

 鞘口を切っ先にあてがうも、がちがちと震えて中に入ってくれない。

 これは俺が震えてるんじゃない。まるで磁石が反発しているかのように、鞘と刀身が互いに受け入れることを拒否しているのだ。


「くっそ! 入んねえぞ!」

「やはりあの伝説は本当だったのですね……」


 すると、セーナが俺の前に飛び出してきた。


「コースケ様! わたくしをお斬りください!」


 セーナの言動に、俺はひっくり返りそうになる。


「何を言っているんだ!」

「血が流れればきっとその魔法具は収まるはず。他に方法はございません。ここにはわたくししかいないのですから――」

「ダメに決まってるだろ! 馬鹿を言うな!」

「大丈夫です! これでもわたくしは魔王退治の英雄の一人。たとえ傷ついたとしても、わたくしはそう簡単に死ぬことはございません!」


 そうか。セーナには、回復魔法が……!


「し、しかしっ……!」

「コースケ様。あなたはお優しい方です。この世界へ招いたわたくしを責めることもなく、あまつさえわたくしのわがまますら叶えてくださろうとしています。わたくしは、せめてこんなことでもコースケ様のお役に立ちたいのです」

「セーナさん……」


 セーナは優しげに微笑む。両腕を開き、自らの胸を差し出すように張る。


「さあ、コースケ様、どうか、どうかご決断を」

「くっ、ぐうう……!」


 唸る俺の前で、セーナはじりじりと一歩、また一歩と霊剣ダインスレイフに近付いてくる。このままでは、彼女自ら刺さりにきかねない。


「俺が、セーナさんを……?」


 これほど可憐で、自己犠牲すら厭わない清廉な人格の持ち主を、俺は自分の失態のために傷つけなきゃいけないのか?

 到底受け入れられることじゃない。たとえかすり傷程度でも、俺が彼女に傷をつけるなんてことがあってはならない。


 ッ決めろ。決めろよ、俺!


「セーナさん。俺にはきみを斬ることなんてできねえよ。血が必要だってんなら、ここで傷つくべきなのは、やっぱり俺以外にはいないだろ?」

「コースケ様!?」


 俺は鞘を投げ捨て、セーナに背を向けた。そして刃先を自分の左腕にあてがった。

 魔法の剣。

 切れ味など俺の世界の刃物に比べたらどれほど優れているのかなど測りようもない。

 回復魔法なんて見たこともない俺に、どれほどまでの傷なら完治するのかもわからない。

 だが。俺は俺のために、セーナを傷つけるわけにはいかない。


 せめて繋がったままでいてくれよ。俺の腕!


「う、うおおおお!」

「コースケ様――――!!」











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