タケル・ロールプレイング1

 しばらくなにも考えられず佇んでいたが、いつまでも森の中にいるのは危険だと思い、動き出した。


「そう言えば、収納鞄がどうとか言ってたな」


 今のおれは、なぜか青のジャージだ。


「……あの神様、センスないな……」


 ジャージに肩からかける鞄とか、この世界の人が見たらどう思うやら。いきなり追いかけられたりしないといいんだがな……。


 収納鞄に手を突っ込むと、なにか大空間が広がっている感じがして、探っているとなにか硬いものに触れた。


 それをつかんで出すと、拳銃だった。


「……グロック17……?」


 はあ? なんで? そこはナイフじゃないの!?


 また収納鞄を探ると、マガジンやガンベルトなんかがあった。


「……試練、なんだよな……?」


 拳銃が初期装備って、FPSなファンタジー世界なのか? 敵は大群でやって来るのか? 虫は勘弁して欲しいんだけど!


 ううぅ。転生(転移?)して早々挫けそうだよ……。


 泣きそうになりながらガンベルトをしてグロックを収め、マガジンをポーチに入れる。モンスターとか現れたら嫌なので。


 おっかなびっくりしながら森の中を進むと、細い道に出た。


「獣道か?」


 死ぬまで都会暮らしだったので、獣道か人が歩いてできた道かはわからない。どっちに進んでいいのかもわからない。どっちにいけばいいんだ?


「コンパスとかないかな?」


 収納鞄を探るが、コンパスみたいな方向がわかるものはなかった。


「……今日は野宿かな……?」


 缶詰とレーションは何日か分はあり、水は5百ミリのペットボトルが二十四本。カセットコンロ(ガス×3)。ヤカンやフライパン、食器などがあるからしばらくは大丈夫だろうが、野宿はキツいな……。


「いつか狩りとかしなくちゃならないのかな?」


 スーパーで売ってるパックの肉だって触ったことないのに、生き物の解体なんて無理ゲーでしかない。と言う、人とも戦わなくちゃならないのか?


「……なんか気持ち悪くなってきた……」


 まだモンスターと戦ってもいないのにHPがレッドゾーンに入ってる気分だよ。


 ──ガサ。


「ヒィッ!?」


 グロックを抜いて音がしたほうへ向けて無我夢中で弾丸を放った。


 全弾撃ち尽くしても引き金を引き続け、やっと我を取り戻すと、数メートル先に黒い猪が倒れていた。


「……お、おれが、殺した、のか……?」


 そんな問いに誰も答えてくれはしない。ただ立ち尽くし、鳥の鳴き声で我を取り戻した。


「……人じゃなくてよかった……」


 いや、猪だからいいってわけじゃないか。問答無用で無意味に殺してしまったんだからな。


「どうしよう?」


 今のおれに猪の解体なんて無理だ。精神的にもだが、解体の仕方なんて知らないもの。


「収納鞄に入れるか? って、入るのか?」


 結果、入りませんでした。どうも、鞄より大きいものは入らないようだ。


「……不親切な鞄だな……」


 いや、これも試練なのか? 解体させるために? 


「上げて下げてかよ。悪辣な試練だな」


 解体なんて無理なのだからすっぱり諦め、マガジンを交換して歩き出した。どちらかは適当だ!


 二時間くらい歩くと、大陽が傾いてきてるのに気がついた。


「なんか寒くなってきたな」


 ってか、今の季節はなんなんだ? 周囲の木々からして秋っぽいが、夜は氷点下とかになったりしないよな? 防寒着なんてなかったぞ。


 暗くなる前にキャンプできるところ探さないと。


 段々と陽が傾いていくに合わせて気持ちが焦ってくる。泣きたくなってくる。や、止めてくれよ!


 駆け足になって進んでいると、大きな岩が現れ、その下に焚き火をした跡があった。


「……人がいるのか……?」


 わからないが、焚き火をした跡があるならここで一夜を過ごした可能性がある。完全に暗くなる前に枯れ枝を集めた。


 一晩持つかわからないが、それなりの量は集められた。


 ライターで枯れ葉に火をつけ、枝をくべて火を大きくしていく。


「文明の利器に感謝です」


 暖かい火に当たって安心したのか、ライターを頬擦りしていた。


 しばらく揺れる火を眺めていたら腹の虫が鳴り出した。


「なにか食べるか」


 収納鞄から焼き鳥の缶詰めとレーション(表現不可)を出して食べたが、美味しくなかった。でも、全部食べた。腹が空いてたから。


「……全然足りない……」


 と言うか、食べた気がしない。もっと食べたいな……。


 だが、ここで食べたら先はない。我慢しろ、おれ!


 空腹ではないが、物足りなさに涙が出てきた。


「一人がこんなに寂しいとは思わなかった」


 なんだか前も同じ経験をしたような気がするけど、今は苦しいほどに寂しくてしょうがなかった。


「これからも一人なのかな?」


 呟いてから後悔した。涙が止まらなくなってしまった。


「……一人は嫌だよ……」


 本当に自分が情けなくなる。嫌になる。どうしておれはこんなに弱いんだろう。強くなりたい。誰かといたい。こんな自分は嫌いだ。


 どうせ一人ならと、大声で泣いた。モンスターが集まってこようと構わず泣いた。泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いてやった。





 ◆◆◆◆◆◆◆



「……タケル……」


「ダメですよ、タムニャ」


「でも、タケルが!」


「これは船長を鍛えるためのものです。辛くても手を出してはいけません」


「わかってるけど、見てられないよ!」


「船長だけではなく、わたしたちも強くならなければいけません。船長を支える仲間としてね」


「…………」


「強くなりましょう。わたしたちはもう嵐山のクルーなのですから」


「……わかった。強くなる……」


「さあ。わたしたちも配置につきましょう。船長のことはカイナーズの方々が見守っててくれますから……」



 ◆◆◆◆◆◆◆


 そして、夜はふけていく。

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