花乙女チャコ編 第五話

 シュビンと岩影から飛び出し矢を射る。


 木の弓と言う二番目にいく町で売ってそうな攻撃力18くらいの初級の武器であり、矢も一本1コイン(ゲームのときの値段ね)の初級。HPを9も削ればマシな攻撃力だ。


 だが、電気ネズミには充分──どころかオーバーキル。肉片へと変え、大地にちょっとしたクレーターを作ってしまった。


「グロっ!」


 ファンタジーとは言えリアルはキツイな~。これじゃ虐殺だよ……。


 とは言え、リアルに生きてるあたしに情けはない。殺らなきゃ殺られるのがこの世界リアル。死にたくなければ先に殺せなのよ。


 次々と矢を放ち電気ネズミを射殺していく。


「ちょっと、アホチャコ! 一人占めするな!」


 おっと。そう言えばいましたな。もう一……花って株だっけ? 個だっけ? いや人か? なんなんだ?


「まあ、なんでもいっか」


 あたしは、花。地味な花。もう純粋な人ではない。不可思議な生き物。ならばなんの遠慮がある。そう、あたしを縛るものはなにもない。思いのままに、自分勝手に生きてやる。


「あたしは乙女。自由に生きる自由な乙女だ!」


 デカイ口を叩く割りに苦戦しているカナコを飛び越え、矢で電気ネズミを一閃する。


「まるでゴミのようだ!」


 ヒーハー! とばかりに電気ネズミを虐殺する。


 まさに我が軍は圧倒である。一騎当千って言うくらいだから一人でも軍でいいよね。まあ、軍でもないけどさ。ハイ、てけとーデス。


 五分もしないで虐殺終了。ふっ。たわいない。


 ──殺気!


 ヒラリと回避。その直後にグングニールくんが通りすぎていきましたとさ。


「なにすんじゃい、このアンポンタンフラワーがッ!!」


 なんどやらせんじゃボケが! こーゆーのは一回で充分じゃっ!


「それはこっちのセリフよ! わたしの活躍を返しなさいよ! レベルアップしそこねたじゃないのよ!」


 あーもーほんと、転生者やりたい放題だな。ゲーム脳のクソガキかなんかかよ?


「電気ネズミに苦戦してるとか、あんたが弱すぎるのよ。武器、意味ないじゃない!」


 ただ振り回すだけで使い方がなってない。まあ、戦闘のせの字もしらないキノコ人にわかれと言う方が悪いが、花人は戦闘民族じゃない。ましてやあたしもカナコも普通の花人。毒にも薬にもならない花だ。花としてのヒエラルキーどころかヒエラルキーにも入らない問題外。花は花らしく咲いていろ──なんて言う資格はないか……。


「あんた、強くなりたい?」


「なりたいわよ!」


 花人の気持ちなんかわからないけど、人の気持ちならちょっとわかる。


 いや、わからんか。あたし、引きこもりゲーマーな乙女だったし。


 でも、今のあたしは花人。人ではない花の乙女。自由に生きるには厳しい世界リアルで一人では辛い。やはり仲間は必要だ。


「なら、あたしが強くしてあげるわ」


 毒にも薬にもならないけれど、誰よりも自由に生きる花になって見せるわ。


 花の乙女、ナメんなよ!


 なんて意気がってみましたが、しょせん花は花。食物連鎖の底辺にいるだけあって超弱かった。


 いや、弱いだけならまだマシだ。アイテムで底上げしてやれば灰色熊くらいなら単独でも倒せる。が、肝心要の戦闘センスがまるでないでござるよ。


 だが、乙女に不可能はない! ただし、やりたいかやりたくないかは別問題です。


 とは言え、ドレスアップは乙女の悦び。乙女の習性。例えそれが鎧や戦闘服だったとしてもだ!


「やっぱり、モン〇ン系の鎧は美しいわよね」


 まさに神が創りし美の集大成。デザインした人、マジ神だわ。


「……チャ、チャコ、重い……」


「もぉう! しっかり立ってなさいよ! 美しさが台無しじゃないのよ!」


 二秒も立ってられないとか、どこのお嬢様だよ。野生に咲いてる花なら根性見せろや!


「ったく。しょうがないわね」


 鎧を道具箱に戻した。


「もっと軽いのないの? あれじゃ動けないどころか枯れちゃうわよ」


 まあ、花人族って皮膚呼吸ではないけど、体でも空気を吸ったり光を取り入れたりするから全身鎧って危険なのよね。


 じゃあやんなよ! とか突っ込みはいらないからお口にチャック。


「ん~。やっぱマント系と指輪系の武具に頼るしかないのかな。でも、それだと防御力がな~」


 花人族、紙装甲どころかマル裸だから、防御力は削りたくないのよね……。


「――あ、あれがあったじゃないのよ!」


 あたしのバカ。何年乙女やってんのよ。なにも鎧だけが防御力じゃないのさ。


 道具箱から拳大の球体を二つ、出した。


 浮遊型自動防御ユニット、リュウカリオンⅡだ。


 ファンタジット・ユニオンと言うSFシューティングゲームに出て来たもので、任意でビーム幕を出せるものだ。


 これならデンジャラス砲台ねーさんの攻撃だって防げるでしょうよ。


「へ~。おもしろいわね、これ」


 ビーム幕を出したり消したりするカナコさん。以外と慣れた感じでやってるわね。


 もしかしてと、同じゲームで出て来る武器、アルファード20VF――ビームガン(ハンドガンタイプ)を出してカナコに渡してみる。


「……まさかの百発百中かよ……」


 スゴいと言えばスゴい才能だが、花人に持たせる才能じゃないよね、これ。あたしがいなかったら無駄才能じゃないのよ。なんの神のイタズラだよ。こん畜生神が!


「でもまあ、あたしは近接戦闘タイプだし、後衛がいるってのはラッキーか──ハイ、来ると思いました!」


 ヒラリと回避すると、今いたところをレーザーが駆け抜けて行った。


「ハイ、こっちもねっ!」


 さらにヒラリと回避すると、今いたところに鋭い爪が通りすぎていった。


 ほんと、お約束だもん、わかっていましたわよ。


「このアホ花! なにやっとんじゃい!」


 わかってはいたが、それはそれ。これはこれ。殺人レーザー浴びて笑ってられるほど人間……じゃないですね。花ですね。って、そうじゃなくて、当たっら花でも痛いんだよ。神経あんだよ、この超不思議生命体はよ!


「ゴメーン!」


 テヘペロとかしてんじゃねーよ! つーか、そんな腐れ文化、花園に広めたら除草剤撒いてやんぞ、ゴラッ!


「うほいっ!」


 斜め上から来る爪をヒラリと回避する。いや、頬かすっちゃったよ!


「乙女の柔肌になにすんじゃい、この熊公が!」


 後門のバカをキュッとする前に前門の熊公をキュッとしますか。


「食らえや!」


 銅の剣を一閃。95の攻撃を与えてやった。


 ふん! しょせんHP40くらいの熊公なんぞ雑魚過ぎて狩りにもならんわ!


 剣を鞘に戻し、真っ二つになった熊公に剥ぎ取りのナイフを突き刺した。


 一瞬で解体され、皮と肉と爪が大地に転がった。


「……ゲームアイテムすげぇー、で納得しておきましょう……」


 ファンタジーな世界に生まれ、ファンタジーな存在になったからなのか、もう大抵のことはスルーできるようになったわ。


 はっ! もしやこれがウワサのゲーム脳!?


「まっ、なんでもいいわ」


 そうならそうでこのファンタジーな世界を生きるには好都合。ゲーム脳でもしてなきゃこんな非常識で理不尽なところで生きていけないわよ!


 気分を一新して熊公が落としたアイテムを道具箱に入れた。


 あ、花人がそんなもんどうすんの? とか言っちゃいや~んよ。ゲーマー戦士は、アイテムは必ず拾うもの。かどうかは人それぞれだけど、あたしは例えクズアイテムでも拾う性格。


 一寸のアイテムにも五分の魂。ハイ、ここが突っ込みどころだよ。カモーン。


 なんて脳内おふざけは強制終了させ、後ろ弾を食らわした悪い子ちゃんを狩らないとねっ。


 ケッケッケッと振り返ると、そこに獲物の姿はなかった。


「アホ花のクセに逃げ足が速いじゃないのよ」


 が、逃すかよ。


「さあ、狩りの時間じゃ、ボケーが!」

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