メイドのミタレッティー編 第五話
当然ですが、建物の中にはたくさんの同胞がいました。
入って正面に受け付けがあり、女の方がいました。
「ハレミーさん、こちらにいたんですね」
手伝いを申し上げたとき、一緒に炊き出しをした方です。あたしは、すぐにいなくなったので久しぶりの再会です。
「あ、お、お久しぶりです。よく覚えてましたね。そんなに話す機会もなかったのに」
「最初のときに自己紹介したじゃありませんか」
いやですね。名前も知らないでは不便だこらと自己紹介しましょうと言ったのハレミーさんじゃないですか。
「そうだけど、あの場に三十人もいたのによく覚えられたわね。わたしですら半分も覚えられなかったのに」
そうなんですか? そんな難しい名や長い名はなかったと思うんですが。
「……さすが補助のミタレッティーね。引っ張りだこになるはずよ……」
補助のミタレッティー。最初の頃はよく言われてましたが、それ、仕事を巻かせられないってことですよね。三流と言われているのと同じです。まあ、事実なので反論はしませんでしたが。
「あの、わたしと同じ村の者はどこでしょうな? 早く会いたいのですが」
手伝いの合間に村の者とは会って、いろいろ物資をわけていましたが、見回りから忙しくなって会ってないんです。皆無事でしょうか?
「タヤ村の方々ね。十六番地にいるわ。ここを出て右に進めば十六番地と書かれた看板があるから、その周りを探してごらんなさい。タヤ村の仕事場があるから」
ここを出て右ですね。わかりました。
と、早速行こうとしたら呼び止められました。なんですか?
「あなた、仕事は決めたかしら?」
「いえ、まだ決めてません。ここに来たのが突然だったもので」
もう少し未来を考える時間が欲しかったです。いえ、考えなかったあたしがいけないのですがね。
「なら、第四陣に入る?」
第四陣?
「もしかしてそれは、メイドのお仕事のことですか?」
「あ、ごめんなさい。説明が不足していたわね。と言うか、よくそれでわかったわね?」
「先程、海から出て来た人族の男性にお伺いしましたので」
でなければさすがにわかりませんよ。
「海から? あ、アバール様ね。あの方はこの港の代表で世界貿易ギルドのギルド長よ。あなたなら問題ないでしょうけど、口の聞き方には注意してね。あの方がわたしたちの未来を握っているのだから」
はい。重々承知しています。失礼はしませんよ。
……もっとも、そんなことで気分を害される方には見えませんでしたがね……。
「それと、これもないとは思うけど、変な色目は使わないこと。あの方には奥様がいて、大切にしているのですから」
異種族とは言え、ダークエルフの女性は普段は冷めてますが、色恋になると激しくなる。もう思い立ったが特攻ですからね。その注意は必要でしょう。
「はい。肝に命じます」
まあ、あたしは純愛派なので妻子のある方には興味はありませんけどね。
「そう。あなたなら安心ね。それで、第四陣に入る?」
「はい。お願いします。あ、仕事の内容やお給金はどうなっているんでしょうか? アバール様のお話ではよいところのようですが、仕事がないとか申してたんですが?」
「仕事と言うよりは職業訓練と言った方がいいかもね。ゼルフィング家、あ、ゼルフィング家にはアバール様以上に注意を払ってね。ゼルフィング家のご長男様がわたしたちを受け入れてくれ、仕事を与えてくださるんだから」
もちろんです。ご恩ある方に仇を返すようなことは致しません。
「ゼルフィング家では主にメイドとしての能力を磨いたりしますが、それぞれの向き不向きを見ていろいろ訓練を受けられます。あと、辞める辞めないは各自の判断に任され、職業選択の自由が与えられます。なので、自分の未来は自分で築いてくださいね」
はい。なるべく平和な未来を築けるようにがんばりますです。
「なら、二日後の朝、またここに来て。第四陣が揃ったらゼルフィング家の執事が案内してくれるから」
「なにか持参するものはありますか?」
「なにもないわ。まあ、あなたはとっくにゼルフィング家のメイドの格好をしてるんだけどね」
あたしには普段着なんですけどね。着心地がよいですから。
「では、二日後の朝に来ます」
お礼を言って村の皆のもとへ向かいました。
十六番地まで来ると、見知った顔がちらほらと見えましたが、なにやらいい香りがあちらこちらからします。
「炊き出し、でしょうか?」
それにしては量が少ないですし、作る場所がたくさんあります。これは、料理の練習をしている風に見えますね?
「ミタレッティー!」
呼ばれて振り返ると、村長がいました。なにやらちょっと肥えてませんか?
「村長。無事でなによりです。一緒にいれず申し訳ありませんでした」
「なに、お前ががんばってくれたお陰でダークエルフの待遇はいいよ。こうして仕事を優先的に回してもらってるからな」
仕事、ですか?
「ああ。ここで作った料理は他の連中に配られているのだ」
なるほど。数が数ですしね。専用の部門を作らないと上手く回りませんしね。
「なら、不自由はしてないんですね」
「ああ。村にいるより健やかさ。ほれ、味見をしてたらぶくぶくに太ったわ」
道理で。この様子ではあと二百年は生きそうです。
「お前もここで働くのか?」
「いえ、あたしはゼルフィング家で働きます。恩返しがしたいですから」
本音は清潔な環境で平和に暮らせそうだからです。
「そうか。お前ならよくしてもらえるだろう。がんばりなさい」
ええ。自分の平和を守るためですもの、全力でやりますとも。
「部屋は空いているところを使いなさい。使ってないところは札がないから。決めたら名前を書いてドアに下げておきなさい。風呂は共同浴場があそこにあるから。お腹が空いたらそこら辺で食べなさい。味見と言えば食べさせてくれるから」
確かに、ダークエルフは優遇されてますね。食事に困らず寝る場所もある。堕落しそうです。
「では、申し訳ありませんが、休ませてもらいます」
二日後の朝まではゆっくり休ませてもらいます。と言うか、休まず働かされたことに今、気がつきました。
カイナーズ社、絶対に入らないと固く誓います。
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