03#大賢者、ソロの旅を始めます


「なん……だ、これ……!?」


 目の前に現れた光の文字を見て、僕は驚きを通り越して茫然自失した。


 魔力無限――? 魔術攻撃力100倍――? 

 こんなの、なにかの冗談じゃないのか――!?


「冗談なんかじゃね~よぉ~! ヒック!」


 僕が目を点にした直後、そんな大声が街中に木霊する。

 その声に、僕はビクっとして身体を強張らせた。


「本当だって~、俺ァ昔メタルリザードを狩ったことがあるんだよぉ~」

「ギャハハハ! 嘘つけぇ! 酔いすぎだろお前~」


 通りの向こう側から、2人の冒険者が肩を組んでフラフラと歩いてくる。

 ……どうやら、酔っ払いの与太話だったらしい。ビックリした……


 だが、ここが通りの真ん中だということを思い出した僕は、すぐに薄暗い路地裏へと駆け込む。

 こんなの、他人に見られたらなんて言われるか……


 そして、再び光の文字を見た。



===========================


 『【ユニークスキル:孤高の大賢者】を開放しました』


 〈1人でいる限り魔力無限〉を取得

 〈1人でいる限り魔術攻撃力100倍〉を取得

 〈1人でいる限りあらゆる魔術を無効〉を取得

 〈1人でいる限り全ての魔術を使用可能〉を取得


===========================



 ……やっぱり、夢でも見間違いでもない。ハッキリと書いてある。


 これが――僕の〝ユニークスキル〟――


 信じられない。

 とてつもないレアスキルじゃないか。

 高名なSランク冒険者だって、こんな意味不明な〝ユニークスキル〟を持ってる話を聞いたことがない。


 魔力が無限で、攻撃力100倍で、魔術無効で、全魔術を使用可能で……

 もしこれが本当なら、AランクどころかSランク討伐対象相当のモンスターだって簡単に倒せるぞ!?


 このスキルがあるだけで、本当に文字通りの〝賢者〟になれるってことか!?

 もうぶっ壊れだろ、そんなの!


 僕は胸の高鳴りを抑えられなかった。

 ついさっきまで無能だと罵られていたのに、突然最強クラスの〝ユニークスキル〟を手に入れてしまった。

 僕は、もう無能なんかじゃない。それどころか――!


 無意識の内に口元を綻ばせ、ジョエルたちの下へ戻ろうと足が動く。

 「僕にも〝ユニークスキル〟が発現できたぞ!」と、一刻も早く報告したくて。


 しかし――1歩足を踏み出した所で、僕の動きは止まった。


 待てよ……よく見るとこの〝ユニークスキル〟、全部同じ条件があるぞ?


 〝1人でいる限り〟――ってことは、誰かとパーティを組むとスキルが発動しなくなる?


 いや、もしかしたらパーティ以前に、誰かと一緒にいると条件を満たせなくのかもしれない。

 それってつまり――〝ユニークスキル〟を開放していたければ、ずっと1人で冒険してろってことか!? 

 そんなの――っ!


 ……

 …………

 ………………無理じゃないぞ。全然無理じゃない。


 だって魔力無限で、強力な魔術を使いたい放題なんでしょ?

 それだけでも冒険の難易度は劇的に低下するし、下手すればパーティを組むより効率よく依頼を達成できる。


 逆に誰かとパーティを組むと、こんな夢の塊みたいな〝ユニークスキル〟を捨てることになる。


「……これマジか。そんなんソロで冒険するでしょ」


 僕はごくごく当たり前に、そういう結論に至った。

 よし、やっぱりソロで冒険しよう――と。


 どうせジョエルたちのパーティはクビになったんだ。

 いっそ開き直って、悠々自適な1人旅を満喫してやる。


 そもそも僕がしたかったのは冒険であって、パーティを組むのはその手段でしかないんだし。


 そう思い直した僕は、今度はすうっと胸が軽くなる。

 今まで心の中につっかえていた物が抜け落ちた気分だ。


 ――そうと決まれば、善は急げ。

 僕は裏路地から飛び出して、夜の街中を走り出す。


 この街に居たら、またジョエルたちと顔を合わせることになる。

 そんな気まずい気分のまま冒険を始めたくない。



 だからとりあえず――新しい人生の第1歩は、隣街の冒険者ギルドから始めようと思う。

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