サプル編第6話 そんなことないよー
最後の寄り家にくるまで七人まで膨れ上がっていた。
暇なの? と、事情を知らない人が見たらそう言われそうだけど、山の仕事(女衆の場合ね)はその日その日違う。まあ、食事の準備は女の仕事だけど、二世帯三世帯は普通。一人欠けたところで料理ができないなんてことはない。そもそも煮るが基本の田舎料理だからね、そんなに手間はかかんないわ。
今回集まった女衆も、まだ嫁入り前の娘だったり若奥さんだったりと、家を空けてもそう問題のない人ばかり。いや、それどころかすぐに動けることができる一番の働き手だ。
……うちの村では、だけどね……。
「ねぇねぇ。今回はなににする?」
「だんぜんブラシよ。前の毛がダメになってきたんだもん」
報酬のことを話すのは山の部落の若奥さんたちで、幼なじみ同士のサバダさんとマーチルさんだ。
「あんたはなににするの?」
「クシか帽子か迷ってるの。どっちがイイかな?」
あ、ちなみに麦わら帽子や調理器具も報酬に入ってます。
「ねーちゃん帽子にしなよ。そしたらあたしも借りられるからさ」
とは、サバダさんの妹で、今年十五になるサリーバさんです。
「まったく、あんたは調子がイイんだから。あんたはいつも手伝いしてるんだから鍋にしなさいよ。そしたらうちでも借りられるんだからさ」
幼なじみ同士、隣に嫁いだので貸し借りは当たり前。よくあることだ。
「ねぇ、サプル。あたし、あんたのそのクツが欲しいんだけど、ダメかな?」
若奥さんには入るけど、嫁いで八年目で三児の母親、アリルさんが言ってきた。
「クツ?」
と言って足元を見る。ああ、サンダルね。
「イイけど、サンダルなんて旦那さんに作ってもらえばイイじゃないの?」
旦那さん、木工を内職としてる人でしょうに。
「だってそれ、ベーの魔法が掛かってて履き心地がイイんだろう。しかも冬でも履けるってダリムに聞いたよ」
あ、そー言えばサンダルもあんちゃんの魔法がかかってたっけ。もう当たり前すぎて忘れてたよ。
「うん。冬は熱を逃がさないようになってて、夏は風通しがよくなるんだ。しかも丈夫で山でも歩けるんだ」
魔法で足の形に変わり、底も地面に寄って変わるから道が悪くてもそんなに苦にはならない。雪の上も沈まずに歩けるらしいが、滅多に雪が降らない場所。なので確かめようがなのよね。
「やっぱりベーの作ったものは一味も二味も違うよね。ますますサンダルが欲しくなったよ」
まあ、それで満足してくれるのならあたしにイナはない。サンダルも履き切れないほどあるしね。
なんてことを話しているうちに山の部落の端。集落の人から見れば山への入口。その場所に住む山部落の長おさんちに着いた。
開拓時から続く家なので家も畑も一番に広く、家族も二十六人と多い。
道から家まで結構あるので調理車を道に置き、長んちへと歩む。
家の前は畑でオンじぃら年寄りや畑を任された女や子供が仕事をしていた。
「おぅ、サプル。煮炊きか?」
あたしがここにくるのはだいたいそれなので説明する必要もないのだ。
「うん。できる人いる?」
まあ、わかってはいるけど、会話は大切なこみにゅけーしょん。わかっていてもするのが付き合いなのだ、とあんちゃんが言っていたよ。
「ああ。サリバリらを連れてけ」
もはや山部落で手伝いを反対する人はいないので、あっさりと許しが出る。
この時代は男の権限が強いらしいが、おしゃれに目覚めたうちの村では女の方が強い。逆らおうものなら女衆から突き上げを食らうし、村の女衆(若い人ね)からつま弾きにされる。ましてや結婚前の男に、おしゃれなんて無駄と言える勇者バカはいない。いたらその人は一生独身でしょうね。
「サリバリねーちゃんら、これる?」
これも聞くまでもないんだけど、まあ、挨拶みたいなもの。こみにゅけーしょんだ。
「そーね、どうしようかしら?」
いく気まんまんな気配を出しながらも、メンドくさそうに立ち上がり、悩む振りをする。
まあ、これもいつものこと。気にするな──と言いたいところだけど、さすが飽きてきた。もうちょっとれぱーとりーを増やしてもらいたいもんだわ。
「ダメならイイよ。オイヤねーちゃんは大丈夫?」
バッサリと切り捨て、サリバリねーちゃんの従姉で今年の秋に隣村に嫁ぐオイヤねーちゃんに尋ねた。
「──ちょ、ちょっと! 誰もいかないなんて言ってないでしょっ! 準備するから待ってなさいよ!」
そう叫んで家へと駆けていった。
「……あんた最近、サリバリに厳しいよね……」
なにやら目を細めてあたしを見るオイヤねーちゃん。
え? そんなことないよー。扱いにメ──じゃなくて慣れただけだよー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます