花乙女チャコ編 第二話
花園。
それは花人が住む地だ。
花園に名前はない。が、あたしの能力的に名がないと不便なので勝手に『アリア・ハーンの花園』と命名した。
知っての通り、いや、誰に言ってるかはあたしも謎だけど、まあ、そこはそれ、ツッコミはなしよ、でお願いします。
んで、前世でも同様、花にはたくさん種類があり、育つ環境も千差万別。ましてやここは異世界ファンタジー。植物学者にケンカ売ってるとしか思えない環境で育つ花も多々あるのだ。
今から行こうとしている翠水仙属村──イ・シース村は沼地であり、水の中で育つと言うはっちゃけ花なのよね……。
よく、突っ込んだら負けと言うけど、まさか異世界ファンタジーに転生して痛感するとは夢にも思わなかったわ。
イ・シースの村──いやまあ、正確に言えばそこも花園の一部なんだけど、ここと二百メートルも離れている。
これが身長百六十センチな人なら大したことのない距離だが、身長十二センチでは遥か遠くの地と言っても過言ではない。ましてやここは人跡未踏なフラワーワールド。とても歩きやすいとは言えないところだ。
……ほんと、最初は苦労したものよ……。
まあ、過去は過去。歩いてこそのロープレだと脳内変換できてこそ一流のゲーマーだ。いやまあ、もう八年くらいゲームしてませんがねっ。
「あら、チャコちゃん。お出かけ?」
青菖蒲属のザフィーさんは、村の門番兼砲台なデンジャラスねーさん。その背中に背負った二本の砲(茎)はカラス(っぽい鳥)を一殺するほどだ。
……花人、パネーぜ……。
「うん。翠水仙属のところに灰色熊が出るからちょっと退治にね」
「あら、それはご苦労さま。チャコちゃんがいるお陰で花園が平和で助かるわ」
いや、それはあなたのお陰ですから。長老な紅梅属のマーチャさんから聞きましたよ、ザフィーねーさんの武勇伝、手長猿百匹殺し。いったいどこの機〇戦士だよ!
「アハハ。お互い頑張りましょうねー」
敵にしてはならぬと心に刻みながらそそくさと退散した。
「さてと。いきますか」
ドラサンの瞬間移動呪文を唱えたいところだが、そこはそれ。あれはこれ。フラワーワールドにも守らなければならないルールがあったりなかったり。
まあ、わかる人は心の中で叫んで下さいな。
バビュンとイ・シース村へと翔んだ。
で、イ・シースの村に到着。
と言っても村と呼んでいるだけで、知らない者がみたらただの沼地にしか見えないんだけどね。
ようこそ、イ・シースの村へ。とかなんとか迎えてくるノンプレさんがいるわけでもないので勝手にお邪魔しまーす。
「あー、確かになんか荒らされてる感じがするね~」
それなりに広い沼地だけれど、それほど深くもなければ底無し沼ってわけでもない。灰色熊くらいなら半分も埋まらないでしょうよ。
「にしても、美少女が水面から顔を出してるとか、軽くホラーよね……」
それも一人だけではなく五十以上顔を出してる。沈んでるのも混ぜたら百は軽く越えてるでしょう。いやもうホラーと言うより猟奇的殺戮事件状態か。
「どっちにしろ心臓の悪い人は見ちゃいけませんな光景ね」
まあ、人がくる訳じゃないし、花人に心臓はないから関係ないけどさ。
太陽に当たらないと死んじゃうあたしでは水の中では生きられない。なんで道具袋から魔法の絨毯を出した。
神さま失敗のお詫びとして三つの願いをもらったあたしは、まず自分が育てたドラサン勇者レベル99からのスタートを願った。
まあ、花人に転生するとは夢にも思わなかったけど、意思ある生き物ならモンスターでも構わない。元三十七歳の乙女に怖いものはないのよ。
……憎いものはいっぱいあったけどね……。
チートな能力でもよかったのだけれど、あたしは与えられたルールで戦うのが好きだし、いろいろやったゲームの中でドラサン勇者が一番しっくりするのだ。
もちろん、勇者だけの力だけでは限界があるからあたしがやったゲームの中で利用した道具を出せる道具袋を願った。
あ、ちなみに三つ目は前世の記憶をもったまま転生ね。記憶をリセットなんかされたら異世界ファンタジーを楽しめないじゃない。
「この体に合った道具になってるとか、神クオリティースゲーね」
まっ、使うのは自分だけだからどうでもいいんだけどさ。
ゆらゆらと水面から三十センチくらい上を、沼地の中心へと向けて飛んで行く。
沼地の真ん中には盆栽のような島があり、イ・シースの村の村長的な翠水仙属のジェニーさんが咲いている。
念のため言っておくけど、『居る』じゃなくて『咲いている』で間違いないんであしからず。
「ジェニーさん。こんちでーす!」
まるで考える人のように木の根に咲いている緑髪の美女に挨拶する。
「……あら、チャコ。いらっしゃい」
ここに咲いてうん百年。いったいなにが楽しくて咲いてるんだろうと聞きたいもんだけど、きっと凡人には理解しがたい理由なんでしょう。気にしちゃダメよ、だね☆
「灰色熊が出たとかで、ハン──じゃなくて退治にきましたー」
「悪いわね。面倒かけて」
「いえいえ、狩りは趣味みないなもんですから」
一人モ〇ハンごっこは、今あたしの中でブームなんっすよ。自分でクエスト用紙に依頼を書いて花園の広場にある掲示板に張っておくの──あ、目から汗が。やだわ。チャコ、負けないもん!
「どうしたの四つん這いになったりして?」
ごめんね、あたし。いつかきっと強い子になるから今は涙を流させて……。
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