夜をまわる
九川 無量
本編
街灯の先に浮かび上がるのは「6番通り」の看板。道は1本、粘性おびただしい地面を蹴る。これは、トマトだったものの分泌物、これは、思い出に濡れた概念。
道のわきを見ると、浮浪者が嘔吐している。だらしなく伸びきったヒゲに血の塊がこびりついている。ゲホ、ゲホと建物を反響しながら、挽肉を垂れ流して。やがて、ヒュー、ヒュー、……ストン。頭がこぼれ落ちた。
ふと見上げても月はなかった。全てを吸収する絶対的な黒。左側は硝子、右側には人肉加工製造所(株)の広告、おいしい人肉を保証しますあの子もこの子も美味しくいただこう!お電話いますぐ0120-……
ディスプレイは胎児の夢を拾っている。生への呪詛だろうか、ドクンドクン延々と鼓動を送っている。凝集された地獄が、未成熟の硝子越しに映される。唐突な水晶体の破裂、ディスプレイは暗闇に飲まれた。
かつて同じ人間だったであろう、血管の交通著しい肉塊の語りは閉ざされた空間における知識の肥大を示す。家畜化にともなう隷従化第3区画における計画的脂肪組織培養と都市が摂取する逸脱した筋繊維抽象化にともなう破壊t
飢えを感じるたびに道端の汁を啜っている。赤を基調とした黒のマダラ模様と極彩色の廃棄油。V字型の構造物を経て排水溝に落とされるそれを、逃さんとばかりに吸い続ける。甘すぎる猛毒、なにもかんがえてはいけない。
それまで同じ夜を共有し続けたあの人はもういない。あの人はもう、ただの煙。グッバイ。ルージュの残り香を伴いながら、スイートルームを追放されてから今に至るまで、ずっと歩き続ける。頭上には「6番通り」の看板。
ただ、夜をまわりつづける。
夜をまわる 九川 無量 @Rik_memo
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