メイドのミタレッティー編 第一話
どうも、ゼルフィング家でメイドをしているダークエルフ族のミタレッティーと申します。
ちょっと思うところがあり、しばらく自分を見詰め直したいと思います。どうかお付き合いください。
なんて、誰に言ってるのかわかりませんが、そこは軽く流していただけると助かります。
おほん。では、あたしが生まれたところは、いつも戦いをしているところでした。
強さが全て。弱ければ罪とされ、生きるには厳しいところでした。
まあ、強い者は極一部。魔族の全てが戦いに特化し、常に戦いをしている訳ではなく、弱い者は強い者に下につき、種を存続させるためにたくさんの血を流す、なんとも本末転倒な生き方でした。
あたしたちの一族、ダークエルフもとある魔王の配下となり、その弓の技と器用さで生きてきたとか。その頃はまだあたしも子どもで、村から出ることはなかったので又聞きでしたが、大人の男の人や、弓を引けるなら子どもでも連れて行かれたので、酷い状況なのは理解していました。
もう村に大人の男の人は弓も引けない老人と、女子どもしかいないとなった頃、戦いは終わりました。
終わったと言っても、すぐに戦いになるのがこの大陸の常。すぐにまた強者が現れ、戦いになることでしょう。
時々、その種族の強者が暴れましたが、以前のような酷い状況にはなりませんでしたが、作物がまったく手に入らず、獣も見かけなくなり、餓死者が出るようになりました。
幸いにしてあたしたちの村は、近くに湖があり、小魚や辛うじて食べられる水草があったので餓死者は出ませんでした。
でも、そんなのは希望にもなりません。他の村の同族も来るので、採り尽くすのも時間の問題でしょう。
お腹が空き、もうダメかと思ったとき、空から金属の箱が降って来ました。
なにごとかと、まだ力があるものが近づくと、なにか書いてあったそうです。
『新天地を望む者は食え』
とかなんとか書いてあったそうです。
あたしも文字は知っていたので読んでみたかったんですが、近づいたときには箱は開けられ、中に入っていた食糧を食べるので必死な同胞に邪魔され読めませんでした。
そう言うあたしも柔らかいパンを口いっぱいに詰め込んでたんですけどね。
お腹が膨れ、体と心が癒えた頃、やっとその異常に大人たちが気がつき、話し合いが始められました。
あたしは、参加できなかったので、そこでなにを話し合ったかは知りませんが、どうやら新天地へと向かうことになりました。
箱にはまだ食糧や道具、新天地へと向かう地図が入っており、出発するまでにそれほど時間はかかりませんでした。
新天地へ向けての旅は大変で、幾人かが脱落しました。あたしも危うく脱落しかけましたが、鬼族の男性に助けられ、なんとか持ちこたえました。
鬼族――赤鬼族のマタエモンさんは、鬼族とは思えないくらい優しい方で、新天地まであたしたちを護衛してくれました。
なんでも昔、同胞に助けられたとかで、その恩返しだそうです。
更にマタエモンさんの話では、あの箱を落としてくれた方の配下で、新天地へと向かう者たちの護衛も任されているようでした。
まさに命の恩人です。あたしもいつかは恩返ししたいですね。まあ、無力なあたしにできる日が来るとは思えませんが、気持ちを抱いていることはできます。できる日を夢見て生きましょう。
新天地へと向けて旅をしていると、あたしたちと同じく新天地へと目指すそれぞれ種族が合流して来ます。
他の大陸の方々は、この魔大陸に住む者を一括りに称して魔族と呼ぶそうですが、種族は多種多様です。
あたしたちダークエルフをとっても、氏族や信仰する精霊により様々ですし、戦いに向いた一族もいれば翼の生えたダークエルフもいます。
とても一括りにはできませんし、同胞とは思うないときもあります。でもまあ、一括りにできる総称があってもいいかもしれませんね。いろいろ便利ですし。
村を旅立って二十日は過ぎたでしょうか、なにか変な臭いが風に混じってきました。
なんだろうと思っていたら、マタエモンさんが教えてくれました。
「これは海の香りさ」
海、ですか? 前に一度聞いたような気もしますが、よく思い出せません。
臭いから美味しい想像はできませんでしたが、海を見たとき、心が破裂するくらいの衝撃を受けました。
「……こ、これが、海……」
丘の上から見る海。これをどう表現していいかわかりません。いえ、言葉にできないくらいの存在でした。
いったいどれくらい海に心を奪われていたのでしょう。辺りはすっかり暗くなり、誰もいませんでした。
凄く慌てましたが、箱には村の目印にと、変な獣の絵が描かれたものが入っており、それを掲げて来たので直ぐに合流できました。ほっ。
「これより新天地に向かう方々の名簿を作りますので、各種族毎に集まってくださぁ~い!」
ここに来て二日ほど過ぎた頃、夢魔族の方々が声を張り上げながらそんなことを言い回ってました。
村の大人が夢魔族の方に聞いたところ、ダークエルフ族系の者は緑の旗が揚がっているところに集まるようです。
言われた通りに緑の旗の下に行くと、結構な数の同胞がいました。
とは言っても、他の種族よりは明らかに少なく、大人の男の人が希にしか見れず、大半は女子ども、弓を引けなくなった大人でしたが。
それでも三百人は超えているでしょう。これが少ないか多いかはわかりませんが、まだ希望はあると感じました。
「名簿を作りますので順番に並んでください」
言われた通り列に並び、順番が来たら村の名前と自分の名前、年齢を伝えました。
そんなものでいいのかと尋ねたら、簡易なもので、正式なものは新天地に着いてから作るとのことです。
「出発は三日後の朝、緑の旗が揚がっている船で新天地へと向かいます。それまではゆっくり過ごしてください。水や食糧はたくさん用意してあります。それと炊き出しのお手伝いを募集しております。お手伝いしてくださる方には少ないですが、給金と物質が支給されます。ただ、新天地への出発は遅れます。それを踏まえて名乗り出てください」
手伝い、か。どうしよう?
新天地には早く行きたいし、あの話し方では無理矢理ではない。ここで名乗り出なくても罰にはならないはずです。
でも、新天地がどんなところかもわからない上に、新天地で仕事があるかどうかもわからないです。給金と支給物質が出るのはありがたいことだ。
それにあたしには両親はいない。戦いに連れていかれ、死んでしまった。まあ、それはあたしだけじゃなく、村の子どもはほとんどそうですが。
奇跡的に戻ってこれた者いますが、腕を無くしたり足を無くしたりと、働き手とは数えられません。もう見てるのが辛くなるほど生きる屍でした。
「あの、あたし、やります」
村ではあたしが年長者だし、村長にはお世話になった。村のためにも働いて恩返ししよう。
あたしが名乗り出ると、他の村の女の人が何十人と名乗り出て来ました。
「ありがとうございます。では、簡単ではありますが説明と、支給品を渡しますね」
夢魔族の人に立派な建物に連れて行かれ、水、ではなくお湯の中に入れられ、体を綺麗にした後、なにかヒラヒラしたものを着せられました。
「ダークエルフの方々にはメイドになっていただきます」
メイドってなによ?
と、他の村の女の人たちが疑問の視線を飛ばし合います。
「お城に勤めるのですか?」
「おや、メイドを知っている方がいましたか。なかなか博識なことで」
あ、いえ、前に、お城で働く女の人をメイドと聞いたことがあるだけです。それ以上はよく知りませんです。
「まあ、今は炊き出しや弱っている方々のお世話をお願い致します。もし、メイドに興味のある方は、働き場所を紹介しますよ」
働く場所を紹介ですか。それはありがたいことです。
なら、使える者だと思っていただけるようにがんばらないといけませんね。
「はい。お願い致します。精一杯お手伝いさせていただきます」
夢魔族の方に頭を下げると、他の方々も頭を下げました。空気の読める方々で助かります。多分、いい感情を持ってくれたことでしょう。夢魔族の方が柔らかく笑ってます。
「ふふ。やはりダークエルフ族は、賢い方が多くて羨ましくことです。わかりました。上にはそう伝えておきます」
なかなか話のわかる方で助かります。いずれこの方にも恩返ししなければいけませんね。
「では、お手伝い、お願い致します」
全員で頭を下げ、夢魔族の方の教育と指示のもと、お手伝いを開始しました。
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