04#大賢者、魔装剣を買う


 ジョエルたちのパーティをクビになり、【ユニークスキル:孤高の大賢者】を発現させた僕は新たなる街へとやって来ていた。


 街の名前は『ポルフェア』。

 大勢の冒険者で賑わう中規模都市だ。


「ようやく着いた……さて、それじゃさっそく冒険者ギルドを探すか――と言いたい所だけど……」


 その前に、ちょっと寄りたい場所がある。

 まずはそこから探すとするか。

 おそらく冒険者ギルドからそう遠くない場所に店を構えているはずだから、すぐ見つかるだろう。


 そう思って、僕は街の中を歩き出す。


 ……それにしても、どうして今更になって〝ユニークスキル〟を発現できたんだろう?

 基本的に、ほとんどの冒険者は冒険中――特に戦闘中とかに開放されることが多いのに。


 一晩経って流石に冷静さを取り戻した僕は、ふとそんなことを思う。

 丸々2年も反応がなかったのに、パーティをクビになった途端に開放されるなんて……


 もしかして、元々僕の〝ユニークスキル〟はソロにならなきゃ開放されなかったとか?


 僕は冒険者になった時からパーティに属していたから、ソロになったことは1度もない。

 とすると、パーティから外れてソロになることが開放の条件だった……とするのが妥当だろう。


 ……なんか、そう考えるとなんとも言えない気持ちになるなぁ。

 それって初めからぼっちになるのが決められてたようなモンじゃん。

 まぁ別に1人でいるのが嫌いなワケじゃないし、いいんだけど。


 ――〝ユニークスキル〟について色々と考えている内に、僕は目的地であろう店の看板を見つけた。


「お、あったあった」


 僕は躊躇することなく、その店に入っていく。

 カランカランと小さな鐘の音を鳴らしてドアを開けるとーー視界に飛び込んできたのはピカピカに磨き上げられた武器・防具の数々。


 そう、ここは武器屋だ。


「いらっしゃい――おう? 見ねえ顔だな」


 店の奥のカウンターには、如何にも鍛冶職人という風貌の厳つい男が座っていた。

 たぶん店の店主だろう。

 僕はその男へ近づいていくと、


「ああ、つい今しがた街に着いたばかりの新参者なんだ。しばらく世話になると思うよ」

「そいつはいい、お得意さんが増えるなら大歓迎さ。見たところ……お前さんは【魔術師】だろ? 魔装衣ローブか杖をお探しかい?」

「いや、僕が探しているのは〝魔装剣(スフィア・ソード)〟なんだけど――」


 僕がその名称を出すと、店主の表情が険しくなる。


「〝魔装剣スフィア・ソード〟だぁ〜? なんだよ、【魔装剣士】の真似ごとでもする気か? 耳長エルフの連中じゃあるめぇし」


 彼の言う【魔装剣士】とは、平たく言うと職業ジョブの1種である。

 読んで字の如く剣に魔力を込めて戦い、状況に応じて攻撃魔術と使い分ける極めて特殊な職業ジョブだ。

 接近戦と魔術両方に精通し、尚且つ豊富な魔力がなければならないので、生まれながらに高い魔力を持つエルフでなければ習熟が難しいと言われている。


 確かに【魔術師】の格好で〝魔装剣スフィア・ソード〟が欲しいなどと言えば、【魔装剣士】になりたがっている夢見がちな冒険者と思われても仕方ない。


 最初に断っておくと僕は別に【魔装剣士】になりたいワケではないし、剣術の心得があるワケでもない。

 そもそも【ユニークスキル:孤高の大賢者】が開放された時点で、剣を使う機会があるとは思えない。

 どう考えても魔術をぶっ放した方が強いし。


 だがソロで冒険を始めた今の状況では、【魔装剣士】を装っていた方が都合がいいと思ったのだ。

 というのも、【魔術師】が1人でいると冒険者ギルドに怪しまれるからである。


 例えば【剣士】や【弓使い】のような職業(ジョブ)であれば、ソロで旅していても「よほど腕に自信があるんだろうな」とか「1匹狼なのかもしれない」みたいに思ってもらえることもある。

 接近戦闘職業ジョブであれば1人で旅してる人も稀に見かけるし、他にも【斥候スカウト】ならソロで活動していることも多い。

 つまり「まあ、たまにいるよね」って感じで、あまりネガティブなイメージに繋がらないのだ。


 ――それに対して、【魔術師】がソロだった場合。

 基本的に【魔術師】は支援職である。

 【剣士】などの接近戦闘職業ジョブとは違って、単騎で完成されているワケではない。

 【魔術師】とはパーティに属してこそ真価を発揮できるのであって、ソロで活動するメリットは薄いのだ。

 世の中で活動している99%くらいの【魔術師】はパーティか、もしそうでないなら特定の組織に属していることだろう。


 ……にも関わらず、どこのパーティにも組織にも属さず、ソロで冒険をしている【魔術師】……。

 まあぶっちゃけ、怪しまれる。

 百歩譲って変人だと思われる。

 「コイツ陰でヤバいことしてるんじゃないか?」とか勘ぐられかねない。

 とにかくイメージが悪いのだ。


 冒険者にとって大事なのは、冒険者ギルドとの信頼関係を築くことである。

 ギルドだって信用できない人に依頼を回したがらないし、どうせなら成功率の高いしっかりしたパーティに任せたい。

 進んでソロの【魔術師】に依頼を回してくれる受付嬢は……世界中探してもいないだろうな、たぶん。


 ましてや僕はソロでの冒険を始めたばかりで、信用も実績も皆無な状態。

 いくら強力な〝ユニークスキル〟を持っていたとしても、渋られるのは間違いない。


 であるならば、せめて格好だけでも怪しまれないようにしたいのだ。

 まあ、そんな説明するのも面倒な本音など今は隠そう。


「アハハ、そんなところかな。それで〝魔装剣(スフィア・ソード)〟は置いてあるの?」

「あるにはあるがよ……ちょいと待ってな」


 店主はのっそのっそと店の奥に入っていき、しばらくすると布に包まれた1本の剣を持って戻ってくる。


「コイツがウチにある唯一の〝魔装剣スフィア・ソード〟さ。買い手が見つからなくて埃を被ってたんだが……」


 店主は布を剥がすと、中から独特な形状の細身の剣が姿を現した。

 刀身は薄い水色をしており、宝石のように美しい。

 また柄尻に丸い水晶スフィアが取り付けられていて、初めから魔力を込めて使用する前提なのが見て取れる。

 派手過ぎないくらいに装飾も施されているし、結構な値がしそうだけど……


「高そうな剣だね、いくら?」

「そうさな、ざっと2500ギルくらいにまけといてやるよ。本当はもっと値打ちモンなんだが、もう何年も置物状態だったからな」


 うぐっ、それでも2500ギルかぁ……。

 僕の全財産が3000ギルだから、所持金のほとんどをこの1本に費やすことになる。

 とはいえ〝魔装剣スフィア・ソード〟は珍しいみたいだし、他の武器屋に都合よく置いてあるかもわからないしなぁ……それに見た目も綺麗だし……。


「う~ん、ちょっと握ってみても?」

「ああ、構わねぇよ」


 店主の許可をもらい、僕は〝魔装剣スフィア・ソード〟の柄を握ってみる。

 〝魔装剣スフィア・ソード〟は非力な僕でも難なく持ち上げられるほど軽く、これなら腰に下げても冒険の邪魔にはならないはずだ。


 ……この剣に、魔力を送り込んだらどうなるんだろう? 

 僕はふとそう思った。


 今の僕は【ユニークスキル:孤高の大賢者】のおかげで魔力が無限に使えるし、理屈の上ではこの剣の許容量限界まで魔力を充填できるはずだ。

 純粋に魔術を発動するための媒介として使うだけでもいいのだが、それはそれとして興味が湧くのが人情というもの。


 ――ちょっと魔力を込めてみるか。

 といっても、どれくらいまでなら大丈夫なんだろう?

 そもそも、剣に魔力を込めるってどうやるんだ? 

 こんな感じかな? えい!



 ゴォ――――ッッッ!!!



 僕が剣に魔力を込めるイメージをした直後、〝魔装剣スフィア・ソード〟の刀身から溢れ出た魔力が青白い炎となって噴出し、さながら間欠泉のように武器屋の天上をぶち破った。


「うわ――――ッ!? 止めろ止めろ!」

「ご、ごごごごめんなさいいいいッ!?」


 大慌てで魔力の供給をストップする僕。

 すぐに魔力の噴出は収まるが……天上には、晴れやかな青い空と白い雲が見える大穴が空いてしまっていた。

 どうやら魔力の炎には引火性はなかったらしく、火事にはなっていない。


 ……や、やり過ぎた。

 僕の魔力には際限がないから、適当に魔力を込めただけでオーバーフローを起こしてしまった……

 魔力無限、恐るべし……


「あ、あの~……これは決してワザとじゃなくて~……」


 恐る恐る、店主の方を見る。

 店を壊されて、それはもうカンカンに怒っているんじゃないかと思って。

 しかし、


「お、お前さん……お前さんしかいねぇ……この剣を使いこなせるのは……!」

「は、はい?」

「そうだ! この〝魔装剣スフィア・ソード〟は、お前さんの手に渡るためにあったんだ! 金はいらねぇ、だからどうかコイツを使いこなしてやってくれ!」


 ……どうやら魔力のオーバーフローを〝剣の真価を発揮した〟と勘違いしているらしく、彼はとても感激した様子だった。

 怒られるかと思いきや感動されるとか、逆にこっちが困惑してしまう。


「え、えっと、お店の修繕費とかは……」

「んなモン取ったらバチが当たるぜ! こちとら鍛冶屋の端くれ、得物を使いこなしてもらうのが一番嬉しいんだからよ!」


 な、なるほど、そういうモノなのか……。

 けど、これはありがたい。最初の出費が抑えられるのは、駆け出しにとって嬉しい限りなのだ。


「わかった、この剣はありがたく使わせてもらうよ。……ところで、この街の冒険者ギルドはどこにあるか教えてもらえるかな」

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