サプル編第11話 明日もイイ日でありますよーに
「ねーちゃんおかえり」
家の前で風の魔術でピョンピョン跳ねてるトータがあたしの帰りを迎えてくれた。
あたしも魔術は好きだし、自分でも練習してるけど、魔術に関してはトータが勝っている。
風の魔術を利用した移動法なんて十日前くらいにあんちゃんに教わったのに、もう自分のものにしていた。
そう遠くない日、トータが空を飛ぶのも不思議じゃないだろう。まあ、あんちゃんの作った魔術式"ヒコウキ"があるのであたしは飛んでるけどね。
「ただいま~。おかあちゃんは?」
「夕食作ってる」
本当なら陽が沈む前から夕食を作るのだが、たまに今日みたい日があるので、いつもの時間にあたしがいなければおかあちゃんが気を利かせて夕食を準備し始めるのだ。
「おかあちゃん、ただいま~」
「おかえり。疲れただろう。お風呂入っちゃいな」
野菜の煮っころがしスープを作っていたおかあちゃんが笑顔で迎えてくれ、お風呂を勧めてくれた。
「うん、そーする」
汗をかくほど働いてはいないけど、お風呂に入って息抜きしたいと感じるくらいには気疲れはした。夕食の前にさっぱりしたいわ。
お風呂場にいくと、すでに湯が沸ていた。
お風呂の番はあたしとトータの仕事だが、あたしがいないときはトータの仕事であり、一番風呂はあたしのものと、トータに教えてあるのでやってなかったら夕食抜きの刑である。
「トータ、ありがとね~」
役立つ弟に感謝の言葉を送り、服をパッパと抜いて湯船にドボン。
お風呂の作法としては体を洗ってから入るんだけど、あたしの次に風呂好きなあんちゃんは最後に入るし、おかあちゃんもトータも体を洗うだけで湯船には浸からない。なんで、あたしは湯船に浸かってから体を洗う主義なんですの。オホホ。
いつもなら夕食後の入浴でゆっくり入るのだが、今日は気疲れを癒し、体を綺麗するだけで上がった。
まあ、それでも一時間は入ってたけどねっ。
さっぱりして居間にいくと、とっくに夕食が並べられ、針仕事するおかあちゃんとお腹を鳴らしたトータがあたしを待っていた。
「あんちゃんは?」
「まだみたいね。なんか言ってたかい?」
「遅くなるとは言ってなかったよ。まあ、あんちゃんのことだし先に食べよう」
あんちゃんがなにかに夢中になって食事の時間に遅れるなんてよくあること。気にしないだ。ちゃんと寝る前までには必ず帰ってくるしね。
「じゃあ、いただきます」
あんちゃんがいないときはあたしが音頭を取るのがあたしの役目なのだ。
久しぶりに食べるおかあちゃんの料理を堪能していると、あんちゃん帰ってきた。
「ワリー。遅くなった」
「お帰り、ベー。ご苦労さん」
「お帰り~」
「お帰り、あんちゃん」
皆で迎えると、あんちゃんは優しい笑みを浮かべながらいつもの席へと腰を下ろした。
「お、旨そうだ」
おかあちゃんが野菜の煮っころがしをお椀に盛り、あんちゃんに渡すと、本当に嬉しそうに笑った。
「ただの野菜の煮っころがしじゃないの」
「オカンが作ってくれた料理にただのなんてねーよ。オレたちのために作ってくれた。この世で一番の料理であり最高の幸せじゃねーか」
その言葉は、作る者にとってなによりの喜び。もっと美味しいものを食べてもらいたいと思う原動力だ。ほんと、あんちゃんのこーゆーとこがスゴいと思うよ。
楽しくも暖かい食事が終わり、寝る前までの自由時間が始まる。
他の家なら内職を始めるところだが、うちはそれぞれの趣味の時間であり、穏やかな時間でもある。
おかあちゃんは、囲炉裏の前で針仕事。
トータはあんちゃんが作ってくれた木版を見ながら字の勉強。
あたしは、趣味のミニチュアの家具作り。今は手のひらに乗るくらいのベッドを作っています。
あんちゃんは、南の国の王子さまから届いた手紙を微笑みながら読んでいる。
うちのいつもの夜だが、とても幸せを感じる一時である。
「さて。寝るか」
あんちゃんの言葉で皆が頷き、おかあちゃんの寝室へと向かう。
それぞれ自分の部屋があるのだが、まだトータがおかあちゃんが甘えたい年頃なのと、あんちゃんのお伽噺を聞くために、あたしもおかあちゃんの寝室で寝、あんちゃんは、自分の部屋が荷物がいっぱいで寝る場所がないのでここで寝ているのだ。
「あんちゃん。今日はなんのお話?」
「つる──じゃなくてホウ鳥の恩返しだ」
毛布にくるまりながらあんちゃんのお伽噺に、あたしもおかあちゃんもトータも聞き入る。
あんちゃんの語る不思議なお伽噺が終わる頃、トータは夢の中であり、あたしはウトウト状態。あんちゃんの優しい『お休み。また明日な』の言葉であたしの意識はフニャフニャになるが、日課たる言葉を心の中で紡いだ。
明日もイイ日でありますよーに……。
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