サプル編第8話 なにしてんの?
「わしが許す。好きに船を見てよし!」
「ほんと、会長さんっ!?」
思わず会長さんにしがみついた。
「ああ。文句を言うヤツがいたらわしの名を出せ。もし、サプルに悪さするようなヤツが出たら構わん。海に叩き込んでやれ」
「うん、わかった!」
自分でも呆れるくらいイイ返事をして駆け出した──ら、突然、空中に浮いてしまった。え、な、なに!?
「まったく、お前は好きなこととなると周りが見えなくなるんだから」
「そりゃお前もだろう」
会長さんの突っ込みに、あんちゃんが「うっ」となるが、あえてするーした。
「ま、まあ、お前の気持ちもわからないではない。だが、先に料理だ。お前の旨い料理を船のヤツに食わしてやれ。そして、その胃袋をしっかりつかんじまえ。そしたら誰もお前に逆らえなくなるんだからな」
そーだった。男はまず胃袋を支配しろだった。
そうなればとっとと用意しなくちゃ。
調理車を引っ張り、手頃な位置に設置した。
「トアラねーちゃんら調理組は、火を起こして野菜や肉を切って。サリバリねーちゃんら給仕組はあんちゃんからテーブルと椅子、そして皿をもらって並べて。手の余った人らはあんちゃんの工房でなにか作って。それと水をお願い。あと、誰か海部落から魚をもらってきて。代金は後で払うから。魚はすりみにして団子にするのと油で揚げるのをするからバーニアとサラミラがあったら鱗取りして内蔵を取ってね。あ、煮込みと焼きをするから肉と野菜を串にさしてね。あ、あんちゃん。竈をお願い。ビザ作るからさ。あ、サビーさん、煮込みは魚醤じゃなくゴジルを使うから出汁を先にお願い。あ、その麻袋のやつだからそれを大鍋に入れて。あ、イルアさん。イモ蒸かして。ポテトサラダ作るから。マヨネーズは右の引き出しね。ナーリアさん、漬け物を皿に出して。その小樽だから──」
皆に指示を出しながらあたしも野菜や肉を切り、大鍋に放り込んでいく。
ときどき灰汁を取り、味見して、できた魚をすりみにした団子を大鍋とリンダさんらが作る魚鍋に放り込んでいく。
「サプル~。竈に火が入ったってさ」
「わかった~」
あんちゃんが土魔法で作ってくれた台でビザの生地を置けるだけ作り、具材を生地に乗せて行く。
「トアラねーちゃん、ビザをお願いね」
「わかった~」
トアラねーちゃんも料理が好きなのでビザ作りは何度もしているので任せて安心、トアラビザなのだ。特に意味はないけどね~。
「サプル~。まだ食べられないの~。もう押さえきれないよ~」
サリバリねーちゃんの泣き声に調理の手を止めて振り向くと、船員さんたちがまちきれないって顔で集まっていた。
「煮炊きから出してイイよ! いっぱいあるからできたのから出して」
「なら串焼き出すねー!」
「ビザも何枚かできたから出すねー!」
「魚も焼けたから出すわね~!」
「よろしく~!」
残るは魚汁だ。港で揚がった魚のぶつ切りに、イモと山部落で採れた野菜を入れ、魚醤に蒸留酒と砂糖を少々入れて味を整え、短く切った麺を入れて完成。最近考えた新作だ。
「よし! バミルさん、これも出して!」
「はいよ!」
あたしの仕事はこれで終~了~。
「では、あとよろしくねー!」
エプロンを脱ぎ、調理車の棚に仕舞い込み、船へと駆け出した。
途中、なにか呼ばれるが、あたしの耳には届かない。人の間をすり抜け、船へと続く板を蹴って船の上──確か甲板と言ったところに降り立った。
「ふわ~! すごぉ~いっ!」
なにこれ! なんなのこれ! 意味わかんなぁ~い! でもなんかおもしろいっ!
この紐なんだろう? あ、樽がいっぱい! この柱高ぁ~い。なんだ、この網? アハハ、昇っちゃえ。うお、海だ。あ、おっきい魚だ! 変なの~!
「アハハハ!」
なんかわかんないけど、可笑しくて笑いが止まらない。
「あ、入り口発見! とぅっ!」
柱のテッペンから飛び降り、甲板に着地。そのまま入り口へと突っ込んだ──クサっ!
あまりのクサさにすぐに外に飛び出した。
なっ、なんなの、この臭い!? まるでゴブリンの死臭じゃないの! いや、それ以上だわっ!
「……ゴブリンでも飼ってるの……?」
食材としては使い物にはならないけど、魚や貝のエサにはなる。船に乗る人もゴブリンをエサに魚を捕ってるの?
「……しょうがない。風で吹き飛ばすか。えいっ!」
魔術で風を生み出し、船の中へと吹かした。
「──のわぁっ!!」
と、あんちゃんの悲鳴が上がった。え?
なにか外から聞こえたので、その方向にいき、下を覗き込むと、あんちゃんが船の横から生えていた。
「……あんちゃん、なにしてんの……?」
なんかの遊び?
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