花乙女チャコ編 第三話

 気を取り直して狩り開始です。


「相変わらず意味不明ねチャコは」


 と、いつの間にかイ・シースの村の問題児、カナコがそこにいた。


 浮き花のクセになぜか陸にいるのが好きと言う、あんたの方が意味不明だわ! ってな花人だ。


「カナコ、また替えたの?」


 花人は服を生やす生き物で、近くの村からくる転生者のせいでオシャレさんが急増した。


 いったいどこの別次元からインスピレーションを受けているかはわからないが、萌え好きにはたまらん衣装になっている。


 本来、カナコのような浮き花は、浮き輪みたいなスカートを生やして水に浮いている。だが、現在の浮き花はなんと華やかなんでしょう状態で咲いているようだ。


 ……まあ、沼地なんでなんだかなーって光景になってるんだけどね……。


「まーね。いいでしょう?」


 あたしは、身も心も地味な花の乙女。


 見た目なんてどうでもいいし、オシャレに興味はない地味っ娘です。他人のオシャレにも興味がないわ! あ、でも鎧は好きよ。モ〇ハンでも鎧はコンプしましたからねっ! もちろん、道具袋に入ってますがな!


「ソーデスネ。オニアイデスヨー」


「心がこもってないわよ! 地味花!」


 心? ああ、知ってます知ってます。ホームセンターで安売りしてましたね。まあ、買いはしませんでしたけど。


「あたし、忙しいからいくね」


 地味なキ花は地味に忙しいのよ。


「待ちなさいよ! わたしも行くわ。灰色熊には大事な寝床を食べられてムカついてるのよ。一発入れてやらないと気がすまないわ!」


 あらやだ奥さん聞きまして? 生憎あたしは聞いてませんわ。なんで瞬間移──ぐえっ!


「安心しなさい。わたしがついてれば灰色熊の一頭や二頭、お茶の子さいさいよ」


 おい、同じ転生者、なに変な文化広めてやがる。花人文明崩壊だぞ、ゴラァ!


「ほら、いくわよ、チャコ!」


 ノーと言えない地味な花。


 来世はノーと言える種族にして下さい神さまぁ……。


 気を取り直して狩り再開。の前に現状把握ね。


 灰色熊は雑食で、毒耐性を持つ魔物だ。


 この世界では魔力を持つ獣を魔物と言い、魔術や魔法を使える獣を魔獣と呼ぶらしい。


 まあ、その辺はなんとなくの、人による区別。あたしら花人からしたら生存を脅かすものは害獣でしかないわね。


「……結構、食べられてるわね……」


 灰色熊からしたら花も花人も『食べられる花』でしかない。毒のない浮き系の花はいいエサであろうよ。


 あと、花って食えんのかい! ってな突っ込みはなしよっ。


「あのクマ公、わたしの寝床まで食いやがって! お気に入りだったのに……」


 横で地団駄を踏んでいる謎の生命体はガン無視。お前の怒りどころか生態すら興味がないわ!


 まあ、それはさておき魔法の絨毯に乗り、沼を見て回る。


「チャコって地味なクセに変なのを生やせるのね」


「地味な花は地味にスゴいのよ」


 なぜ乗ってるかは全力で無視して、花人は突っ込みレベルが低くて助かるわ。いやまあ、たまに高レベル者はいるが、基本、花人はあるがままを受け入れる種族。あたしが道具袋から出しても偏見や差別は生まれない。ビバフラワーライフね。


「……にしても、灰色熊が襲ってきたって言うのに、逃げたりしないんだから花人ってのんきよね……」


 あまり見たくはないが、結構な惨殺現場があちらこちらに見て取れた。


 なのに、浮かんだり沈んだりする花人はお構い無し。我が道を逝っちゃってる。


「あれが普通よ。チャコみたいに考えるのが異常なのよ」


 そう言うカナコも異常だ。いや、自我が強いと言うべきだろう。


 あたしと同じ転移者がくるようになってからそれは顕著に現れている。


 ……文明開化ならぬ文明進化、ね……。


 まあ、あたしはどっちでも構わないけどね。前世からゴーイングなマイロードを逝っちゃってますんで。


 一通り沼地を巡り、被害状況を確かめ、灰色熊がくる方向を見つけた。


「……三匹、か。季節が春からして親子ね……」


 前世と同様、熊の生態にそれほど違いはない。あ、魔獣とかになったら話は別ね。アレは生物の域を飛び出してるからね。


「にしてもよくここまで入ってこれはたわね?」


 花園は、例え魔物でも入ってこれない険しい山の中のさらに奥にある。空からくるならまだしも並の身体能力ではこれないはずたんだけどな~?


「ああ、それなら道ができたからじゃないの」


「道?」


 なにそれ、初耳なんですけど!


「人がこの村にくるのに作ったんですって」


「おいおい、なにやってんだよ! 文明開化すんのも無責任だろう! フラワーワールド危機一髪だよ!」


 どこぞのメリケンさんじゃないんだからやりっぱなしは酷いだろう。世界文化遺産組合が黙ってねーぞ。


「……チャコの言ってること、なに一つわからないけど、道を作ってくれって頼んだのは園長よ。下界との交流をするときだって」


 ま、まあ、村長の懸念はわからなくではない。花園は箱庭だ。それも何千年と続く小さな小さな変わらない秘密の世界。


 自我が目覚めたものには、ここは歪に見えることだろう。あたしもここは牢獄としか見えない。


 な~んて、難しいことはどーでもいいわ。


 花人とは言え、ファンタジーワールドに生まれたのだ、小難しいことに時間を費やしている暇はない。


 あたしは花。地味な花。


 だが、地味に生きる気はさらさらない。


 今世は、おもしろおかしく生きると決めたのだから!


「ほんと、チャコって変な娘よね」


 えーと、確認のために言っときますが、あたし自身がおもしろおかしくなりたいわけじゃなく、おもしろおかしく生きたいってことですからね! 勘違いしないでよね!

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