第8話
そんなある日。
仕事も終了時間が近づいていたので、事務所の机で今日の報告書を記載している時に電話が鳴った。事務所にいた女性が電話に出た。
「…はい。少々お待ちください。間宮さん、ご家族から電話です。」
「ありがとうございます。もしもし…うん、うん……マジ?分かった。もう仕事終わるから直ぐ帰るよ。」電話をしながら血の気が引いていく感じがした。
「所長、姪が居なくなってしまって家族で捜しているみたいなんです。申し訳ないのですが、上がらせて頂いてもいいですか?」
「それは大変ですね、警察には連絡したのですか?」
「はい、警察にも連絡して捜索をお願いするらしいのですが、まだ見つかってなくて…。」
「そうですか…直ぐに上がって下さい。こちらはもう大丈夫ですから。」
「有難うございます。」俺は他の職員にも頭を下げて
「すみません。」と伝えた。皆が
「早く見つかるといいね。」と励ましてくれた。
家に着くとパトカーが停まっていた。家に入ると姉貴が警察官と話していた。今にも泣きそうな姉貴が俺に気付いた。
「海斗…」
「こちらは?」警察官が俺を見た。
「琳の叔父で、私の弟です。」と説明する。俺は軽く会釈した。
「琳はまだ?」姉貴が頷く。
「では警察の方でも捜索を開始します。もしかすると琳さんが帰って来るかもしれないので、ご自宅に必ず一人は待機して下さい。」
「分かりました。」警察官が家を後にすると姉貴が泣きながらも一気に状況を話し始めた。
「夕方、幼稚園から帰ってきて庭で遊んでたの…電話が鳴ったから私だけ中に入ったんだけど……そしたら琳が居なくなってて…」そこまで言うと慟哭した。
「落ち着けよ。大丈夫。警察も捜してるし、俺も捜しに行くよ。琳の今日の服は?」タオルで涙を拭いながら
「…海斗が買ってくれた…ピンクのミニーのトレーナーに…黒のフリルの…スカートと…スパッツ履いてる……どうしよう…海斗…」
「大丈夫、大丈夫。親父達も捜してるのか?」
「うん…近所の人にもお願いしてる。」
「そっか、有難いな。じゃ、俺も行ってくるよ。姉貴はここで琳が帰って来るのを待ってて、警察も言ってたろ。見つかったら連絡するから。」
「…分かった…お願いね、海斗。」
俺は家を飛び出した。公園や駅前通りの方まで捜した。途中で親父達にも会ったがまだ見つかっていないとの事だった。家では姉貴が幼稚園の友達に電話してお邪魔していないか聞いていた。大通りを捜していると携帯が鳴った。琳が見つかったのかと慌てて携帯を見ると志穂からだった。
「海斗、今、仕事終わったよ。」
「志穂、琳が居なくなった。」
「え!」
「今、みんなで捜してるんだ。警察にもお願いして…」
「私も捜す。」
「助かるよ、頼む。」志穂に琳が着ていた服の特徴を教えて電話を切った。辺りはすっかり日が沈み真っ暗になっていた。暗い所が嫌いで俺にしがみついていた琳を思い出すと心が抉られる位の感覚になっていた。何処に行ったんだよ。早く出ておいで。おじちゃんが抱きしめて明るい所に連れてってあげるから。頼む。無事に出てきてくれ。
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