8-4 あなたのせいで我が侭になったから
三つ足の鳥に誘われるまま、外へと出る。
窓ガラス越しに見えたとおり、頭上に広がる空はフィデリオの心境とは反対に、どこまでも青く広がっている。所々に白く柔らかな雲が浮かび、いっそ腹立たしくなるほどの爽やかさに満ちていた。
もう何年も見続けている、飽きるほどに見慣れた景色は、特別何か気に止めるものはなさそうに感じる。
これで何もなかったら、本当に焼き鳥にしてやろうかしら。
内心眉根を寄せながら歩を進め、家の前にある広場にまで移動する。ぐるりと周囲を見渡してみるも、やはり何か特別なものは見当たらなかった。
今度ははっきりと、フィデリオの眉間に深いシワが刻まれる。
「ちょっと。どうせ近くにいるんでしょう?」
息を吸い込み、フィデリオは言葉を紡ぐ。
姿は見当たらない、だがどうせどこかからこちらの様子を伺っている。そう予想をつけて呼びかけるも、返事らしい返事は返ってこなかった。
眉間に刻まれたシワをますます深いものにしながら、フィデリオは改めて周囲を見渡す。
しかし、何度見ても何か変わっているものや箇所は見当たらず、飽きるほどに見慣れたいつもどおりの風景が広がっているだけだ。
腕組みをし、深い溜息を一つこぼす。
「……本当に冗談抜きで焼き鳥にしてやろうかしら、あいつら」
隣人でもある彼らとは長い付き合いだ、しかし困らされていた部分も数多く存在する。
これまでは脅しはしても怪我や命の危機に瀕するような状態には追い込んでいなかったが、そろそろいい加減にしてほしいという思いもある。
苛立ちを吐息とともに吐き出し、フィデリオはゆるりとした動きで空を見上げた。
「……?」
腹立たしさを覚えるほどの青空。
その青空の中へ、ふいに。違う色彩が混ざり込んだ。
黒だ。黒に覆われた何かがこちらに向かって飛んできている。正体を探ろうにも、まだ距離があることもあり、ぼんやりとした黒い影にしか映らない。
「何かしら、あれ」
もしかして、あれがフィデリオに見せたかったものなのだろうか。
内心首を傾げながらも様子を見ていると、影はどんどんこちらに近づいてきて、大体の形が視認できるようになってきた。
鳥の群れだ。フィデリオに声をかけてきた隣人が所属している群れだろう。皆で寄って集まって、何かを運んでいるようだ。
距離が近づくにつれ、運んでいる何かの形も少しずつ、けれどはっきりと見えてくる。
苛立ちを含んだ瞳で近づいてくるそれを観察していたが、彼らが何を運んでいるのか正体に気付いた瞬間、フィデリオは大きく目を見開いた。
もしかして、まさか、いやそんなはずは。
驚きと戸惑いを隠せずにいる彼のすぐ近くで、上空で運ばれていたそれが地上に向かって投下された。
フィデリオの呼吸が詰まり、とっさに予想される落下地点へと走り出す。
同時に魔法で上昇気流を作り出し、落ちてくるそれを一度上空へと持ち上げた。
「何をしてるのよ!」
受け止めるために両手を伸ばしながら叫ぶのは、もう二度と呼ぶことはないと思っていた名前だ。
「――シタウ!!」
上空からフィデリオの腕の中へと落下してきた彼女は、フィデリオが見知った姿よりもほんの少し成長しているように見えた。
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