メイドのミタレッティー編 第二話
見えて来ました。
ですが、ちょっとますい状況です。蛇人族の方――いや、蛇人族の子どもの背後にグランブルの群れがみえました。
速度を上げ、蛇人族の子どもの横を駆け抜け、グランブルの群れを牽き殺します。
嫌な感覚がハンドル越しに伝わってきますが、構わず牽き殺します。助けるべきは蛇人族の子ども。それがあたしの役目ですから。
ハンドルを右に左に切り、グランブルの牙から蛇人族の子どもを守ります。
不利と悟ったのか、グランブルが逃げていきました。ですが、あちらも生きるために必死であり、獲物を易々と諦めたりはしません。
用心しながら車を降り、なんとかセブンと言う連射できる銃を構えながら蛇人族の子どもに近づきます。
「立てますか?」
短く問うと、小さく「はい」と答えました。
この場を去るのが最優先と、蛇人族の子どもを支え、車に乗せます。
やはり一時的な撤退だったらしく、グランブルがこちらを伺っているのが見えました。
「すぐに治癒師のところに連れていきますから、堪えてください」
アクセルを踏もうとしたら、蛇人族の子どもがあたしの肩をつかんできました。
「み、皆が、後ろにいるんだ、助けて!」
混乱しているため、大半は意味不明でしたが、聞き取れた内容からこの子の同胞がなにかに襲われているようです。
「わかりました。しっかりつかまっててください」
あたし一人でなにができるかわかりませんが、迷っている暇はありません。臨機応変にやるまでです。
アクセルを強く踏み込み、蛇人族の子どもが指す方向に車を走らせます。
直ぐに見えました。蛇人族は約四十。戦士と思われる方々が地竜グロムの突進から仲間たちを守っていました。
あれは厄介です。皮膚が岩のように堅く、木々を簡単に薙ぎ倒すくらいの突進力があるんです。
あたしたちダークエルフの弓の名手でも倒せる者はいません。グロムは臭いで獲物を識別するので目にも当てられません。
「仕方がありません」
車を止め、遠くを狙える銃をつかみ、車の上にあがります。
弓と銃とでは扱いも感覚も違いますが、威力は銃の方が遥かに上で、この距離からでも届きます。
遠くを見ることができる筒に目を当て、グロムに照準を合わせる。
引き金を引くと、弾丸と言うものが筒から飛び出した。
外れました。更に引き金を引きます。何度かやると狙ったところに当てられるようになりました。
弾丸が切れ、新しい弾丸入れを交換。撃てるように操作して、撃ちます。
まったく効いてません。ですが、グロムが不愉快に思うくらいに効いているようです。ならば続けるまでです。
車から飛び下り、グロムに弾丸を撃ち込み続ける。
あたしの執拗な攻撃に完全に激怒したようで、こちらに向かって来ました。
距離はそれほどありませんが、狩りはダークエルフにとって日常です。物心つく前から弓をおもちゃにして育ちます。
……まあ、あたしが幼い頃までの話ですがね……。
弾丸を撃ちながら地面を凍らせます。あたしの平凡な魔力では地面を凍らせるのがやっとですが、猪突猛進なグロムには充分でしょう。
臭いで獲物を感知するグロムは、地面が凍ったことに気がつかず、そのま突進。凍った地面に足を滑らせ、通常の地面でひっくり返り、ゴロゴロと転がって行きます。
どんなに堅い体を持とうが、あれだけ回転して平気な生き物はなかなかいません。いたとしたら即行で逃げ出します。
ピクピクするグロムへと近づき、胸についている手榴弾なるものを二つ外し、ピンを抜いて体と地面の間にポイします。
急いで地面に伏せ、耳を塞ぎます。
轟音と振動が襲って来ますが、体に害を与えるものじゃないので堪えるのみです。
パラパラと降る土を払いながら起き上がり、銃をグロムに向けたまま近づきます。
ピクリともしないグロムに弾丸を一発、撃ち込みます。はい、ご臨終でした。
ふぅ~。やれやれ、ですね。銃があったとは言え、グロムを倒すなんて奇跡ですよ、まったく。
「でもまあ、お肉を得られてよかったです」
あたしたちダークエルフも肉は食べますし、肉大好きな方々もいますが、大体は野菜好きで、肉が出なくても不満はありません。あたしもどちらかと言えば野菜派です。あと、甘党です。あ、いえ、それは関係ありませんでしたね。
ともかく、です。肉が得られて助かりました。でも、どうやって運びましょう? 車には載せられませんし……。
「グランブルだ!」
おっとです。まずは蛇人族の安全確保が優先でしたね。
遠くを狙える銃を捨て、なんとかセブンに換え、グランブルを撃ち殺します。
弾丸箱を何度も交換しますが、グランブル多過ぎです。すぐに弾丸が切れ、拳銃に交換します。
外すことなくグランブルを撃ち殺しますが、全滅させるより弾丸が尽きる方が早いようですね。どうしましょう?
「ルバー! カレト! ザム! お嬢ちゃんに守られてばかりでどうする! アザルムの戦士の名が泣くぞ!」
蛇人族の戦士の方々がいきを吹き返したようで、次々とグランブルを倒して行きます。ほっ。助かりました。
「銃は威力がありますが、弾丸がなくなったら即死亡ですね」
暇ができたら誰かに剣を教わりましょう。まだ死にたくありせんしね。
「助かったよ、ダークエルフのお嬢ちゃん」
蛇人族の戦士の方にお礼を言われましたが、最後に助けられたのはこちらです。ありがとうございました。
「変わったお嬢ちゃんだ。まあ、この礼は必ず返すよ。まずは、仲間を安全なところに連れてってくれるか?」
そうですね。では、子どもや女性、怪我人を優先して車に、それに乗せてください。戦士の方々は、申し訳ありませんが護衛をお願いします。
「おう。任せろ! と言いたいが、なにか食い物はあるか? もう四日も食ってなくて力が出ねーんだよ」
食べ物、ですか? あ、確か保存食を積んでいるはずです。ちょっとお待ちください。あ、ありました。えーと、確かこう開けるんですよね。どうぞです。あ、水もありますので。
申し訳ありませんが、乗ってる方々は我慢してください。港に戻ればお腹いっぱい食べれますので。もうちょっと辛抱です。
戦士の方々がお腹を満たしている間に弾丸補給です。
パン! パン! パン!
と、銃の音が三発響き渡りました。
「……確か、敵接近でしたか?」
辺りを見回すと、遠くに暴竜を発見しました。しかも三匹も。
はい、無理です。あれには逆立ちしても勝てません。なので逃げます。
「戦士の方々。死にたくなければ死ぬ気で逃げてください」
戦士の方々の返事を待たず車に乗り込み、全速力で退散です。
全速力で走らせていると、前方から戦車と呼ばれていたものが高速でこちらに向かって来ます。
「ヒャッハー! 狩りの時間だぁぁぁぁっ!」
と、戦車と交差した瞬間、あたしに車や武器をくれた大きい人(?)がしたような気がしましたが、たぶん、気のせいでしょう。
あとは本職さんにお任せ。お手伝いは速やかに下がらせていただきます。
「はぁ~。もう見回りの手伝いは懲り懲りです」
安くてもいいから安全な仕事場に回してもらいましょう。やはり、平和なところが一番です。
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