メイドのミタレッティー編 第三話
あたしことミタレッティーは、たぶん、空を飛んでます。
たぶんと言うのはここが密室な上に、無理矢理ここに入れられたからよくわからないんです。
なぜ、こうなったのでしょう。謎です。
見回りのお手伝いを辞退して、安全なところに回してもらったのですが、半日といられずあっちにこっちにと回され、気がついたら同胞の方々や村の者がいなくなっていました。
……あたし、手伝いとしているんですよね……?
周りにいるのは港を仕切るカイナーズの面々です。
え? カイナーズってなんだ、ですか?
すみません。あたしにもよくわかりません。たぶん、魔王の配下じゃないですかね。どの方も強くて賢い方々ばかりでしたから。
……場違いがハンパないのですが……。
「あ、あの、あたし、いつまでここにいたらよいのでしょうか?」
聞くのが遅いよと言われかねませんが、余りに待遇がよかったために気が回らなかったのです。ケーキ。あれは神でした……。
とまあ、食欲に負けていた訳ですが、さすがに一人は心細いです。あたし、そんな社交性もありませんし。
「あ、そう言えばミタレッティーってカイナーズの者じゃなかったわね」
「え、ミタレッティーってカイナーズに入ってなかったの?」
「そうなのか? おれはてっきりカイナーズの幹部かと思ってたぜ」
「わたしも。幹部の方々とか様づけだったわよ」
なにか、皆さんの中では仲間だったようです。
ちょっとウルってくるものがありましたが、あたしのような平凡な者がいてよい場所ではありません。ここはなにも言わず去るのが一番です。
「残念だけど、強制はできないしね。じゃあ、送りますか」
「では、わたしが送りますよ。カイナーズホームに人員を運ばなくちゃなりませんから」
「そうね。ミタレッティーなら大丈夫でしょうし」
「ある方がどうかしてるぜ」
と、なにやら皆さんの中で重要なことが決定したようです。本人を抜きにして……。
なにか嫌な予感がします。ここは逃げた方がよろしいようです。
皆さんがこちらを見てないうちに去ろうとしましたが、ここにいる方々は皆優秀です。なんの抵抗もできず、どこかへと連行されました。
飛行機と言うものがたくさん並んでいる港に来ると、なにか背負子のようなものや器具を渡され、使用法を学ばされました。
落下とか風圧とか不穏な言葉が出て来ますが、あたしと同じように説明を聞いてる方々は全員真剣に聞いてるため、あたしも嫌な予感を押さえ込んで使用法を学びました。
「では、搭乗せよ!」
顔中傷だらけの緑鬼族の方が叫び、周りにいる方々が駆け足で飛行機へと入って行きます。逃げてはダメですか? あ、ダメですか。はい、急いで入りますので担がないでください。
抵抗虚しく飛行機に放り投げられました。え、しゃがめ? わかりましたのでどならないでください。聞こえてますから。
て、飛行機とやらが動き、なにかに圧されるような感覚がやって来て、しばらくしたら寒くなってきました。
与えられたメイド服なるものは魔法具の一品で、暑さ寒さに強く、汚れ難く、剣や銃弾も防ぐとか。
そんな高性能な服なので寒くはありませんが、耳を圧されるのはなんとかなりませんかね? それに息が苦しいです。
皆さん、誰もしゃべらないので、こちらからしゃべりかけるのも憚れます。ここ、私語厳禁ですか?
暇なのでケーキのことを考えていたら、室内の緑灯が消え、赤灯に変わりました。なんですか、いったい?
「目的地上空に到達。降下用意せよ」
緑鬼族の方がそう言うと、室内が緊張に満ちました。逃げ……れませんね。覚悟を決めろってことでしょう。
……なぜ、こうなったのでしょうか……?
答えてくださる方なんていないとわかっているのに問いたくてしかたがありません。
と、赤灯が回り始めると、後方の扉が開いていきます。
……外が真っ暗なんですが……。
「恐れるな。訓練通りすれば問題ない」
あ、あの、ここに訓練してない者が約一名いるのですが……。
あたしの心の声など緑鬼族の方には届きません。一人また一人と闇の中に放り投げてます。泣いていいですか?
「次はお前だ。って、お前誰だ?」
「ミ、ミタレッティーと申します」
今さらですか!? とか叫びたかったですが、恐くて叫べません。あたし、平凡な女の子なんですよっ!
「ああ、お前があの遊撃メイドか。なら、大丈夫だな。ほら、いけ!」
強い力で押され、暗闇の中へと吸い込まれました。
冷たい風と頬が圧されるほどの風圧に耐え、教わった通りに態勢を整えます。
恐怖を無理矢理押さえ込み、瞼を開きます。
ゴーグルをしているので瞼は開けましたが、辺りは闇です。なにも見えません。
「あと、あたしスカートなんですがぁぁぁぁっ!」
闇の中で叫びますが、その声は誰にも届きません。いえ、届かないでください。そして、こちらを見ないでください。乙女的に困ります。
……下着、新しいのにしたばっかりなのに……。
そんな乙女の恥じらい、矜持、涙すら闇の中へと消えて行きました……。
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