火葬
tonko
第1話
「それでは最後のお別れとなります。」
親族に一礼し、ご遺体の棺を焼き場に静かに進める。家族のすすり泣く声が背後
から聞こえてくる。扉が静かに閉まり振り返り家族に
「しばらくの間、控室でお待ちください。」と一礼する。
この仕事に就いて何度同じ事を伝えたか。何体の遺体を焼き場にお見送りしたか、
約一年働いている今ではもう数えきれない位だ。
毎日のように遺体を見ていると人の死というものが呆気なく見えてしまう。そういえば祖母が亡くなった時は、もう少し優しくしておけば良かったなぁなんて思った。命が亡くなるまでの火は消えないようにと看病し延命治療を続けるけれど、亡くなってから骨になるまでは早いものだと火葬場に勤めてから感じるようになった。最近では死に対する感情が無くなったように思えてならない。
人間は必ず死ぬんだし。今のこの感情のまま、昔、虐めてきた奴の遺体が来たら心の中でガッツポーズするのかなぁなんて事も思った。
ふと、小学校の時の担任に今で言う教師からのパワハラ行為をされた事を思い出した。あれは酷かった。今は虐待とか教育委員会に訴えると言うと先生も何も言えなくなるらしいけど、昔はビンタや拳骨なんて日常茶飯事だった。廊下に立たされたりした子もいたし、宿題忘れてグランドを走らされて授業を受けさせてもらえなかった子もいたよ。その担任が火葬場に運ばれて来たら笑ってしまうのかも。
「先生サヨナラ」って笑って送ってやろう。そんな事を考えている自分は普通じゃないのかもなんて時々思ったりしながら毎日を生きていた。
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