第2話
季節が夏から秋の空気に変わり始めた、そんなある日の事。
いつものように運ばれて来るご遺体を丁寧に扱い、悲しみに涙する家族に一礼し最後のお別れを行うべく棺の顔を開けた。
「それでは皆様、最後のお別れを…」言葉に詰まった。
遺体の顔を見て言葉が出なかった。小学校でパワハラ教師として有名だった藤本だったからだ。心臓がバクバクと音が聞こえる位に高鳴っていた。藤本の遺体は昔と比べものにならない位に痩せ細っていた。とりあえず感情を抑え
「それでは最後のお別れとなります。」遺族に一礼し焼き場に入れた。扉が閉まる間
思わず口角が上がっている自分がいた。顔を戻し振り返り家族に一礼し
「控室でお待ちください。」と伝えた。藤本の奥さんと見られる人が家族に支えられながらやっとのおもいで歩いていた。控室に向かう親族が
「癌だったみたいで病院に行った時にはもう既に手遅れだったらしいわ。」
「まだ50歳半ばなのにね。」
「奥さん、だいぶショック受けたらしいわよ。」と小声で話しているのが聞こえた。親族の背中を見ながら「罰が当たったんじゃねえの」と心の中で呟いた。
誰も居なくなった焼き場の扉を見ながら笑みが溢れ、小学校の嫌な思い出が晴れていくような感覚だった。この仕事に就いて初めて「良かった」と思える瞬間だったかもしれない。
小学校の同級生でたまに飲み会をする。半年ぶりに集まった飲み会は4人だけだった。皆で仕事の愚痴や家族の事など近況を報告しあった。酒も進み、盛り上がってきた時に藤本の事を思い出した。
「この前、藤本が亡くなって火葬場に運ばれてきた。」その言葉に皆が驚いていたが悲しむ者はいなかった。
「末期の癌だったらしい。」
「そっか…まだ若かったんじゃないのか?」
「50半ばらしい。」
「お前、話したのか?」
「いや、親族が話しているのが聞こえただけ。」
その後は昔の藤本の話を酒の肴に盛り上がった。
火葬場に来る遺体は大抵、年寄りが多いが稀に若い人の時もある。若い人の死は事故死・病死・自殺に分かれている。基本、火葬場の職員は死の内容は分からないが家族が話している事で察する事が出来たり、遺体の状態で理解も出来る。これだけ毎日のように火葬していれば、そんな事はもうどうでもいい。ただ仕事として割り切って行っているだけなのだから。
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