第3話

「ただいま」家のドアを開けながら言うと、中からバタバタと足音を立てながら玄関に向かって走る音が聞こえた。

「おかえりなさい」と姪の琳が出迎えてくれた。3歳の琳を抱っこしながら

「ただいま。良い子にしてたか?」

「うん。してたよ。おじちゃんはお仕事頑張った?」

「頑張ったよ。」俺の癒しだ。可愛くて仕方ないよ。こんなに可愛い琳を手放した義理兄の心境は解らないが、姉貴と義理兄の問題だからしょうがないのかと。

離婚してくれたお陰で俺は毎日、琳を抱っこしてお風呂も一緒に入れるんだから

幸せだ。

「琳は本当に海斗の事が好きよね。」

「大きくなったら琳はおじちゃんのお嫁さんになるんだもん。」

「俺のお嫁さんになるの?嬉しいなぁ。」

「ほんとだよ、なるんだからね。」それを聞いた親父が

「琳、お爺ちゃんは?」

「お爺ちゃんはお爺ちゃん。」返ってきた言葉にガックリと項垂れる親父。

「お父さんまで。琳、モテモテだね。」

「まぁ、琳がいつまでそう言ってられるかしらね。」琳がこのまま大きくならなかったらいいのになんて思いながら家族で賑やかな夕食を囲んだ。



いつものように職場の火葬場へと出勤する。朝の打ち合わせでは今日の人数と各焼き場の担当が伝えられた。所長から予約の名前が読み上げられた時、一瞬、耳を疑った。俺が中学の時に好きだった人の名前と同じだったからだ。彼女ではない別人であって欲しいとその場では思っていた。打ち合わせが終わり

「今日も一日、よろしくお願いします。」と皆が一礼した。俺は直ぐに所長の所に駆け寄った。

「所長、今日の予約に柴山愛さんってありましたか?」

「ん?」所長が予約ファイルを確認する。

「あ~入ってますね。十一時の三番室、若い方ですね。」やはり彼女で間違いないと思った。

「何故、亡くなったか分かりますか?」

「知り合いですか?」

「多分、中学の時の同級生だと思います。」

「そうですか。葬儀屋さんの話では自殺らしいですけど、それ以上は詳しく分かりません。」

「そう…ですか…。」

「間宮君の今日の担当は一号室でしたね。別の部屋で良かったんじゃないですか。見たら仕事に支障が出てしまうと思いますよ。落ち着いて他のお客様をお見送りして下さいね。」ショックだった。何で…どうして…と言う言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。

「間宮君、大丈夫ですか?」所長の言葉にハッとした。

「大丈夫です。すみませんでした。今日も一日よろしくお願いします。」

「よろしく頼みますね。」所長に一礼し、一号室に入り準備を始めた。


あれから彼女の事が気になり中学の仲間に連絡を取った。やはり自殺したのは俺の好きだった柴山愛だった。彼女が大学の時に、付き合っていた男性と同棲していたが、事ある毎に殴る蹴るの暴力を受けていた。しばらくして妊娠している事が分かり彼に告げると「俺の子?」と。浮気をしているのではないかと疑われ、心労が重なり流産してしまったらしい。その彼に「良かったじゃん。」と笑いながら言われたものの、別れる事が出来ずにそのまま付き合っていた。そんなある日、彼が他の女性と歩いている所を見てしまい、問い詰めるとまた暴力で押さえつけられた。相手の女性からは彼と別れてくれと言われ、「別れないなら彼に貢いだ二百万をあなたが返して」と電話がきたらしい。追い詰められた彼女は遺書を残して自殺したと同級生の間での噂話を聞いた。本当かどうかは定かではないが、彼女が自殺した事は事実である。彼女がどんな想いで死んでいったのか、考えたら切なくてどうしようもない気持ちになった。安らかに天国に逝って欲しいと願うばかりだった。

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