サプル編第3話 料理は楽しいね

「おはよう、サプル」


「おはようございます」


 朝食を作っていると、昨日来たじいちゃんとおっちゃんが起きてきた。


「おはよー。よく眠れた?」


 あんちゃんから目上の人に対しての口調は教わっているけど、うちに泊まりにくる人にはいつもの口調で構わないとあんちゃんが言っていたので普通に応えた。


 まあ、あんちゃんの口調やスゴさになれたら細かいことに目なんかいかないけどね。


「旨そうな匂いだ。なに作ってるんだ?」


「野菜と鹿肉、小麦粉を練って作った団子をゴジルで煮たものだよ。あとは、肉まんに川魚の塩焼き、漬け物だね」


 他の家ではありえないくらいの種類であり量ではあるが、うちの場合はいつもの朝食。あ、今日はおうじさまが送ってくれたバナナがつくよ。


「ゴジル? ゴジルまであるのか、この家は!?」


「昨日あんちゃんが持 ってきたんだ」


 ゴジルに似たプルムと言うのはあったけど、あんちゃんが言う通り、ゴジルの方が味わいがあって野菜と肉との愛称がぐっと。いろんなダシでいろんな味を出せるから作り甲斐のある魔法の調味料だよ。


「もうすぐできるからもうちょっと待っててね。あ、できるまでお茶でも飲んでてよ。おーじさまの贈り物にルー茶が入ってたからさ」


 なんでできてるかはわからないけど、あんちゃんの言葉ではコーキな味がするんだって。あたしは、砂糖と羊乳を混ぜないと飲めないけど、大人ならそのままでも大丈夫でしょう。あ、でも、一応出しておくか。人の味覚はせんさ……なんて言ったっけ? まあ、違うってことだよ。


「もはや砂糖があることも、白いことも、どーでもよくるのぉ……」


「まさか最高級のルー茶がこんな田舎で普通に出てくるとは夢にも思いませんでした……」


 なにか驚いているよーだけど、うちに初めて泊まった人はだいたいそーなる。なんでもう気にならなくなったよ。


「サプルは、本当に料理が好きなんだな」


 肉まんの蒸し具合を見てたら突然じいちゃんがそんなことを言ってきた。


「なーに、突然?」


 振り向いてじいちゃんに尋ねた。


「いや、とても楽しそうな顔をしてたもんでな」


「あたし、そんな顔してた?」


 自分としては普通にしてたつもりなんだけどな~。


「サプルは、料理人として自分の店を持ちたいとは思わんのか?」


「店? 店ならあるよ。まあ、隊商がきたときだけ開く店だけどね」


 他にもあるけど、それは秘密にしとけってあんちゃんが言ってたから内緒だよ。


「……店までやってたのか、あのガキは……」


「本当になんでもありな子ですね……」


 まあ、あんちゃんって、好きなことには無駄なくらい働くからね。気に入らないとなにもしないけど。


「な、なあ、サプル。街で、いや、王都で料理屋をやらんか? わしが店を建ててやるぞ?」


「んーやらない」


「どうしてだ?」


「だって、王都って汚いし、不便なんだもん」


 一度、あんちゃんに連れてってもらったけと、あんなとこ人が住むとこじゃないよ。汚いったりゃありゃしないわ。お風呂もなかったし。


「……な、なんだろうな、なにかとてつもないことを言われたのだが、頭の中がゴチャゴチャしてまとまらんよ……」


 なにやら頭を両手で押さえながら呻くじいちゃん。どーしたの、いったい?


 おっと、そろそろできる頃合いだわ。


 蒸籠から肉まんを出すと、イイ具合に蒸されていた。


 できたものをあんちゃんが作ってくれた時間止めの重箱に詰めていく。


「……なあ、サプル。サプルは王都にいったことあるのか?」


「あるよ」


 そう答えたらまた頭を両手で押さえるじいちゃん。具合でも悪いの?


「え、えーと、その、王都には、どうやっていったんだい?」


 じいちゃんに代わり、おっちゃんが聞いてきた。


「渡り竜に乗ってだよ」


「へ、へーそーなんだ。なにしに?」


 乾いた顔になるおっちゃん。なんか目が死んでない?


「調味料や食材を買いにだよ。さすがに村だけじゃ揃えられないものがあるからね」


 近隣のものはあらかた使って、もう新しいのが作れなくなったから、ルククと遊ぶついでにあんちゃんに大きな街に連れてってもらってるんだ。


「でも、王都はもう行きたくないや。調味料もたいしたのないし、野菜も新鮮じゃないんだもん。王都の人、よく食べられるよね、あんなの」


 もう不味いなんてもんじゃないよ。アレならまだそこら辺に咲いてる雑草を食べた方が美味しいよ。まあ、調理しての話だけどさ。


「──ねーちゃん、ウル鳥が獲れたよ!」


 朝食前に狩りに出ていたトータが帰って来た。


「またウル鳥なの。たまには赤蜥蜴でも狩ってきなさいよ」


 ウル鳥は美味しいんだけど、三日に一回(最低、六羽は狩ってくるのよね、この子は)はウル鳥って、さすがのあたしでも調理するの飽きるわよ。


 うーと口をすぼめるトータに構わず、ウル鳥を受け取り、ささっと捌いて冷凍庫に放り込んだ。


「あー腹へった。お、会長さんら起きてたのか。早いな。もっと寝てればイイのに」


 あんちゃんが朝の仕事を終えて戻って来た。


 おっと。あたしも朝食を終えないとね。


 最後の一品、捌いた川魚に塩を振り、炭火にかけた。

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