メイドのミタレッティー編 第四話

 し、死ぬかと思いました……。


 ほんと、なんなんですか! 空から落ちるとか意味わかりません! なぜあたしがこんな目に合わなくちゃならないんですか! いろんなところから水分が漏れましたよ!


「アハハ! やっぱり遊撃メイドはスゲーな。初めてだってのに、空中でパラシュートを切って風の魔術で岩場に着地とかありえねぇーよ!」


「まったくだ。あんなスゲー技、おれたちでも不可能だぜ!」


 海に落ちたカイナーズの方々が笑ってます。


 頭がおかしいです。まったく笑えません。あのまま落ちてたら岩場に激突です。確実に死んでました。我が人生、ここに終了す、です!


「どうだい、これを気にカイナーズに入れよ。あんたなら直ぐに幹部だぜ」


 冗談じゃありません。空から飛び降りるのが仕事とかあり得ません。あたしは、平凡な女です。あなたたちのような頭が狂った方々と一緒にしないでください!


「あたしは、安全な職場で平凡に生きて行くのがお似合いな平凡な女です」


 と言ったら大笑いされました。なぜですか!?


 もういいです。この方々とはここでお別れです。あたしは、同胞のもとへいくのですからね。


 カイナーズ社の、なにか大きい船で洞窟の港に運んでもらいました。


「じゃあな。仕事がなかったらカイナーズ社に来いよ」


「そうだぜ。遊撃メイドならいつでも歓迎だぜ」


 貧窮しても絶対に行きません。あと、遊撃メイドってなんですか? あたし、メイド服は来てますが無職ですが。


 カイナーズ社の方々と一緒にいると、また変なところに連れていかれそうなので速やかにお別れです。さようなら~。


 と、別れてはみましたが、村の皆や同胞さんたちは何処に?


 洞窟の港の奥にある町を探しますが、見当たりません。完全にはぐれました。


 こう言うときは慌ててもしかたがありません。幸いにしてお金なら充分にありますし、カイナーズ社の方々と別れ時に私物をもらいました。


 ……なぜあるかは気にしないことにします。考えたら負けな気がするので……。


「お風呂に入りたいです」


 お湯に浸かってこのやるせない気持ちと疲れを癒したい。もう柔らかい布団で安らかな眠りを所望します。


 こう言う町には宿屋があると聞いていますし、今日はちょっと贅沢して高級なところに泊まりましょう。はい、決定です。


 意気込んで宿屋を探しますが、どこにもありません。と言うか、ここにいる皆さん、移民して来た方々ばかり。前のところと状況は変わりませんでした。


 町と言ってもお店がある訳じゃなく、カイナーズの方々が仕切り、配給や仕事の斡旋とかしていました。


「お手伝い募集してま~す。簡単な手伝いなのでご協力お願いしま~す」


 だ、そうです。皆さんの尊い犠牲をお願いします。あたしは、前のところとで散々したのて今回は辞退させていただきますのであしからず。


 それより、宿屋がないのは困りました。以前なら野宿も平気でしたが、一度あの柔らかい布団を覚えてしまったら土の上で寝るなんてしたくありません。お風呂に入らない生活なんて無理です。あたしは、清潔に生きたいのです!


 だからと言ってカイナーズ社に行く選択肢はありません。柔らかい布団の代価が空から飛び降りるとか、暴利過ぎます。あれは一回ケーキ八ホールはいただかないとやってられません。


 どうしたものかと考えていたら、また港に戻って来てました。


 しばらく海を見詰めていたら、海面から誰か、人族の男性が顔を出しました。


 ……水泳かしら……?


 体感からして季節は初夏手前。海に入るのはそれほど辛いとは思いませんが、水泳を楽しむにはまだ水は冷たいと思うのですが、大丈夫なのでしょうか?


 どうやら階段になっているようで、人族の男性は、苦もなく海から上がって来ました。


 それに魔法でしょうか。まったく魔力は感じませんが、男性の衣服は濡れていません。それどころか息切れもしていません。


 いつからここにいたかは忘れましたが、それでも結構な時間、ここにいましたし、ずっと海面を見詰めていました。


 人族は初めて見ましたが、伝え聞く話では、そんなに強い種族ではなく、魔力が少ないとされる鬼族よりさらに少ないとか。まあ、どの種族にも例外はありますが、目の前の男性の魔力は微々たるもの。生まれて五年もしない幼子より少ない感じでした。


「ん? ベーんとこのメイドさんかい?」


 男性の話し方からして、同じメイド服を来た者を知っているようです。これは幸運かもです。


「いえ、同胞より遅れて来たので、その方のところのメイドではありません。不躾で申し訳ありませんが、あたしの同胞、ダークエルフなのですが、どこにいるかおわかりでしょうか?」


 ぜひ、知っていると答えてください!


「ああ、追加の人か。それは結構。あのバカには人一倍受け入れてもらわんと割りに合わんわ」


 え、えーと、よくわかりませんが、それはそちらで片付けてください。あたしには関係なさそうなんで。それより同胞のことを教えてくださいませ。


「あ、ワリーワリー。お仲間さんだったな。知っているからついて来な」


 どうやら案内してくれるようです。よい方に巡り合えた自分、よくやりました!


 男性について行くと、町中にある建物に案内されました。なんですか、ここは?


「一応、ダークエルフの総合受け付けになってるよ。まだ、ここが上手く機能してなくてな、今は種族毎にわけて生活してもらってんのさ。まあ、ダークエルフ族の受け入れは決まってるから安心しな。ただ、受け入れが多過ぎて仕事がないと思うがよ」


 なにやらここら辺では有力な方のところにお世話になっているようです。力のある人族は差別したり奴隷にしたりするのが好きだと聞いたことがあります。大丈夫なんでしょうか?


「ふふ。まあ、心配するなって方が無理だが、その家の者は、種族差別どころか種族区別もできねーお人好し一家さ。まあ、一人腹黒なヤツがいるが、名前すら覚えらねーバカだ。雑に扱っても構わねーよ。バカだからな」


 言葉は貶してますが、その口調に含むのは強い愛情を感じます。よほどこの方の心を捕らえているんですね。


「あたしたちをお救いくださったこと、本当にありがとうございます」


 たぶん、この方はここでは有力なお方なのでしょう。違う種族に偏見や忌避を持ってないのがよい証拠です。


「ほ~。なかなか優秀なメイドさんのようだ。まあ、おれは巻き込まれた口さ。あんたらを救ったのは自称村人だよ。礼ならそのバカに言ってくれ」


 自称、村人、ですか?


「よくわかりませんが、それでもあたしたちの恩人です。どうか感謝を述べさせてください」


「なら、ありがたくもらうよ。だから、それ以上はいらん。あとは、自分たちの力で生きるんだな。ここは、自分の居場所は自分で勝ち取らないと生きてはいけないところだ。生きたきゃガンバるんだな。じゃあな」


 なんと言いましょうか、気持ちのよい、なんとも器の大きい方です。そんな方が全幅の信頼を寄せる方とは、いったいどんなお方なんでしょうね?


 凡才なる身で、平凡な女ですが、そのご恩には報いたいですね。


 さて。まずは自分の居場所を作りますか。でないとご恩は返せませんからね。


 ミタレッティー、がんばります!

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