タケル・ロールプレイング0
「バンドウ・タケル。君は死にました。ご臨終です」
目の前の、なんと言うか、出てくるジャンルを間違えたような厳つい男がそんなことを言った。
「……おれ、死んだんですか……?」
死にましたと言われてもなぜか衝撃はない。前に言われたような気がしないでもない。デジャブか……?
「そう。死にました。そして、君には異世界に転生することになりました」
「転生、ですか?」
これもなんら心に響いてこない。いったいなんでなんだ?
「……それは、もう決定なんですか……?」
「そう。決定です。嫌だと言っても覆りません」
「そう、ですか。じゃあ、しょうがありませんね」
自分でもびっくりするくらい死を受け入れている。おれ、こんな物わかりのいい性格してたっけ?
「そうそう、しょうがないしょうがない」
なんとも軽い……なんだろう、この人? 神? なんなんだ?
「ところで、あなたはいったい?」
「あ、おれ? あー……うん。タケルに試練を与える神だね」
試練? え? おれ、転生されるだけじゃないの? と言うか今、思いつきで言ったように感じたのは気のせいだろうか?
「あー深く考えないの。魂が弱い者には試練を与えて強くする必要があるんだよ。魂が弱い者は皆やってることさ」
そう、なのか? そう言われてもおれに確かめる術はないのだから、そう受け取るしかない、のか?
……なんなんだ、この頭に靄がかった感じは……?
「タケルにはファンタジーな世界で試練を受けてもらう。だが、なんの力もないタケルには酷すぎる。そのため三つの救済をしよう。一つ目は収納鞄。これはトラック一台分の容量がある。二つ目は基本装備。これは転生してから確かめてくれ。三つ目はネットスパー利用。スマホでカイナーズホームにアクセスして商品が買える。ただし、商品を買うには現地のお金で買うことになる。以上、説明終わり。異世界で生き抜き、魂を強くしてください」
と言われても頭が処理してくれない。これは本当に現実なのか?
「タケル。君は弱い。身も心もだ」
「…………」
「記憶になくても心が知っているはずだ」
そう、知ってる。おれは弱い。臆病者だ。たった一度、負けただけでおれは……なんだっけ? あれ? おれはなにを言おうとしてたんだ?
「君は強くならなくてはならない。これは君の宿命であり義務である」
宿命? 義務? どう言うことだ?
「答えは自分で見つけなさい。それが君に課す試練だ」
こちらの戸惑いなど構わず、試練の神は話を進める。
「さあ、タケルよ。試練を乗り越え、強くなるのだ」
と、靄が視界を奪っていき、意識が遠のいていく。
そして、意識が戻ると、おれは森の中に立っていた。十六歳の体のままで、だ。
「……これ、転生じゃなく転移じゃね……?」
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