騎士マリー

 わたしは、マリー。


 姫様の護衛騎士をしています。


 まあ、護衛と言っても姫様には必要ありません。まだ幼いですが、この国で最強の強さを持ってますからね。


 わたしは、姫様の行動を上に伝えるのがお仕事。あと、姫様がお痛をしたとき、速やかに解決することです。


 今日も今日とて姫様を陰から見守ります。


 お、今日は人助けのようです。いつもそんなことなら助かるのですが、酷いときは天から岩を落とすからたまりません。他に被害がいかないようにするの、本当に命懸けなんですから。


 姫様が話しかけているのは、十歳の少年で、質素な服に見えますが、材質はよいものに見えます。どこかの商家の者でしょうか?


「ボク勇者、六歳!」


「オレは、村人十歳だ……」


 なんの自己紹介でしょうか? と言うか、通じているんでしょうか? 


 陰から見ていると、どうやら通じているようです。


 姫様に仕える者としては不遜なことですが、あの姫様と会話できるとか、結構凄いことです。感情のままに話す方ですからね。


 と、自称村人さんがこちらに目を向けました。どうやら姫様が誰かを理解し、わたしがなんであるかもわかったようです。いったい何者でしょう?


 しかし、あの姫様に恐れず、頭まで撫でるなんて本当に凄いですね。姫様との触れ合いは命懸けで、軽く叩かれただけで壁に埋まりますからね。何年も仕えるわたしでも姫様の前では一瞬の油断もできません。


 姫様が動き、わたしも後を追います。


 途中、自称村人さんから食べ物をもらう姫様。なんでも食べて、毒にも強い方ですか、そう簡単に食べないでください。仮にも王族の一員なんですから。


 ……でも、なにか美味しそうです。わたしも食べたいな……。


 わたし、食べるのが唯一の趣味で、休日(そんなにありませんけどね!)は食べ歩きするくらいなんです。


 どうやら自称村人さんは、王都でも名高いバジバドル商会に用があったようです。何事なくなによりです。


 その後、姫様は街を見回り、本当に何事もなく城へと帰りました。


 城に入り、侍女たちが姫様を清めている間にわたしは姫様の部屋へと急ぎます。


 非常識に強い姫様ですが、わたしが後を追っていることには気づいていません。部屋つき護衛騎士として認識しているのでしょう。


 以前、護衛騎士を連れて見回りに出てわがままを言ったことがあり、城の一部を壊してしまったことがあるのです。それからわたしが陰から密かに見守るようになったのです。わたしが一番適してたので。


 ……決して影が薄いからではありませんからね……。


「マリー、ただいまー!」


「お帰りなさいませ。街はどうでした?」


 さも部屋にいたような態度で姫様を迎えます。


「今日は村人さんを案内したよ!」


 そうですかと笑顔で答える。姫様に状況を説明させるなんて無駄ですから。


「これ、村人さんからのお土産!」


 と、小袋を放り投げてきました。姫様に行儀とか教えるのも無駄と、あるがままにさせています。それでいいのでしょうか? まあ、わたしに振られても嫌なので黙ってますけどねっ。


「よろしいのですか、わたしがいただいても?」


 部屋には侍女もいるので騎士としての態度は崩しません。査定(給金)に響きますから。


「うん! 村人さんが大好きな人と食べろって言ってたし」


 わたしの中で自称村人さんが優しい村人さんに格上げされました。


「では、遠慮なくいただきますね」


 小袋から出した焦げ茶色のものを口に入れ、そして、絶句した。


 甘い! 美味しい! その言葉が繰り返されます。ときどき、姫様に出されるお菓子より何倍、いや、何百倍も美味しいです!


 ……ハイ、盗み食いしてごめんなさい……。


 どのくらいそうしていたのかわかりませんが、気がついたら小袋の中のものをすべて食べていました。そんな~。


 部屋からは姫様も侍女もいなくなっており、慌てて姫様を追います。


 姫様はお風呂に入ってました。


「ひ、姫様、先ほどのはなんなんですか?」


「クッキーって言ってた」


 ク、クッキーですか。味と同じで甘美な名です。


 それからあの味が忘れられず、夢にまで見るようになりました。また、あの優しい村人さんに会いたいです。


 その願いはすぐに叶えられ、またクッキーを食せました。


 なんて幸せ。なんと言う甘美。お菓子とは神なのですね……。


 ああ、もっと食べたい。この口にいっぱい放り込みたい。あの甘美なお菓子を、美味しいものを食べたい。


 その願いは、すぐにやって来ます。でも、それはまた別の話と言うこで。わたしは、今日も美味しいものをいただきます。

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