タケル・ロールプレイング2

「……おれ、こんなに体力あったっけ……?」


 朝から山を登ったり下ったりしてるのに、そんなに疲れたりしないし、速さも変わらない。転生して肉体強化されたのか?


 確かめる術はないので、とりあえず先を進んだ。


「……また陽が暮れてきたか……」


 よくある転生ものなら盗賊に襲われた馬車が現れたり、町があったりするのに一日歩いてもイベントが発生しない。いや、盗賊とかのイベントは発生して欲しくないけどさ。


また野宿かと辟易していると、茶色い肌をした人型の醜い生き物が二匹、現れた。


「ゴ、ゴブリンか!?」


 緑色の肌はしてないが、なんかゴブリンっぽい。と言うか、敵意剥き出しだ! 襲って来るのか?! 昨日の猪はノーカンとして、これが異世界初の戦闘となるのかっ!!


「ギャー!」


 ゴブリン(仮)たちが歯を剥き出しにして威嚇し、手に持つ木の槍をこちらに向けた。


「悪い!」


 グロックを抜き、ゴブリン(仮)たちに弾丸を撃ち込んだ。


 山を歩いて少しハイになってるのか恐怖はあまりなく、殺したことへの罪悪感は少ししかなかった。


「ゲームなら消えてくれるんだがな」


 これは現実だとばかりにゴブリン(仮)たちは消えてくらない。赤黒い血が流していた。


 剥ぎ取りなどできるわけもなく、仲間がよってくるかもと、その場から走り去った。


 走ったことで息は荒くなるが、息切れになることはなく、山を一つ越えてしまった。


「……やっぱり、強化されてるのか……?」


 ただ、超人的に強化された感じじゃないな。鍛えたくらいの強化なような気がする。


「微妙だな。強化してくれるんなら二倍くらいにしてくれよ」


 なんて文句を言ってる暇はない。大陽がもう山に沈みそうだ。早く野宿できる場所を探さないと。


 早足で先を進むが野宿できそうな場所がない。ど、どうする、おれよ!?


 やがて暗くなり、どこからか狼のような遠吠えが耳に届いた。


「不味いって!」


 自分でもわからず木にしがみつき、無我夢中で登った。


 地上から数メートルの枝に着くと、荒い息が下から聞こえてきた。


 暗くてわからないが、獣の気配が濃く伝わってくる。


「……間一髪かよ……」


 あのまま走っていたら襲われて、新たな人生が終了してことだろうよ……。


 収納鞄に手を突っ込み、ライトがないかを探ると、ショットガンが出てきた。ライトつきのが……。


「いや、違くね!?」


 なんなんだ、いったい? あの自称試練の神様はなに考えてんだ? ファンタジーな世界でFPSをやらせたいのか? いや、剣を持たされても嫌だけど!


 ショットガンについたライトをオンにして下を照らす。


「…………」


 狼じゃなく、なんかオークっぽいものが下にいた。


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ! これはヤバイのだ! ヤバすぎて木の上でも安心してられない状況だ!


 あたふたしてたらオークっぽいのが石斧を振り上げて、おれが登った木へと振り下ろした。マジかよ!?


 どんだけ力が強いのか、おれが四人輪になったくらいの木が凄く揺れている。


 このままだと確実に倒される。倒れたら確実に死ぬ。死んだらオークっぽいものに食われる。


 秒速で自分の未来が見え、おれの中でなにかがキレた。


「──死んでられるかよ!」


 ショットガンを下に向けて撃ち放った。


 石斧を振っていたオークっぽい生き物の頭に直撃。脳ミソを吹き飛ばしながら地面へと倒れた。


 木の揺れがなくなったことで弾の排出と装填ができ、次々とオークっぽい生き物に弾丸を食らわせてやった。


 弾がなくなり、ライトで照らしながらグロックを抜いて全弾食らわせてやった。ざまあみろざまあみろざまあみろ!


 ただ撃っただけなのに息が切れてしまい、全身から汗が吹き出した。


 しばらく興奮が収まり、気持ちが落ち着いてきた。


「……ここにいるの、不味いかな……?」


 他にも仲間がいるかもしれない。逃げたほうがいいのか? いやだけど、この暗さじゃ迷うだけだ。夜は動かないほうがいい。孤立無援なんだからな。


「ロープ、あるかな?」


 と、収納鞄を漁ったら、あった。どうなってるんだ、この鞄は?


 まあ、ファンタジーな世界なんだから、そう言うものだと納得しておこう。おれにはこの謎を解けないんだからな。


 ロープで体を縛り、落ちないよう木に縛りつけた。


「ここで一夜を過ごすしかないな」


 収納鞄にはショットガンの弾があったので装填して、グロックのマガジンを交換する。


「なんだか今日で撃ち尽くしそうだな。あはは……」


 だが、今日を生き残らなくちゃ明日はない。やるしかないだろう。


 覚悟が決まると気持ちが落ち着いてくる。感覚が研ぎ澄まされてくるのがわかった。


 しばらくして獣の息遣いが聞こえてきた。


 息遣いは木の下まで来ると、なにかクチャクチャと耳に届き、生臭い臭いが上がってきた。


 ……共食いしてるのか……?


 気にはなるが、どうしても知りたいと言うわけじゃない。おれが今やるべきことは生き残ることだ。


 深呼吸を三回。覚悟を決め、ライトをオン。ショットガンを下に向けてトリガーを引いた。


「死んでたまるか、畜生がっ!」

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