第15話

お義兄さんが中川恵に電話を掛けた。

「…久しぶり、元気だった?」普段と変わらないように話し始めた。

「お久しぶりです。元気です。貴方は?」

「まぁまぁかな。」お義兄さんが悟られないように話を続けた。

「あれから俺も離婚したんだ。今は独り身で寂しい毎日だよ。それで君の事を思い出して、何してるかなぁと思って電話しちゃったんだけど、迷惑だったかな?」

「そんな迷惑だなんて…逆に嬉しいです。」中川恵の声が弾んでいるのが分かった。

「そう思ってくれて良かった。久しぶりに会わない?」お義兄さんが俺の顔を見ながら中川恵を誘い出した。すると暫く沈黙が続いた。俺たちはバレたのかと焦った。すると

「…私も会いたい。」その言葉に俺は静かにガッツポーズをしていた。お義兄さんが明日の待ち合わせの時間を伝え電話を切った。

「お義兄さん、明日どうしますか?」

「俺は中川恵が本当に琳を手にかけたのか確かめる。それで君に頼みがあるんだ。」お義兄さんから明日の行動を聞いた俺は一瞬、驚いたが

「わかりました。」と返事をした。するとお義兄さんが

「愛子やご両親が心配しているから、取敢えず海斗君は一回帰った方がいい。」と肩に手を置かれた。

「お義兄さんは?」俺はお義兄さんが心配になった。

「大丈夫。俺は琳の父親だよ。琳が怖い思いして独りで……寂しかっただろうになぁ…」お義兄さんの目から涙が滲んでいた。離婚したとはいっても琳の父親には変わりないし、愛する娘を殺されたお義兄さんは俺達と同じ思いを持っているんだと思った。


俺はお義兄さんと一旦別れ、家に帰った。家の玄関を開けると

「海斗、どこ行ってたの?」と姉貴が凄い剣幕で出てきた。

「街中、ブラブラしてた。」と誤魔化した。

「あの人と会わなかった?」

「…お義兄さんの事?」姉貴が心配そうに頷いた。

「会ったよ。電話がきたから二人でコーヒー飲んできた。」

「それだけ?」

「それだけだよ、何で?」

「スミレちゃんママが海斗が来て色々話したって連絡くれたから…」

「あ~警察に言う話ね。スミレちゃんママにもそう言ったんだけどな。」

「そう言ってたけど、電話に出ないからまさかと思って…」俺は平静を装って

「お義兄さんと話してたし、車で走ってる時は出られなかっただけだよ。」

「そう…ならいいんだけど。」心の中で姉貴、ごめんと謝りながらお義兄さんとの約束は話さなかった。

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