サプル第4話 調理はお任せ

「オカン。今日、つーか、今日から三日間、会長さんの船を直しにいくからよ、昼間は家開けるな」


 朝食後、お茶を飲んでいたあんちゃんが言った。


 うちは食後は腹を静めるために休憩するのが決まりだ。


 朝は三十分。昼一時間。夜は各自それぞれに休み、寝るまでの間、内職やら趣味やらをする。


 で、朝食後は休みながら各自今日なにをするかを報告し合ったりするのがうちの習慣だ。


 とは言うものの、うちは役割分担が決まっている。


 おかあちゃんは畑。あんちゃんは家畜に伐採。あたしは家事。トータは狩りって具合に。まあ、人手が欲しいときは各自手伝ったり手伝ってもらったりはするけどね。


「わかったよ。気をつけてな」


 他の家だったらうちのことをほっぽり出すなんて有り得ないことだが、うちの畑は小さいし、放牧も隣任せ。ラムノの収穫はまだ先。薪も四日に一回くらい集落に運べば充分。なので、あんちゃんは基本、やりたいことをやっているから別段言うこともないのだ。


「んで、サプル。お前に頼みがあるんだが、昼に港まできてくれや。船乗りの昼食を作ってくれ。だいたい五十人分くらいでよ」


「うん、わかった」


「──いやいや、おかしいだろう!? なに簡単に言ってんだ、お前ら兄弟はっ?!」


 え? なんか変なこと言ったかな?


「五十人分って、どんだけの量になっと思ってんだよ! 食材は? 鍋は? 場所は? 人手はどーすんだよっ!」


「問題ねーよ」


 うん、ないね。ほとんどあんちゃんが解決しちゃってるし。まあ、あるとすれば人手かな?


「あんちゃん、なん人までイイの? 手伝い?」


 さすがのあたしでも五十人分の材料を洗ったり切ったりはできない。でも、人手があれば五十人分なんてちょーよゆう。隊商相手や祭りのときによくやってるしね。


「そーだな。五人もいれば充分だが、まあ、これるヤツは連れてこい。報酬は髪止めや手鏡でイイだろう」


「それだと村の女衆がみんな集まっちゃうよ」


 王都や近隣の街にいってわかったけど、手鏡なんてお金持ちか貴族くらいしか持ってない。街の人は金属を磨いたものか、水鏡が精々。うちの村が……と言うよりあんちゃんがおかしいのだ。


「そうか?」


 あんちゃん、なんでも知ってるのに、なぜか常識が欠けてるんだよね……。


「……サ、サプル。手鏡とは……?」


 常識なじいちゃんが震える声で聞いてきたので、ワンピースのポケット(ちなみにあんちゃんの魔法で拡張されてるよ)から手鏡を取り出し、じいちゃんに渡した。


「なんだ、この小ささと写り具合は? 名高い鏡職人でもこんなものは作れんぞ……」


 だと思うよ。あんちゃん、拘るととことん追求しちゃう性格だからね。


「あんちゃん。報酬は髪止めとクシでイイよ」


 まあ、それでも多いだろうし、たくさん集まっちゃうけど、女の嫉妬は怖いからね、いろいろ気を使わないとならないのですよ……。


「そうか? まあ、その辺はサプルに任せるよ」


「うん、わかった」


 女のことは女に任せてもらった方が無難だからね。ほんと、オンナは大変なんですからっ。


「トータはうちの守りだ。オカンをちゃんと守るんだぞ」


 守りとは言ってもたんなる留守番してろってことなんだけどね。トータ、すぐ狩りにいっちゃうから。


「うん、わかった!」


 簡単にあんちゃんの言葉にノセられる単純なトータ。まったく、これだから幼児はダメよね~。


「んじゃ、会長さんよ。いくとするか」


「あ、ああ。だが、食糧の用意はいいのか?」


「それはサプル任せだ。料理に関することならサプルは世界一だからな。なんも心配はねーよ」


 もー、あんちゃんったらおだてんのが上手いんだからっ。照れちゃうじゃないのさ~。


 なんて、トータのこと言えないあたしだけど、やることはしっかりやるのが姉としての矜持。弟には負けてられませんわっ。


 朝食の後片付けをぱっぱと終わらせ、離れの掃除に、洗濯を済ませる。


「トータ。保存庫から調理車を出しておいて」


 木刀を持ち、剣の練習をしようとしたトータに命じ、あたしは保存庫に材料を取りに向かった。


 飢饉に備えて調理済みのものがほとんどだけど、隊商相手やたまにこんなときに備えて材料のままで時間凍結してあるのだ。


「マジカルチェンジスリー!」


 呪文を唱え、あんちゃんが作った作業用魔法鎧を纏った。


 とは言っても見た目はなにも変わらない。いや、前はヒラヒラでフワフワな色鮮やかなものだったんだけど、あたしのなにかが許さなかったので無色透明、たんに体を纏うものにしてもらったのだ。


 ……あんちゃんのことは好きだし、あんちゃんの言葉には従うけど、アレはないワ~。衣服に無頓着なあたしでもアレは着れないって……。


 食材が詰まった木箱を三つ重ね、外へと運んだ。


 トータもあたしと同じ鎧(もちろん、ヒラヒラでフワフワなものではなく、ツルツルとした革のような感じで、変な兜を被ったものだ)なので、馬でもなければ動かせない調理車でも簡単に出してこられるのだ。


「ありがとね。あとはイイよ」


 してもらったら感謝をがうちの家訓。それがこみにゅけーしょん、らしい。よくわかんないけど。


「ねーちゃん、水はイイのか? 港、水汲み場、遠いよ」


「あ、そう言えばそーだったね。なら樽を持っていかないと」


 危ない危ない。あんちゃんの顔にドロをぬるところだったわ。


 保存庫から樽を二つ持ってきて調理車に積んだ。


「さてと。じゃあ、いってくるね」


「いってらっしゃい」


 調理車を引いて出発した。


 まずは、トアラのねーちゃんちにいくか。


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