第8話

そこには藤堂正太郎が映し出されていた。

「こんばんは。僕の名前は藤堂正太郎。今夜のゲストは誰かな。できれば、あの夜の2人じゃないといいんだけど。2人とは別の形で会いたいからね。まぁでも残念ながら誰かまでは予想が出来ず申し訳ないが、このまま語らせてもらうよ」

会話の内容からこの映像はリアルタイムではなく録画であることがわかる。

「僕は昔、あるウイルスに侵された。そのおかげである能力を得ることができた。もっともこの能力を使うことはないと思ってた。使わずに普通に生きることが暗黙の了解だったからね。でも残念ながらその不文律は破られてしまった。そう力を使うことは仕方がなかったんだ」


「でも目的を達成するには僕1人の能力では力が足りなかった。僕には彼女ほどの力はなかったからね。そこで思いついたのがもう一度同じことを起こして、彼女の能力を持つ仲間を作れないかだった。そのためにはウイルスの培養だ。とはいえ原因のウイルスはもう自然界には存在しないかもしれない、いやっ、今となってはもともと自然界に存在してたかどうかも怪しいぐらいだ。まぁもうそんなことはどうでもいいことだが。

でも僕の体の中にはそのウイルスが存在しているはずだと考えた。そしてやっと見つけたんだ、そのキーを。でも安心してくれていいよ、見つけたといっても実はまだ実験段階なんだ。でももうすぐ完成する。もうすぐだ」


「完成したら僕は彼女の目的を果たす。知っての通り、つまり世界の崩壊さ。さて僕の話はここまでだ。後は君たちの好きにするといい」

ここで映像が消えた。

「随分と身勝手な演説だこと、こっちが知らないかもしれない情報をぺらぺらしゃべるだけしゃべって。彼女の目的とまではどこにも保存されてなかったはずなんだけど」

「あらっ、予備知識なら昨夜に終えているはずでしょ。もっとも正太郎様にとって彼女は特別な存在だから、トップシークレットなの。あなたが知らなかったのも無理はないわ。でも彼女のことはあなたには関係ないものね」

「確かにそうね、彼女の目的が世界の崩壊?そんなものは好きにするがいいわ。でもそれまでにいったいどれだけの犠牲が生まれるか考えているのか、あいつは」

余裕を見せていた口調が途中で変わるほど手我波子に明らかな怒気が感じられた。


「あいつ?あなた、正太郎様の知り合いなの?まぁいいわあなたはどうせここで終わりなんだから。そろそろショーの始まりよ。あなた達出てきなさい、最初の獲物は彼女よ」

神崎綾音がそう叫ぶとにぶい光の中から手我波子を取り囲むように3人の男が姿を現した。3人とも両手には短剣が握られていた。

「安心して、相手をなぶる趣味は持ってないから。せめてもの情けよひと思いに眠りにつきなさい」

「そう?それを聞いて安心したわ。私にもその趣味はないから」

再び口調を戻した手我波子の言葉に動揺は感じられない。

「この状況でまだそんな余裕のある発言をするのね。丸腰のあなたに何ができるっていうの。いいかげんあきらめなさいよ!」

「丸腰?あなたにはそう見えるのかしら。知らないふりをするのも案外疲れるものなのね。一つだけいいことを教えてあげるわ。

残念ながら私もあれの生き残りだ!」

最後は余裕を見せる口調ではなく、彼女本来の力強さを感じる口調でそう宣言をした瞬間、手我波子の体が光に包まれた。

そしてまずは3人の男の足の動きが止まり次に両腕をバンザイする奇妙なポーズで完全に動きが止まってしまった。

「やれっ、ベルク!」

同時に銃声が6発連続して鳴り響き、同じく短剣が割れる金属音があたりに反響した。

「神崎綾音さん、あなたも眠りにつきなさい」

手我波子は優しくそう告げると、神崎綾音はその場で崩れ落ちた。

「七雲、ベルク、随分遅かったな」

「は~、あいかわらず人使いのあらい姉さんだ。もともと我らはいざという時の保険に過ぎないというのに」ベルクがぼやく。

「保険といっても、無駄な犠牲を出さないための保険だ、そうぼやくな」

七雲も会話に参加して

「すいません、連絡をもらってから急いだんですが、でもギリギリ間に合ってよかったです。ところで彼女死んじゃったんですか?思念波タイプで相手を操る波子姉さんの能力は、あいかわらずえげつないですね」

いつもは荒い口調の七雲も手我波子と話す時は敬語になってしまう。

「彼女は殺してない。記憶を消すだけだ。おそらく実験体ではないだろう。どことなく朱音の面影があるしな。他の3人は何もしなくてももう大丈夫だろう。撃ちもらしがなければだがな、ベルク」

手我波子はベルクに対しわざと意地悪く言ったが、冗談とわかるように顔は笑っていた。

「さて、ここはあらかた片づいたが、あまり時間はないみたいだな。正太郎は朱音によくなついていたからな。あいつにしてみれば敵取りか何かのつもりだろうが、これからやろうとしていることはあまりに危険だ。ちなみに七雲、るーには連絡していないだろうな」

「波子さん、そこは大丈夫です。るーはまだ何も知りません」


「るーにはまだ私のことは知られるわけにはいかなくてな。個人的な感情だが、数少ない一般人の友達でいてあげたいからな」


「まぁ、姉さんは普通にしてても一般人には見えませんがね」

ベルクがさきほど茶化されたお礼とばかりに茶化し返す。

「ベルク、あまり調子にのるとその首を飛ばすぞ」

今度は手我波子は笑ってなかった。どうやら本気のようだ。

「うへぇ、そいつは勘弁願いたい。悪い冗談じゃ、姉さん、後生だから許してくれ、このとおり」

手我波子はベルクを無視して七雲に告げた。

「明日、るーには私から報告しておく。るーから連絡がいくはずだから準備だけはしておくように。そうそう当然今夜のことは何も知らないふりをしておけよ、もし悟られでもしたら分かっているだろうな!」

最後の言葉には本気の殺意がこもっていた。七雲とベルクはひょっとしてこっちの方がよっぽど危険なんじゃないかという言葉をかろうじて飲み込んだ。


「それでは解散だ。るーと正太郎を頼むぞ」

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