05#大賢者、勧誘される
武器屋の店主に冒険者ギルドの場所を教えてもらった僕は、さっそく歩を進めていた。
腰の鞘には、彼から譲り受けた〝
これがあると、ちょっとだけいつもの違う気分だったり。
【魔術師】の格好でこの剣を装備していれば、多少は怪しまれずに済むだろう。
いやぁ、我ながら策士だ。
そうして、僕は冒険者ギルドの建物に到着する。
思った通り、武器屋からそれほど距離は離れていなかった。
僕は両開きドアを押して、中へと入っていく。
建物の中は、割とどこにでもありそうな冒険者ギルドの待合広場になっていた。
複数のテーブルを冒険者たちが囲み、受付カウンターには美人な受付嬢が立っている。
冒険者たちは新参・古参、老若男女問わず様々なパーティがいるようで、このギルドが大勢の冒険者を抱えている証拠だ。
たま~に高難易度依頼のみを扱う新参者お断りなギルドもあったりするから、その点は安心した。
僕は受付へと赴くと、
「すみません、依頼を受けたいんですけど……」
「はい、かしこまりました! 当ギルドのご利用は初めてですか?」
「ええ、この街に着いたばかりの新参者なので、どんな依頼が出てるのか見させてもらいたくて」
「それでは条件に合ったモノをお探ししますので、まずはパーティ編成とランクを教えて頂けますか?」
「あ、パーティは組んでなくて、ソロで冒険してるんです」
僕が答えるや、受付嬢の表情が少し曇る。困った感じというか。
「ソロ……ですか? えっと……」
受付嬢は僕の身なりを確認する。
僕の格好があからさまに【魔術師】っぽいので、警戒したのだろう。まあ、ここまでは僕の予想通りだ。
しかし僕の腰の〝
「! もしや【魔装剣士】の方でしたか、これは申し訳ございません。ソロで活動する【魔術師】の方は珍しいと思ったもので、つい……」
「いやいや、気にしないでください。ちなみにランクはBなので、それなりに経験はある方だと思いますよ」
――よし、完璧だ。
僕を【魔装剣士】だと思い込んでくれた。
これで不必要に怪しまれずに済むし、むしろ手練れの冒険者と思い込んでくれるかもしれない。
……いやまあ、露骨にソロの【魔術師】が嫌がられるのは、わかっていても複雑な気分だけどさぁ。
とにかくファーストインプレッションは上々だ。
これなら、なんとか依頼を回してもらえそうだな。
「それで、なにかソロでもできそうな依頼は――」
「――あの、ちょっとよろしいですか?」
いよいよ受付嬢に依頼を尋ねようとした瞬間、僕は背後から声をかけられる。
なんだ? と思って振り向くと――そこには、3人の冒険者の姿があった。
「もしなにか依頼を探しているのなら、僕らとパーティを組んでくれませんか? Bランクで【魔装剣士】の方なら、心強い!」
どうやら3人の冒険者はまだまだ駆け出しらしく、仲間探しをしている最中のようだ。
冒険者の最初の難関は、この仲間探しにある。
というのも、仲間が簡単に見つかるかどうかで冒険の難易度も変わるからだ。
運よくすぐにパーティメンバーが揃えば、よほど無謀な真似をしない限り安心して冒険できる。
逆に中々パーティを作れないと、冒険に出る前に苦労する羽目になる。
そう考えると、2年前の僕はラッキーだった言えるだろうな。
とはいえ仲間を欲しているパーティは少なくないし、ギルドも掲示板などで積極的に募集の張り紙を出してくれる。
それに様々な理由で定期的にパーティを変える冒険者も多いことから、彼らみたいに積極的に声をかける必要性はあまりないのだが……
「い、いや~……そのお誘いはありがたいけど、僕は好きで1人旅してるから……」
「では、今回だけでもご一緒させてください! 大丈夫、ご迷惑はおかけしません!」
……不味い。非常に不味い。
これは予想外だった。
まさか仲間探しをしている冒険者から声をかけられるとは。
彼らはキラキラとした眼差して、僕を勧誘してくる。
たぶん【魔装剣士】という
いや間違ってはいないが。
残念ながら僕は純粋な【魔術師】なんだけど。
しかしまさか、良かれと思った〝
ついでに、僕はよく〝話しかけやすい顔〟をしていると言われる。
ジョエルたちのパーティに居た頃、リトナに「ファルは童顔で優しそうでチョロそうだからパーティに誘った」なんて言われたこともある。
アレを言われた時は微妙にショックだったけどさ……
この冒険者たちも、「この人話しやすそうだな~」と思って声をかけたのかもしれない。
普通の冒険者ならば、この誘いを断る理由はない。
どう考えたって複数名で依頼を受けた方が効率がいいし、もし一身上の都合があるなら彼の言うように「今回だけパーティを組んだら解散!」ってしてしまえばいいからだ。
確かに報酬額は割り勘だから減るけど、依頼をする側だって複数名のパーティに依頼することを前提に賞金を設定してるから、不満が出ないくらいのお金は貰える。
だから「僕は絶対に誰ともパーティを組みません」なんて態度を取ろうものなら、やっぱり怪しまれるのだ。
よっぽどワケありとか、正確に難ありとか、とにかくギルド側からネガティブなレッテルを貼られてしまう。
それなら【ユニークスキル:孤高の大賢者】はソロでないと発動できないって説明すればいいじゃん、と思うかもしれないが、正直それは避けたい。
だって考えてもみてほしい。
1人でいる限り魔力無限で、魔術攻撃力100倍で、あらゆる魔術攻撃無効で、全ての魔術を使用可能――なんて説明して、興味を持たない冒険者がいるか?
いや、絶対いないと思う。
間違いなくいないと思う。
冒険者の世界は〝ユニークスキル〟がモノを言う世界だ。
〝ユニークスキル〟の効果が高くて、レアだと思われれば思われるほど、その冒険者に需要が出てくる。
もし僕の能力が世間に知れ渡ったりすれば、とにかく色々な理由をこじつけて僕をパーティに加入させようとする者も現れるかもしれない。
あるいは逆に、1人じゃないと〝ユニークスキル〟を使えないぼっち野郎とでも罵る奴も現れるかもしれない。
そんなの、どちらもゴメンだ。
僕は1人で悠々自適に冒険すると決めたのだ。
この若手たちには申し訳ないが――
「わ……悪いけど、他を当たってくれ――ッ!」
僕は逃げるように、冒険者ギルドから飛び出していった。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドを飛び出した僕は、再び武器屋に向かっていた。
そして入り口のドアをバンッと開くと、
「店主さんはいる!?」
「おおう!? なんでぇ、まさか〝
「そんなんじゃないよ! あ~っと、その……顔を覆い隠せるマスクか、兜(ヘルメット)を売っておくれ……」
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