第5話
(朱音はこの先を見たのだろうか?そして・・・そして私はいったい何者なんだろうか)
るーは、この夢を見たときは決まってブラックコーヒーを飲み、熱いシャワーを浴び、思案する。
(根本周平って言ったっけ。彼もあの生き残りだろうか)
るーも誰がいなくなり、誰が残ったか全体は把握していない。むしろ知っている者の方が少数だった。ただ例え知っていたとしても当時の面影が残っているかは疑問だったが。
(藤堂グループ、確かここ1年で急成長した企業だったはず。1年か・・・運命なんて後ろむきな言葉を使うつもりはないが、その1年に何か意図はあるのだろうか)
シャワーを浴び終えた、るーは髪をぐしゃぐしゃにかき乱しながら「あ~、もう全然わかんない。私はだいたい戦闘タイプで、おっさんもだ。ベルクにいたってはただのじいさんだし。この手駒で情報収集するなんて絶対無理。得意分野というよるむしろ苦手分野よね。しかもあの藤堂グループに入る込むなんて絶対できっこない。あ~ほんと無理。私たちだけでは既に詰みね、これは」
るーはひととおり愚痴を言った後少しだけ冷静さを取り戻し
「まぁ、そう私たちだけでは・・・だけど」
その言葉を言った、るーの表情は後ろめたさを感じつつもどこかうれしげな表情を浮かべていた。
その日の夜、るーは1人で繁華街をうろつきながら目的の人物を探していた。少し特殊な人物だが、るーの気の置けない数少ない一般人の友人の1人だった。
繁華街の外れに目的のものを見つけた、るーはおもむろに席に着いた。
そこは小さな簡易的な占い小屋だった。
ベニヤ板で屋根と壁だけ作られいつでもどこにでも移動出来る構造になっていた。そして占い師との間には古い布切れで仕切がされていて顔が見えないようになっていた。
占い師は客に気がつき
「いらっしゃいませ。占いは何がお望み?」
声から占い師は比較的若い女性だということがわかる。
るーは一言
「タロットで」
女性の占い師はさらに質問をしてきた。
「カードは?」
るーもさらに一言だけ告げた。
「愚者の逆位置」
そう告げた瞬間仕切の古い布切れが吹き飛ぶ勢いでめくられた。
「え~、ひょっとしてるーちゃん?やっぱりるーちゃんだ!久しぶりね。会いたかったわ。全然来てくれないんですもの」
「ねえね、ごめんね。私も会いたかったけど、なかなかね」
るーは、ねえねと呼ぶ女性に両手でごめんなさいのポーズをとった。
「何がなかなかねよ、あいかわらずかわいいんだから。理由なんて必要ないでしょ」
るーに、ねえねと呼ばれた女性の名前は手我波子、当然るーと姉妹なわけではなく職業は自称、正義のハッカー、まぁこの界隈の情報屋だった。占いはあくまで顧客へのカモフラージュのつもり、ようするにノリでやっているだけで本気で占いができるわけではなかった。もっともコンピュータ占いぐらいなら簡単にできそうなものだが。
「まぁ、でもそんな遠慮深いあなたが訪ねてきたってことは訳ありね」
「さすが、ねえね、話が早い!」
るーは事情を説明しようとしたが、手我波子はそれをさえぎり
「待って、この、占いお姉さまが当ててあげましょう。タイミング的に昨日の事件が関わっているわね。まぁ正確には事件にはなってないはずだけどね。ところであなた達また力を使ったの?」
るーは目を丸くしてあわてて答えた。
「どうしてわかったの!そんな、昨日のことはどこにもニュースになってないはずなのに」
「世間知らずの、るーに一つ教えといてあげるわね、ニュースなんてものは情報源とは言わないの。あれはただの暇人達の暇つぶし、単なる娯楽よ。生きた情報は自分の目と耳で見極めないとね。でもどうやらビンゴみたいね」
手我波子は、るーにウィンクしてから心の底からおかしそうに笑って見せた。
「それで、私に何をして欲しいの?」
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