02#無能、大賢者になる


 前略、冒険者2年目にしてパーティをクビになりました。しくしく。


 待合広場での一悶着の後、ギルドの待合広場を出た僕は夜の街を歩いていた。

 家々の灯りは灯っているが既に人通りは少なく、のんだくれの街人や冒険者がふらふらと歩いているくらい。


「いやはや……これからどうしようかなぁ……」


 正直に言って、僕は途方に暮れていた。

 何故かと言えば、行く当てがなかったからだ。


 僕は冒険者を初めてから、ずっとジョエルたちのパーティに所属していた。

 僕が冒険者を志してギルドの門を叩いたのは、17歳の時。

 まだ右も左もわからず、とにかく冒険者になりたい一心でギルドに登録した。

 そして登録したその日に、ジョエルたちと出会ったのだ。


 彼らも僕と同様に駆け出しの冒険者で、パーティになってくれる仲間を探していた。

 ほとんどの冒険者は、よほど特殊な事情がない限りまず初めに仲間を探す。

 単独ソロでの冒険が危険だいうことくらい初心者でも想像できるし、多少の無茶もできるようになる。

 なにより安心感を持てるのだ。


 だから僕も、彼らのスカウトを2つ返事で受けた。

 願ってもない誘いだったからだ。


 そうして冒険を始めた僕らだったが――彼らはすぐに〝ユニークスキル〟を発現させ、もの凄い勢いで成長していった。

 僅か2年でAランクまで駆け上がれるパーティはそう多くない。

 彼らが優秀であり、有用な〝ユニークスキル〟を持っていた証拠だ。


 ……しかしそれとは逆に、〝ユニークスキル〟を発現できない僕とメンバーたちの実力差は日に日に開いていった。

 僕だって皆の足を引っ張らないように努力したし、いざ戦闘となれば精確に支援できていたという自負はある。

 だが、それでも不足だった。


 付き合いの長さを鑑みても、クビなんて酷い話だ――とは思うが、理解はできてしまう。

 それに少なくとも、フレンダやリトナは本意ではなかったのは伝わってきた。

 それだけでも、多少は心の救いだ。


 そんなワケで、僕はジョエルたちとしかパーティを組んだことがない。

 つまり、あそこをクビにされたら縋れる相手がいないのだ。


 また1から仲間を探してパーティを組む――という選択肢もあるにはある。

 僕はBランクパーティに所属していたのだから、個人としてもBランク冒険者という扱いだ。

 CランクやDランクで探せば、メンバーを募集している所が見つかるかもしれない。


 だが……僕に〝ユニークスキル〟が無い限り、同じことが繰り返される可能性は非常に高い。

 というか、〝ユニークスキル〟がない【魔術師】をどれほどのパーティが欲しがるやら……


「絶望的だ……。でも、食い扶持がないのは不味いしなぁ……」


 働かざる者食うべからず。

 冒険者ならギルドの依頼を達成して賞金を得られなければ、ご飯にも在り付けなくなる。

 だがギルドに張り出される依頼はパーティでの受注が前提……よほど経験豊富な冒険者でもなければ、ソロで受けるなど自殺行為だ。

 まあそれ以前に、ギルドが受注させてくれないだろうが。


「……ホントどうしよう、これから……」


 そんなことを考えている内に、頭の中に〝引退〟の文字が浮かぶ。


 さっきは反射的に〝冒険者を続ける〟なんてリトナに言っちゃったけど、もう冒険者を辞めて普通に働いて生きるのもいいのかもしれない。

 むしろ無能の僕には、そっちが本命なのかもしれない。


 だけど、それでも――


「……いや、いいや、僕は冒険者でいたい。ここで諦めたら、それこそ今日までの2年間が無駄になる。必死になって魔術を覚えたのも、【魔術師】として世界中を冒険するためじゃないか」


 僕は身体が大きくないし、力も強くない。

 だけど昔から物覚えはいい方だった。

 【魔術師】って職業ジョブを選んだのもそういう理由からだけど、今では魔術を使って戦えることに誇りを持っている。

 この魔術と一緒に冒険したいって、やっぱりそう思う。


「……上等だ、ソロだろうがなんだろうが、冒険を続けてやる。いや、むしろ1人で世界中のダンジョンを踏破して、伝説のソロ冒険者として名を轟かせてやる!」


 夜空に向かって吠えた。


 〝ユニークスキル〟がないからなんだ。

 ソロだからなんだ。


 無能だろうが知ったことか、これが――僕の答えだ!


 そう思った――直後のことだった。


 突如、ブワァ!っと白い光が全身から湧き上がる。

 同時に身体の奥底から力が溢れ出るような感覚――


「これは――!?」


 この光は見たことがある。昔、ジョエルやリトナたちが〝ユニークスキル〟を発現させた時に発した光だ。


 ということは――まさか――


 次の瞬間、目の前に光で記された文字が出現する。

 そこには、こう書かれてあった。



===========================


『【ユニークスキル:孤高の大賢者】が開放されました』


 〈1人でいる限り魔力無限〉を取得

 〈1人でいる限り魔術攻撃力100倍〉を取得

 〈1人でいる限りあらゆる魔術を無効〉を取得

 〈1人でいる限り全ての魔術を使用可能〉を取得


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