大賢者はソロで旅したい~冒険者パーティを追放された無能魔術師、ソロになった途端【ユニークスキル:孤高の大賢者】を開放して魔力無限&魔術攻撃力100倍になったので、開き直って悠々自適な1人旅を始めます~

メソポ・たみあ

01#無能、クビになる


 〝冒険とは、仲間がいるから楽しいのだ〟


 一流の冒険者だろうが新米の冒険者だろうが、そんな言葉を1度は聞いたことがあるだろう。


 仲間がいるから、どんな危険にも飛び込んでいける。

 仲間がいるから、どんな苦難も乗り越えられる。

 仲間がいるから、どんな喜びも分かち合える。


 人は1人では生きられない。だから冒険者には仲間が必要だ。だから冒険者はパーティを組まなければならないのだ。


 パーティを組むのは自然なことで、当たり前のことで、必要なことなのだ。そうしなければ、冒険はままならないのだから。

 しかし――


「ファル、手前てめえはクビだ。もうウチのパーティにいる資格はねぇ」


 僕はたった今、そんな大事なパーティからクビを宣告されました。


「は、はぁ!? なんでだよ! この昇級を控えた大事な時期に――ッ!」

「だからだよ! この無能野郎!」


 ダンッ! と木製テーブルに拳を叩きつけ、パーティリーダーである【剣士】のジョエルが声を張り上げた。


 僕たちは今、冒険者ギルドの待合広場にある隅の席を囲み、パーティの今後の方針を話し合っている。

 僕たちのパーティはギルドによる昇級審査を目前に控えており、BランクからAランクへランクアップできるか否かの瀬戸際にいるのだ。


 で、僕はそんなパーティの【魔術師】をやっている。

 黒の革装備とマントを身にまとい、水晶の付いた杖から様々な属性の攻撃魔術を放つ。

 つまりパーティの攻撃支援役だ。


 一応言っておくと、僕は別に魔術の扱いに問題を抱えてるワケじゃない。

 各属性の魔術は割と満遍なく使えるし、魔力量は平均的だし、【魔術師】としてパーティを支援するのは難しくない。

 僕がジョエルから追及を受けるのは、もっと別な理由があるのだ。


 それは、


「俺たちがパーティを組んで、もう2年になる! 2年だぞ!? それなのに、手前てめえは一向に〝ユニークスキル〟を覚えやがらねぇ! そんな無能・・は、もう邪魔なだけなんだよ!」


 ――そう、コレなのだ。僕には〝ユニークスキル〟がない。


 〝ユニークスキル〟とは、冒険者1人1人が持つ固有オリジナルの能力のことである。コレは剣術や魔術の技が~という後天的に磨ける技術ではなく、言ってしまえば生まれ持った才能なのだ。


 〝ユニークスキル〟は、例えば〝斬撃・打撃による攻撃力が2倍〟〝防御力・耐久力が3倍〟といった基礎ステータスを底上げするタイプのモノから、〝傷の治癒を早める〟〝毒を無効化する〟というような回復系・状態異常無効化系まで実に種々様々。


 冒険者の数だけ〝ユニークスキル〟は存在するとされ、似たようなスキルはあれど基本的に同じモノはないと言われている。

 故に〝ユニークスキル〟はその冒険者の格を決めると言っても過言ではなく、どれだけ強力なスキルを発現できるかで人生が変わってしまうくらいなのだ。


 それこそ【魔術師】だったら〝炎属性魔術の攻撃力10倍〟〝魔力量3倍〟〝魔力使用量コスト半減〟みたいなスキルを発現できれば、そいつは【炎の魔術師ファイアー・ソーサラー】とでも呼ばれてもてはやされるだろう。


 そんな感じで、ほとんどの冒険者は冒険中に発現させて自分の個性を確立していくのだが……どういうワケか、僕だけはいつまで経っても〝ユニークスキル〟を発現できなかった。


 同じパーティメンバーで【弓使い】のフレンダが、ふぅとため息を漏らす。


「私たちがパーティを組んだ時は皆駆け出しで、誰も〝ユニークスキル〟も覚えてなかったけど……今ではもうあなただけ。なんの〝ユニークスキル〟も持たない【魔術師】がいてはAランクパーティの査定も危ぶまれるし、仮に査定をパスできても高難易度の依頼に必要以上の危険が付きまとうことになるわ。心苦しいけど……これはあなたのためでもあるの。理解してちょうだい」

「その通りだぞ、ファル」


 続けて【回復師ヒーラー】のリトナが言葉を発する。


「確かにお前は連携が上手いし、パーティの戦闘時の流れもよく把握してる。だからこそ、ここまでやってこれた。けど、お前も理解しているはずだ。〝ユニークスキル〟を持たない冒険者の末路を」

「それ、は……」


 実際、一生涯の内に〝ユニークスキル〟を発現できない者はごくごく少数だが存在する。

 そういう冒険者が辿るべき道は2つ。


 大人しく冒険者の道を諦めて引退するか、それとも意固地になって冒険者を続けて命を落とすか。

 どちらにせよ、冒険者として輝かしい未来はないかもしれないが――


「け、けど2年間もパーティに貢献してきたじゃないか! あんまりだ!」

「だからこそだよ、ファル。どうかあまり酷いことを言わせないでくれ。キミだって、僕らの言うことが理解できるんだろう?」

「気を使うことはねーぞ、リトナ。ハッキリ言ってやれ、お荷物抱えんのはゴメンだってな」


 テーブルの上に足を放り投げ、シッシッと追い払うような手振りをするジョエル。そんな彼を「おいジョエル」とリトナが睨む。


 お荷物……確かにそうだろうな。

 DランクやCランク、ギリギリBランクくらいまでなら〝ユニークスキル〟がなくても気にならない振りもできるだろうが、Aランクに足を踏み入れるならばもう無視できない。


 〝ユニークスキル〟を持たない者をパーティに置くということは、意図的に弱い冒険者を仲間にするというハンデを持つということ。

 ぶっちゃけ縛りプレイみたいなモノだ。

 あ~もうSランクになって余裕すぎて冒険つまらんわ~、みたいな超越した冒険者たちでもなければ、やる意味がない。


 だからジョエルたちが言っていることは、全然おかしくないし不条理でもないのだ。

 それに2年もパーティを組んでいたのだから、彼らが根っからの嫌なヤツらでないことも承知している。

 確かに少し前からすれ違いというか、特にジョエルとは関係がギクシャクし始めたのは間違いないが、彼らの中にあるのは無能者を嘲笑する気持ちではなく――純粋な焦りなのだということも理解しているつもりだ。


 冒険者だったら、誰だって栄光を掴みたい。

 そのためにはAランクやSランクの冒険者となって、大掛かりな依頼を受けねばならない。

 そんな理想が目の前にあって、逸る気持ちを抑えられないのだ。その気持ちは、ついさっきまで僕も一緒だった。


 だから友情や仲間意識よりも、不確定要素の排除を優先した。

 冷酷に、無慈悲に、これはあくまで生業しごとなのだから、と。

 もし僕が逆の立場だったなら、同じことをするかもしれない。


 もっとも……当事者となってしまった今は、たまらない気持ちだけど。

 僕は閉じた口の中でギリッと歯軋りし、


「…………ああ、わかったよ。僕はパーティを抜ける。それで君たちは心置きなくAランクパーティになれるんだろ?」

「そういうことだ。手前てめえとは、金輪際関わることはねぇ」

「……そうかい、2年間世話になったね。どうか新しいメンバーを見つけて、上手くやってくれよ」


 そう言って、僕は席を立つ。これは仕方のないことだと、自分に言い聞かせて。

 そして彼らに背を向け、待合広場から出て行こうとすると、


「……ファル、お前は冒険者を続けるのか?」


 最後に、リトナがそう問いかけた。

 そんな問いに対し、僕は――


「…………ああ、僕は冒険者を続けるよ」


 振り返らずにそう答えて、外へと出た。



 僕、ファル・ハーツアイアン。

 年齢は19歳。職業ジョブは【魔術師】。

 そんなワケで、冒険者2年目にして初めて1人ソロになりました。

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