花乙女チャコ編 第一話

 あたしは花。


 地味な花。


 くすんだオレンジ色の小さな花。


 どこにでもありどこにでもなる一般的な花なのに、属名はないらしい。ただたんに花。花としか認識されていない。


 あたしは花。でも精霊だ。


 なぜ生まれたかは知らないけれど、精霊が宿りし花。人から言わせると、花人はなびととか。まあ、花に哲学なんてものはないから誰も探究はしてないけどね。


 そんなことを考えるあたしは、きっと変わり者なんだろう。


 でも、あたしはそんな自分が大好きだ。


 花人と生まれて早七年。そろそろ動き出せる年齢だ。


 あたしは花。まだ名はない。だが、あたしはあたしに名をつける。


 あたしは、花。地味な花。


 そんなあたしは、自分の名を自分で決める。


「あしはジョセフィーヌ・ラ・フランシェカ」


 名前くらい派手にしてもいいじゃない。


「──なにかよくわからないこと口走ってるけど、あんたチャコ・バナでしょう」


 幼馴染みの薔薇属のエリザネスがあたし のモノローグに突っ込んできた。


「エスパーか!?」


「いや、エスパーがなんなのか知らないけれど、あんたの妄想癖は花園では有名だから」


 失敬な。こんな娯楽の少ない花園では妄想が唯一の楽しみ。あたしは一人遊びの天才なのよ!


「……なに地面に四つん這いになってるの……?」


 ほっといて。今は自分を鼓舞するので精一杯なのよ。


「……まあ、変わり者チャコだしね」


 止めて。そんなカレー屋ケ〇ちゃんみたいに言うの。あたしは八歳(三十七歳で死にましたがなにか?)の乙女なのよ!


「それよりチャコ。村の近くに灰色熊が出て翠水仙のところが被害にあったのよ。なんとかして」


「いや、灰色熊くらい薔薇属でなんとかできるでしょうよ」


 その茨で人を簡単に殺せる威力を持っている。あたしがいかなくてもいいでしょうに。


「え~! だって翠水仙属のところって沼地じゃない。これ、新しく生やしたばかりなんだからね~!」


 花人間でもこめかみに青筋が立つからあら不思議。じゃねーよ! クソ花が!


 と、叫んだところ花の乙女はゴーイングなマイウェイ。決して届いてはくれないのよね……。


「わかったわよ。廃除しておくわよ」


 どうせやることもない日々だしね。暇潰しにはちょうどいいわ。


 花人の食事は地面から栄養を吸い取るか、太陽に当たるしかない。なんとも悲しい食事法だ。まあ、肉食な花もいるけど、あたしは地面から栄養を吸い取る派。まったく、早く人間になりたぁ~い! って気分だわ。


「じゃあ、お願いね~」


 そう言って帰っていった。


 え? どこへですって? 決まってるじゃない。花は咲くのが仕事。種族繁栄が第一目的なのよ。


 ……ほんと、謎の生き物よね、花人って……。


「とは言え、花園も変わったものよね」


 あたしが自我が生まれて(?)からまだ三、四年なので昔のことなんて知らないが、ここ数年の“発展”は目まぐるしいものがあった。


 あたしはまだ会ったことはないが、近くの人の村からあたしと同じ転生者がきて村を文明開化したそーな。


 ……あたしに言わせるばコスプレ開花ね……。


 まあ、華やかになったのは良いけど、どうせならゲームでも広めて欲しいわ。あーモ〇ハンやりてー。


 陽当たりのいい山の斜面から我が家へと戻った。あ、今、食事してました。


 我が家は石の下に掘った小さな穴の中。土で固めたベッドがあるだけの小さなあたしのプライベート空間だ。


 前世の記憶があるせいか、外で寝るってことができないのよ。


「今日は弓矢でやるか」


 花人の身長は様々。五センチの花人から一メートルくらいの花人までいる。あたしは身長十二センチくらい。まあ、花の世界では平均的な身長かしらね。


 神さま失敗による転生得点であたしはドラサンの勇者レベル99からのスタートを願った。お陰で身長など関係なし。灰色熊などHP40の雑魚。ヒノキの棒でも一殺だわ。


 お手製の弓矢を担ぎ、ハンティングへと出かけた。

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