06#大賢者、自らの魔術の威力を知る


 他の冒険者に話しかけられないためには、どうすればいいか?


 僕が出した結論は、〝顔を隠す〟だった。

 他人から見て話しかけやすいらしい僕の顔が見えなくなってしまえば、流石に他の冒険者も躊躇するだろう。

 それにホラ、顔が見えない冒険者ってなんか強そうだし?


 そんなワケで武器屋の店主に売ってもらったのは、鉄の頬当てが付いた黒色のフルフェイスマスク。

 これは【魔術師】というよりは【斥候スカウト】や【狩人ハンター】が身に着ける装備らしく、目元までバッチリ覆い隠してくれる代物だ。

 デザインもちょっと悪っぽくてカッコイイし、勢いで買った時は「イケる!」って思ったんだけど……


「あ、あの~……先程の【魔装剣士】様……ですよね……?」


 マスク着けて再び冒険者ギルドの受付を訪れた僕は、激しく後悔していた。


 元々僕が〝魔装剣スフィア・ソード〟を身に着けたのは、ギルドの受付嬢から怪しまれないようにするためである。


 それなのに、他の冒険者から声をかけられないためにと悪っぽいマスクで顔を覆った結果、結局怪しさ満点で受付嬢からこれ以上ないくらい不審の眼差しを向けられている。

 これでは本末転倒だ。


 というか実際、今の僕は誰から見ても怪しい奴だよ……

 完璧にヤバい奴だよ……

 僕はマジでなにやってるんだろう……


「……はい、そうです……さっきの者です……なんというか……察してください……」


 もう穴があったら入りたい……

 せっかくカッコイイマスクを着けてるのに、しくしくと両手で顔を覆う僕。


「は、はぁ……あなた様に複雑な事情があるのは承知しました。でも、悪い人じゃないってこともわかりましたよ」

「え、そう?」

「もちろん、お1人で冒険されている方は後ろめたい経緯をお持ちの方が多くて、正直怖いって思うこともあるんです。でも、あなた様にはそういう雰囲気がありません。ですから、依頼をお任せしても大丈夫だと思っています」

「! ってことは――!」

「はい、ソロの方でも受注できそうな依頼が幾つかあるので、ぜひ見ていってください」


 受付嬢のその言葉を聞いて、僕は「よっしゃあ!」と拳を振り上げた。



◇ ◇ ◇



 無事受付嬢と打ち解けた僕は〝療薬草100本の納品〟の依頼を受注し、今は『ポルフェア』から離れた森の中へと入っている。


 Bランクにもなって〝療薬草100本の納品〟は流石に地味だが、最初から高難易度の依頼を受けるよりはいいだろう。


 というかそもそも、彼女が紹介してくれた依頼の中に当然そんなのはなかったし。

 僕みたいな奴には、最初はコツコツ堅実にってくらいが丁度いい。


 それに――正直に言うと、この依頼はついで・・・なのだ。

 【ユニークスキル:孤高の大賢者】によって僕自身がどれくらい強くなったのか、それを試すのが主目的。


 まあ試すまでもないんだろうけど、一応確認しておきたいし。

 念のため、ちゃんと〝ユニークスキル〟が開放されてるか見ておくか。


 そう思った僕は右手を払い、自分のステータスを空中に表示する。

 すると以前のように光の文字が現れて、



===========================


 Lv.999

 名前:ファル・ハーツアイアン

 年齢:19歳

 性別:男

 種族:人間


 HP:765

 MP:∞

 攻撃力:35

 魔術攻撃力:9999

 素早さ:15



 【ユニークスキル:孤高の大賢者】


 〈1人でいる限り魔力無限〉

 〈1人でいる限り魔術攻撃力100倍〉

 〈1人でいる限りあらゆる魔術を無効〉

 〈1人でいる限り全ての魔術を使用可能〉


===========================



「ぶふぉっ!?」


 なんかレベルがカンストしてる!?

 それに魔力MP無限で魔術攻撃力が9999って……!


 わかってはいたが、改めて見ると本当にぶっ壊れてるな。

 僕のレベルなんて、ついこの間まで50に満たなかったのに……


 まあ、ちゃんと〝ユニークスキル〟が開放されてるのはよかった。

 あとはこの能力を試せるモンスターが現れてくれるのを待つだけか。


「手頃に強いモンスターかぁ、ホブゴブリンでも出てきてくれないかな。お、療薬草みっけ」


 プチプチと療薬草を摘みながら、僕は森の中へと入っていく。

 すると――



『コオオオォォォォォッ!!!』



 静かだった森の中に、突如けたたましい鳴き声が響いた。


 ――間違いない、モンスターだ!

 それもたぶん、Cランク討伐対象以上の――!


 僕が思った刹那、空から謎の巨体が降ってくる。

 そして僕の前に立ちはだかったモンスターの正体、それは――


「こ――〝コカトリス〟! なんでこんな街はずれに!?」


 見上げるほどの巨体は白い羽毛を持つ鶏、しかしその尻尾部には人を丸飲みできる蛇の頭が生えている凶悪なモンスター〝コカトリス〟。

 冒険者の間でもその名を知られた、Bランク討伐対象の強敵。


 しかもコイツはBランク対象の中でも上位に食い込む存在で、経験豊富な冒険者ですら喰われてしまうことがあるヤバい奴だ。

 その巨体、多少の飛行能力、蛇の毒、どれを取っても戦いづらい相手だが――その中でも特に危険なのが――


『コケエエエェェッ!』


 俺を見るや、コカトリスは両目から光の光線を放ってくる。


 来た――〝石化の瞳〟!

 これを受けるとたちまち身体が石化し、身動きがとれなくなってしまう。

 さらに【回復師ヒーラー】による状態異常回復がないと永遠に石化したまま致死状態が続き、最悪の場合はコカトリスに破壊されて粉々に砕け散る。

 そんな危険極まりない攻撃を――避ける間もなく僕は受けてしまう。


「うわあっ!」


 直撃――このまま身体が石化してしまうかと思ったが、


「……あ、あれ? なんともないぞ……?」


 僕の身体は、一切の変化を起こさなかった。

 普通ならすぐ足元から石になっていくのに。


 ……もしかして、これが〈あらゆる魔術を無効〉の恩恵?

 コカトリスの〝石化の瞳〟を完全に無効化しちゃったの?


『コケッ!? コケエエエェェッ!』


 僕が石化しなかったことに驚いたコカトリスは、その巨体で突進してくる。

 この感じは――イケるかもしれない。


 僕は右手を前に突き出し―、


「ふ――〈フレイム・バースト〉ッ!」


 魔術を使う。

 開いた右手の前に大きな炎球が出現し、それがコカトリス目掛け撃ち出される。


 〈フレイム・バースト〉は炎属性のごく一般的な攻撃魔術で、比較的威力が高い。

 とはいえ、コカトリスを倒せるほどの威力ではないのだが――


 僕が放った炎球が、コカトリスに当たる。

 その刹那――


 ドゴァ――――ンッ!!!


 まるで火山の噴火と見紛うばかりの、超大な爆炎が周囲を焼き尽くした。

 灼熱の炎は木を焼き草を焼き地面を焼き、空気すら燃やし尽くす。

 空に向かって大きなキノコ雲が立ち昇り、青かった空が真っ黒に染まる。


 なんだろう、神の怒り? 神の鉄槌? そんな風に表現しても遜色ないほどの迫力だ。

 そして炎が消える頃には地面に巨大なクレーターが出来上がっており、さっきまで生き生きとしていたコカトリスは真っ黒に焦げて地面に倒れていた。


「…………うわぁ」


 おかしいでしょ、〈フレイム・バースト〉ってこんな威力出ないよ。

 これじゃまるで〈メテオ〉でも使ったみたいだよ。


 〈魔術攻撃力100倍〉って、こんなに凄いのか……?


 ヤバすぎるよ、これじゃ迂闊に魔術も使えない。

 Bランク対象モンスターどころか、Aランク対象だってこれ1発で仕留められるだろ。

 これはちょっと、普段から使う魔術を限定させなきゃだな……


 僕は改めて、自分が開放した〝ユニークスキル〟の凄まじさを再確認した。

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大賢者はソロで旅したい~冒険者パーティを追放された無能魔術師、ソロになった途端【ユニークスキル:孤高の大賢者】を開放して魔力無限&魔術攻撃力100倍になったので、開き直って悠々自適な1人旅を始めます~ メソポ・たみあ @mesopo_tamia

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