サプル編第5話 親友トアラ

 山の女衆で直ぐに手伝いをお願いできるのは、だいたい六人くらいだ。無理(報酬によってはかな?)を言えば山の女衆の半分は呼べるだろう。まあ、最終手段だけどさ。


 この村、と言うか山の部落は、家によって仕事は違ってくる。まあ、基本は木を伐るのが主だけど、それだけでは暮らせないのが山の暮らしだ。


 うちはあんちゃんのお陰で暮らしに困ってはないし、仕事量も少ない。それどころか少なすぎて内職したりお店をやったり他に手伝いにいったりしちゃうことができちゃうのだ。


「おはよー、トアラねーちゃん」


 道沿いの畑で草むしりしていたトアラねーちゃんに挨拶する。


 トアラねーちゃんは、あたしより四歳年上で、ちょっとふくよかな見た目だが、気配り上手でよく働く優しいねーちゃん。あたし的には一番の親友だと思っている人だ。


「あ、サプル、おはよー」


 こちらまで笑顔になりそうな柔らかい笑顔を見せてくれた。


 トアラねーちゃんちも主な仕事は伐採だが、副業は農業で、山の部落では一番の規模を誇っていて、漬け物を隊商や行商人のあんちゃんに卸している。


 うちの食卓にもトアラねーちゃんちの野菜が上がってるよ。


「どうしたの、調理車なんて引っ張って? 隊商がくるには早いんじゃないの」


 隊商がきたときはトアラねーちゃんによく手伝いを頼むので調理車を知ってるし、あたしが引っ張ってても驚いたりしないのだ。


「港に船がきたの聞いてる?」


「あ、そう言えばそんなこととーちゃんが言ってたっけ。そこにいくの?」


 優しいだけじゃなく賢くもあるトアラねーちゃんは、話が早くて助かるよ。


「うん。あんちゃんが船を直すからその間の船乗りの人らの食事を用意してくれってさ。報酬は髪止めかクシね。あ、お金でもイイよ」


 なんの拍子でお金が必要になるかわからないからって、あんちゃんからお金を持たされているんだよ。


「わかった。かーちゃんに言ってくるよ」


「うん。あと、漬け物ができてたら買うよ。付け合わせに出したいからさ」


 駆けていく背に送り、調理車をトアラねーちゃんちに引っ張っていく。


「いらっしゃい、サプル」


 トアラねーちゃんをそのまま大きくしたようなおばちゃんが一輪車(あんちゃん作)に漬け物の小樽を載せてやってきた。


「おはよー、おばちゃん」


「港にいくんだって?」


「うん。だから手伝いの呼びかけしてるんだ」


 小樽を調理車に載せながら答えた。


「じゃあ、これ」


 ポケットから銅貨を五枚出しておばちゃんに渡した。


 そーば的には一小樽銅貨四枚が普通だけど、おばちゃんが漬ける野菜は実に見事で、あたしでもその味を出せないものなのだ。あんちゃんなんておばちゃんの味に泣いたくらい。銅貨五枚でも惜しくはないわ。


「いつもすまないね」


「それはこっちだよ。おばちゃんの漬け物は毎日食べても飽きないもの」


 漬け物をツマミに飲むバル茶(ゴルアの国で飲まれているもので、渋味の中にほんのり甘さを感じるお茶なんだよ)の美味しいこと。夜、便所に起きるのもいとわないわ。


「お待たせー」


 おばちゃんと世間話してると、調理を手伝ってもらうときに着てもらう紺色のワンピースにあさぎ色のエプロンに着替えたトアラねーちゃんが出てきた。


 あんちゃんの魔法がかかっているので汚れに強く、暑さ寒さを一定にしてくれる調理服なのだ。


「じゃあ、かーちゃんいってくるね」


「ああ、しっかり働いてきな」


 おばちゃんに見送られ、トアラねーちゃんちを後にする。


「ねぇサプル。今回は何人頼むの?」


「だいたい十人くらいかな? お昼と夜の分を作るから」


「十人? 海の人らの分まで作るの?」


 いつも手伝ってもらっているので人数で作る量がわかっちゃうのだ。


「ううん。だいたい五十人分くらいだよ。ただ、声を掛けないと揉めちゃうからね、もしかしたら十人以上になるかもしんないな」


「あーそうか。ベーの作る髪止めやクシは人気があるからね~。こんなときじゃないともらえないか~」


 あんちゃんが拘ると、王都で売れば銀紙二枚(行商人のあんちゃん談)になるくらい見事なものに仕上がる。ましてや髪止めなんて真珠や色とりどりの水晶を使ったり、カンザシと言う髪を纏められながら意匠(花や鳥と言った柄になってる)が凝ってて銀貨五枚出しても惜しくはないできになっているのよね(これも行商人のあんちゃん談)……。


「まあ、あんちゃんからは何人でもイイっては言われてるからね、くる人はこばまないよ」


 髪止めもクシも、あと手鏡も村中に配っても余るくらいあるからなくなる心配はないからイイんだけどね。


 ……あんちゃん、イモを剥くかのように削るから一日で百とか二百とか作っちゃうんだよね……。


「なら、サリバリは誘わないとならないか……」


 別に嫌がっているわけじゃなく、その性格に苦笑してるんだよ。


「そーだね。でもまあ、サリバリねーちゃんは、配膳とかさせると役立つからね、調理の顔としては必要な存在だよ」


 適材適所。サリバリの男受けする性格も使いどころさえわかれば超便利、になるとあんちゃんが言っていたよ。


「相変わらずサプルは人使いが上手いよね。さすがベーの妹だわ」


 やだなもー! それはトアラねーちゃんだよ。そんなこと言われたら四倍がんばっちゃうよ、あたしは。

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