第12話 模造刀とか模造剣とか正直今でも欲しい
ともあれ、俺が相談した魔法はそのレベルの魔法と同列の危険性を持っているってことだ。
それだけにその秘匿方法も容易にはわからないようになっているに違いない。
「現時点ではやはり魔法には頼れない、か。じゃあセーナさん、魔法具はどうだろう。そんな禁術指定されるような大層なものじゃなくてもいいんだ。綺麗な景色を写したり、それを絵のように保存できるくらいで」
「そのような魔法具は聞いたことがありませんが……。魔法具の蒐集がお好きな勇者様ならあるいはご存じかもしれません。ですが……」
「ま、これから調査しようって相手にそんな魔法具があるかどうか、なんて聞けないよな」
「それに、さすがに婚約者と言えど、勇者様の所有している高価なものを勝手に漁るわけにもいきませんし……」
セーナは俺の要望ならできる限り叶えようとしてくれているが、そこはやはりできることとできないことの線引きはしっかりしてあるようだ。
「わかっている。無理は言わないさ。この際、手近なもので使えるものなら何でも使ってみるしかないな。何しろ、今は手元に書くものすら欠いている状態だ」
「それなら、確か運び込ませた荷物の中に筆記具や、いくつか魔法具もあったはずですわ。コースケ様も何か必要になるかと思い、ハリシュにわたくしの邸宅にあるものをあらかじめ運ばせておいたのです。何分急でしたので、ハリシュに任せきりでわたくしも何があるか全ては知らないのですが」
「そうか。じゃあまずはそこから見てみよう。引っ越した後の最初の仕事は荷解きっていうからな」
俺たちは揃ってソファから立ち上がり、まだ見ていなかった最後の部屋に足を運んだ。
どうやらそこに生活用品やらなにやらをまとめて置いておいたらしいのだが――
「こいつは、何かの彫刻か?」
「あらあら。荷物の中に紛れ込んでいたのでしょうか。こんなものを持ってくるつもりはなかったのですが」
目の前に広がるのは、雑多に積み上げられた物、物、物。
床一面に広がる物の海。セーナの邸宅にあったものを手当たり次第持ち込んだんじゃないかと思うほどその部屋は物に溢れていた。ごっちゃごちゃだ。
俺は部屋の入り口付近で拾った、魔物を象ったような禍々しい木製の像をぶらぶら振って、小さくぼやいた。
「……生活具を運んだにしては、ちょっと物が多すぎないか?」
「そうですわね……。コースケ様に何が必要かわかりませんので、ハリシュたちに皆の想像力を働かせて次元の稀人の殿方にふさわしいものを全て運び出しなさい、と確かにわたくしが命じたのですが」
いや、確実にそのせいだろう。というか使用人たちは一体どんな想像力を働かせたんだ。
セーナが手前の荷物の小山を跳ねるように跳び越えて部屋の奥に進む。適当に手近な物を拾っては、呆れたように溜息をついていた。
「もうっ、こんなものまで! ハリシュったら、運んだのはいいですけれど、どうしてこんなに乱雑に物を置いていったのでしょう。いつもは感心するくらい綺麗に物を片付けてくれますのに」
「まあ俺がここに住むと決まったのも今日の話だからな。急いでくれた分、多少乱雑になってもしかたないさ。むしろここまでよくやってくれたと褒めてあげてくれ」
大分必要ないものまで運び込まれている気はするがな。ってかこれ整理するの、もしかして俺なのか?
「コースケ様がそうおっしゃるのでしたら……。でもこれではどこに何があるのかわかりませんわ」
俺が脱力していると、ぷんぷん怒るセーナは床に膝をついて物を選り分け始める。
なんつうか、えらく庶民的なことにも抵抗がないお姫様だ。そういうことは普通使用人の仕事だろうに。親近感は湧くけどな。
「おっ?」
ふと視線を向けた部屋の角に、一メートル以上はありそうな細長い物体が荷物と荷物の間に刺さっているのに目を惹かれた。
周りの荷物をどけてみると、それは剣だった。柄は金で縁取られ、鞘はラピスラズリのような濃い青色のマーブル模様が全体を飾っている。おそらく両刃のアーミングソードの類いだ。
しかし、なぜこんなところに剣が?
まさかとは思うが、さっきの権助野郎が俺に対する警告のためにわざと置いてったんじゃないだろうな。
あの陰険使用人エルフの恍惚の表情を思い出して苦笑いしながら、その剣に手を伸ばした。あいつの思惑はなんであれ、剣というファンタジー定番の誘惑に抗うことは俺にはできなかったのだ。
西洋剣ってのはなんでこう心躍るんだろうな。
鞘の真ん中辺りを掴んで胸の前に掲げる。右手で柄を小指から順に握っていく。剣を持つのなんて初めての経験なのに、妙に馴染む感じだ。
そのまま力を込めて鞘から引き抜いた。しゃらん、と刃先が鞘の縁を滑り小気味よい音が鳴る。そして、俺は息を呑んだ。
美しい。
溜息がでるほど見惚れてしまう青水晶の刀身を持つ剣。すっげえ攻撃力高そう。道具欄にEって出ないかな。
などとRPG脳が刺激されまくるほどに俺の少年の心をくすぐってくれる。振れば大気すら切り裂けそうだ。
ギガントスラッシュ――なんつって。
「コ、コースケ様……それは?」
「セーナさん、かっこいいだろうこれ。ここに挟まってたんだけど――」
声をかけてきたセーナに、振り返って見せつけてみたのだが、ふと気づいて言葉を止めた。
セーナの顔が、どこか青ざめているような気がするんだが?
「コースケ様、その剣を抜いてはいけません!!」
「え?」
もう完全に抜いちゃったけど?
水晶の剣の刀身が目映いほどに光を放ちはじめたのは、その直後だった。
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