メイドのミタレッティー編 第六話

 お休みがあっと言う間に過ぎ去り、指定された日になってしまいました。


 なにもせずのんびり部屋で過ごす至福のとき。なんて言えたら最高なのですが、故郷を捨て再生の地にやって来た者に安らぎはありません。


 しかも、同胞は働き自分は休むとか、あたしの心はそんなに強くはありません。次の日には同胞に混ざり仕事をしていました。


 まあ、料理は何度も作ったものだし、道具が充実していたので辛いことはありませんでした。いえ、お菓子作りを覚えられて楽しい時間でした。砂糖、チョコレート、果物、小麦粉と、使い放題。やりたい放題。趣味全開で作り倒しました。あ、食べ放題もはいります。テヘ☆


 ある意味、至福なときを過ごせたのですから文句はありません。バックにはチョコレートがたくさん入ってますしね。


 清々しい気分で目覚め、洗濯して綺麗になったメイド服に着替え、今日の朝は軽くオムレツねと、宿泊所の台所で作り、羊乳とふわふわパンを付け足して朝食を頂き、紅茶を一杯飲んでハレミーさんのところへ向かいました。


 でも、いたのはサニートさん。一緒にパン作りをした方です。


「おはようございます、サニートさん。そして、お久しぶりです。受付は交代制だったんですね」


「あ、あなたね。本当に全員の顔と名前を覚えているのね?」


 はい? 自己紹介したのですから覚えてて当然じゃないですか。サニートさんは、そう言うのが苦手な方なんでしょうか?


「いえ、なんでもないわ。早く来てもらって悪いけど、もう少し待っててくれる? まだ第四陣の子たちが来てないのよ」


 サニートさんのセリフに首を傾げました。


「……ダークエルフ族の子ではないのですか?」


 思えばこの二日間、誰からも第四陣に加わると言う話を聞いてはいませんし、用意をしている方も見ていません。となると、他の種族の方々が来る可能性が高くなります。


「ええ。クルフ族の女の子が三十人ほどが来るわ」


 クルフ族、ですか? 確か物作りに長けた種族でしたよね? それがメイドですか?


 カイナーズにも何十人といましたが、誰もが職人で車や飛行機を整備して、油まみれの汗だく、なのに皆さんやる気に満ち、誇りを持って仕事をしている姿を見て、この種族は皆職人なんだな~と思いました。


「まあ、そんな顔になるのは無理ないわね。でも、クルフ族は男社会。女は仕事ができないのよ」


「なるほど、だからゼルフィング家ですか」


 職業選択の自由があり、職業訓練ができる。種族存亡のとき。そんな古い考えをしていたら滅んでしまう。とは言え、古い習慣はそうなくならない。


 誰が考えたかはわかりませんが、惚れ惚れするくらいの判断と決断をするものです。そして、その慣習を一顧だにしないゼルフィング家。なんとも革新的なお家です。


「……あなたってほんと、とんでもないわね……」


「はい? なにがですか?」


「いいえ、なんでもないわ。来るまで休んでて」


 話は終わりと、受け付けを追いやられました。なんでしょうね、いったい?


 考えてもしょうがないので大人しく待ちます。あ、いえ、暇なので銃の手入れでもしますかね。


 防衛隊の隊長さんから無理矢理押しつけられた餞別ですが、護身用としては便利なので大事に使っています。


 二丁目を手入れしていると、ふっと影が生まれました。なんでしょうと顔を上げたら、クルフ族の女の方がいました。なにかご用でしょうか?


「……それは、なにかしら?」


 銃を指して尋ねてきました。


「銃と言う武器です」


「み、見せてもらえるかしら?」


 殺気はないのですが、なにか獲物を狙う狩人のような目付きです。ちょっと引きます。


「どうぞ」


「いいの!?」


 本来なら自分の武器を貸すなどあり得ませんが、これは弾丸がなけれ成立しない武器。貸したところで問題はありませんし、この銃は認証識別装置なるものがついていて、あたし以外には使えません。まあ、どう言う仕掛けかはわかりませんがね。


「お気になさらず。でも、乱暴に扱うのは止めてくださいね。自分の身を守るための武器なので」


「え、ええ。見せてもらうだけ。弄っりしないわ」


 そう言った通り、銃を見るだけのクルフ族の女の方。どうやら銃と言う武器に興味があるわけではなく、作りに興味があるようです。


「ありがとう。いいものを見せてもらったわ。あ、わたしは、フミ。見た通りクルフ族よ」


「あたしは、ミタレッティーと申します。見ての通りダークエルフです」


 頭を下げると、なにか不思議そうな顔をされました。なんでしょうか?


「ゼルフィング家の案内の人?」


「いえ。フミさんと同じ第四陣です。ちょっと事情がありまして、第四陣に入れさせていただきました」


 どうやらゼルフィング家の案内人と誤解されたようです。まあ、こんなしゃべりでメイド服ですしね。無理もありません。


「皆さん、集まってください。ゼルフィング家の案内人さんが来てくれました」


 と言うのでサニートさんの周りに第四陣の方々が集まります。


 サニートさんの横には、なにやら強い魔力を持つクルット族の男の方がいました。


「初めまして。わたしは、ゼルフィング家で執事でレッセル・ロガナと申します。皆さんの指導、指揮の長となります」


 執事ですか。執事と言うよりは魔王の参謀か懐刀と言った方がお似合いな方ですね。


 執事さんの言葉が終わると、隊列を組んで出発です。


 建物を出て町の奥にいくと、奥が見えない通路が現れました。


「ここは、港とゼルフィング家を繋ぐ専用通路です。許可なき者は通れないようになっています」


 と、執事さんが全員にカップの形をしたバッチを配りました。


「これはゼルフィング家で働く者の証しです。肌身離さずつけておいてください。私服のときもです」


 なにやら仕掛けがあるようです。まあ、悪い感じがしないので大丈夫でしょう。え、見えるところにですか。わかりました。


「それと、これも常につけておいてください」


 今度は名前を書かれた金属製の札が配られました。あたしの名前が書いてあります。こちらはなにも仕掛けはないようですね。まあ、勘ですが。


「では、参ります」


 執事さんを先頭に通路へと入ります。


 皆さんは、奥が見えない通路に戸惑いを見せ、誰も動きませんでした。


 どんな説明を受けたかわかりませんが、あんな怖い執事さんの後に続くのは勇気がいることでしょう。


 あたしは、あの方以上の怖い方を前にしてるので怖くはありません。なので後ろにいたあたしはクルフ族の方々を迂回して通路へと入りました。


「み、皆、いくわよ!」


 どうやらフミさんが代表なようで、同胞たちに活をいれて通路へと入って来ました。


 執事さんの後ろにつき、長い通路を黙って進んでいると、執事さんが振り返りました。なんでしょうか?


「あなたが、ミタレッティーさんですか?」


「はい。そうです」


「あなたはわたしの下に入ります」


「はい。わかりました」


 今、人事発表ですか? と言いたかったですが、上司に当たる方。余計なことは言わないのが賢い処世術です。


 なにか言いたそうな気配がありましたが、それを無理矢理押さえ込んで先を進みました。


 ……なにやら波乱な予感です……。

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